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アンバース~強欲少女は琥珀と踊る~  作者: 篠木
強欲少女と琥珀の約束
6/11

05

「あんたは! 燃費が悪すぎるのよ!」

「仕方ないでしょう。銃を使いましたので。あ、ゼン様、私の分は大盛りでお願いします」

「無駄に弾使ったんじゃないでしょうね?! ゼン、こいつの分は大盛り二杯で予め用意しておいて!」

「そんなことがあると思いますか。あの程度のモンスター、一発必中で仕留めてますよ。ゼン様、冷めるので一回ごとで結構です」

「当然よ。レイルなんだからそのくらい出来て当然だわ。どうせ一瞬で無くなるんだから一杯も二杯変わらないわ! 二杯で!」

 ゼンが昼食を取れる場所を探している間にも二人の口論は続いている。入る隙間もどころか、相槌を打つ暇もなかった。

 褒めているのか貶してわからない上に、大盛り二杯。あくまで日帰りで行ける遺跡への距離だったので日持ちを考えないでいいものしか持ち込んでいないが最初から使用量は多いらしい。

 有難いことに食料はレイルの持つ収納袋(どうやらこれもアンバーらしい)に詰めてもらえたので、リサに言われていた通り食料をかなり多めには持ってきているが初回から使いすぎることは避けたい。足りなくなって帰りに困るというのはよくあるパターンだ。

「大盛り二杯だと俺達の分を合わせて六人前にはなりますが、多すぎませんか」

「五人前くらいでいいわよ。私はお腹空いていないもの」

「リサ様は少食なので、本当に必要ないのだと思います」

 横を向いてしまったリサの様子とレイルの顔を見比べて、ゼンもしぶしぶ頷いた。五人前でも十分多いと思うがとは流石に口に出せなかった。

 ちょうど昼前の時間帯だが腹が減っていないというのだから、用意しても仕方ないだろう。ただし、リサの腹事情はともかくとしてゼンが朝食を食べてからの時間を考えると、レイルの提案はタイミングばっちりだとも言えた。

 その上休憩をと言い出した距離は絶妙な地点だった。フィーズの遺跡はそれ程奥地にはないが、日当たりの影響か近くなれば湿地とまではいかないが湿度を帯びた地域になっている。休憩をとりやすい場所となればこの辺りでとるべきだった。

 収納袋から鍋を取り出している間に、レイルが石を組み上げて簡単なかまどを作ってくれている。薪にできる小枝でも取りに行こうかと思ったが、いつの間にかそれも用意されていた。

 そうこうするうちに彼はまた別のところから取り出した何かの道具でかまどに火をつけている。一体いくつの収納袋を持っているのだろう。いや、トレジャーハンターなので複数持っているのが普通なのかもしれない。羨ましい限りだ。

 準備の手慣れている様子もトレジャーハンターとしては普通なのかもしれないなとゼンは一人で納得していた。腹が減っているだけの可能性も捨てきれないが。

「昼食は何の予定ですか?」

「そうですね。風鳥のソテーとカボタのスープを。主食は米でいいんですよね?」

「えぇ、勿論!」

 普段ならこうした遠出の昼休憩で時間のかかる炊飯は無理だが、今回はトレジャーハンターから小型の蒸気釜を借りられるので可能だった。彼ら、というよりもレイルたっての希望もあるが、調味料も揃っている。

 そこまで揃っているというのにカボタの裏漉しが出来ないことだけが料理人としては残念だが、手間がかかりすぎるので仕方がない。ごろごろと形が残ったままのスープも美味しいですよね、と手伝ってくれているレイルが笑っているので問題ないだろう。

 レイルはこちらに来て何かと調理を手伝っているが、リサはというと近くの椅子に座ったままだ。あくまでこちらは依頼している身だ。手伝って欲しいという訳ではないが、少し気になる。

「リサ様はそのままでいいんですよ」

 どうにも自分は彼女を注視しすぎていたらしい。隣のレイルが蒸気釜の調節をしながら呟いた。

「ゼン様、こんなに料理をしていてモンスターどころか獣も近寄ってこないのおかしいと思いませんか」

「そういえば……」

 指摘されて周囲を見渡しても、気配は何一つ感じ取ることができない。風による葉擦れの音は聞こえるが、そこから何かが飛び出してくることはなかった。

 風鳥を焼き、米を炊き、カボタを煮込んでいるというのに。

 ゼンの鼻には調理中の食材達から立ち上る香りがしっかりと届いている。街で調理していても食欲をそそると言われる風鳥の香りがしているのに、人間より嗅覚が鋭敏な動物やモンスターが感じ取れないとは考えられない。

 ずっと手伝ってくれていたレイルを見ると、彼は眼鏡の奥の目を細めた。

「魔獣避けをはってくださってるんですよ」

 どこか誇らしげな響きに、ゼンは頷くだけで留めた。言葉に出すよりはきっと、同じく行動で示した方がいいのだろう。そう思った。


 出来上がった風鳥のソテー四枚と炊き上がったご飯大盛り二杯、それにカボタのスープは五杯程。レイルはそれをぺろりとたいらげていた。

 四人前程が入ったはずだというのに、彼の腹部は膨らんでいる様には見えなかった。多少ゆとりのあるコートを着ているとはいえ、あの量だ。

 多少なり膨らんだ胃袋が主張しそうなものなのに、先程までと何ら変わりない。

 一体どうなっているんだ。ゼンの疑問に答えてくれそうなリサは、レイルの食べっぷりを見て溜息を吐き出していた。日頃見慣れているのだろうが、呆れるものではあるらしい。

 そんな彼女は宣言通り、飲み物以外何もとっていなかった。やはりと思い、ゼンはリサの前へと近付く。

「リサさん、お腹がすいてないならフルーツだけでも召し上がってください」

 デザートとして出したフルーツの皿を差し出したが、リサは一度視線を向けただけだった。

「必要ないわ。とりすぎると動けなくなってしまうもの」

「このサイズですから。それに、この後いつ休めるかわかりませんよ。疲れている時には甘い物、といいますし」

 手袋で覆われたリサの手のひらにその半分ほどのサイズのフルーツを載せると、彼女は視線を数度さまよわせてにレイルを見たが彼は自分のフルーツの皿に夢中という振りをしていてリサを見ることはなかった。

 リサはどうもこちらに押し切られるとは思っていなかったらしく、困惑しているらしい。手の上の果物とレイル、そしてゼンとの間を視線がさまよっている。

 手軽にとれるものとして鳥のソテーを使ったサンドイッチくらいは用意しておくつもりだが、休憩にもなる様に少しでも口に含んでおいた方がいい。

 果物、ゼン、レイルと視線をさまよわせていたリサだったが、暫くして根負けしたらしい。少しためらった後、そのまま果実にかじりついた。

「……甘い」

 少し顔をほころばせた彼女の表情に「それはよかった」とゼンは微笑んだ。

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