次期国王の友
※今回はカミラの弟、ディートヘルム目線の話です。
もうすぐ新しい年が来る。
新しい年を迎えると共に戴冠式が行われ、私は正式にリーゼンブルグ王国の国王となる。
姉が魔王様の許へと嫁いだ後、実質的な国王として国の重要事項の決定に携わってきた。
宰相のトービルや近衛騎士のマグダロスなどに支えられ、大きな失敗もなく過ごしてこられたが、正直国王として独り立ちする自信はまだ無い。
先日起こった穴ウサギの大繁殖も、結局魔王様に頼り、解決してもらってしまった。
しかも、単純に穴ウサギが増殖した訳ではなく、由緒ある貴族ギレンセン伯爵が裏で糸を引いていた。
アルマンド・ギレンセンや、手下として使っていた裏社会の人間、そして巻き込まれた商会などの捕縛や処分の決定は私たちが行ったが、そこまでのお膳立ては全て魔王様が整えてくださった。
私がやった事と言えば、ギレンセン領まで出向いてアルマンドを糾弾しただけだ。
こんな事で、本当にリーゼンブルグ王国の国王が務まるのだろうか。
戴冠式の日程が近付くほどに、不安に押し潰されそうになる。
そもそも、私は国王になるはずではなかったのだ。
私は、リーゼンブルグ王国の第四王子として産まれた。
母はリーゼンブルグ王国の第三王妃ではあったが、実家は伯爵家で、派閥と呼べるような勢力を持っていなかった。
上に三人も兄がいて、しかも産まれたころから体が弱かった私は、王位継承争いの舞台に立つことすら無いと思われてきた。
私自身、あまり長くは生きられないと思っていたし、むしろ利発な姉カミラの方が、まだ国王になる可能性があると思っていた。
実際姉は、派閥争いにうつつを抜かし、国民の苦難に目を向けようともしなかった兄たちに代わって、なんとか国を立て直そうと奔走していた。
男勝りに剣を握り、鎧を身に付け、辺境の開拓地に王家の代官として赴任までした。
愚王と呼ばれた父、そして王位継承争いをしていた三人の兄は、アーブル・カルヴァインの策略によって命を落としてしまう。
そして、姉カミラさえも手籠めにされかけ、アーブルに国の実権を握られそうになった時、救いの手を差し伸べてくれたのが魔王様だった。
虚弱体質と思っていた私の体は、実は長年に渡って毒物を盛られていたからで、ボロボロだった私を治してくださったのも魔王様だった。
アーブルに国を乗っ取られかけた時も、バルシャニアに攻め込まれそうになった時も、リーゼンブルグ王国を守るために戦ってくれたのは魔王様だった。
私はただ、魔王様に守られていただけだった。
三人の兄が死に、幸運にも王位継承順位が上がったが、私は姉が女王として国を治めるのが良いと考えていた。
虚弱だったゆえに、社交の場にも殆ど出て来なかったから、国を支える貴族たちの顔もろくに知らない。
何度も姉に女王になってほしいと頼んだが、異世界召喚によって莫大な賠償金の支払い義務を負った責任を取って、自分は王にはならないと言われてしまった。
そして姉は、隣国ランズヘルト共和国のヴォルザードに暮らす魔王様に嫁いでしまった。
正直、国を背負う重責から解放され、一人の女性として幸せを求める姉が羨ましくて仕方なかった。
でも、リーゼンブルグ王国に居た頃には、鋭く厳めしかった姉の視線が、とても柔らかくなったのを見たら、文句など言えなかった。
「あぁ、出来ることなら逃げ出したい……」
通常、戴冠式には前国王と王妃が式を取り仕切るものらしいが、父は殺害され、母はアーブルに洗脳された状態で、とてもではないが参列できる状態ではない。
つまり、家族が誰もいない状態で、戴冠式に臨まなければならないのだ。
「私の正統性に疑問を持たれたら、何と言って納得させれば良いのだ……」
戴冠式には、国中の貴族が参列する予定だ。
その中には、私の国王としての正統性、つまり私が偽物ではないかと考えている者もいるらしい。
私が、前国王の息子である証を見せろと言われても、そのような物は持ち合わせていない。
魔王様の世界では、親子や家族であることを証明する方法があるそうだが、たとえその方法で父との親子関係を証明してても、未知の技術ゆえに納得されないだろう。
結局、国王としての実績を積み重ねていくことでしか、信頼は得られないのだろう。
「問題は、その実績なのだ……」
先日の穴ウサギの一件は、実績を積み重ねる絶好機でもあったのだが、結局魔王様に頼るしかなかった。
魔王様は眷属を手足のごとく操り、騒動の裏側まで探って、黒幕どもを白日の下に引き摺り出してしまった。
私は、騎士団を派遣するだけでも四苦八苦していたのだ。
騎士達は頑張ってくれたようだが、穴ウサギの駆除は間に合わず、被害を出してしまった。
「やはり私には荷が重い……」
全ての業務を終え、入浴も済ませて一人で寝室にいると、貴族たちに離反されて国が崩壊し、父と同様に愚王と呼ばれる最期を迎えるのでは……などと、悲観的な考えばかりが頭に浮かんできてしまう。
このところは、広いベッドに一人きりで、悶々と眠れぬ時間を過ごしている。
今夜も一人、頭を抱えて悲観的な考えを振り払おうとするが、なかなか上手くいかない。
そんな時に、ポフポフと肩を叩く者がいた。
「どうしたの……またトービルに怒られた?」
「フルト……?」
「うんうん、フルトだよ」
フルトは、リーゼルトが来る以前に、魔王様に護衛としてお借りしていたコボルト隊だ。
まだ国王としての仕事にも全然慣れていない頃で、宰相のトービルから手厳しい指導を受けて落ち込んでいると、ひょこっと現れて慰めてくれたのだ。
新コボルト隊として、各国の間の連絡を司るリーゼルトが来ると同時に、フルトは魔王様の許へと戻っていったのだ。
「遊びに来てくれたのか?」
「そうだよ。ディーはヘタレだから心配なんだよ」
フルトにポフポフと肩を叩かれていると、冷え切って、凍りついてしまうのではないかと感じていた心が、ポカポカと春の陽だまりのように暖かくなっていく。
「魔王様の仕事は大丈夫なのか?」
「わぅ、穴ウサギの件が終わったから、今は忙しくないよ」
「そうか、フルトも手伝ってくれていたのだな。ありがとう」
「うんうん、ディーはヘタレだから手伝ってあげないとね」
「ふふっ、そうなのか」
「そうなのだ」
またフルトはポフポフと私の肩を叩くと、撫でろとばかりにベッドに寝転がった。
魔王様がコボルトたちと戯れている時の様子を真似て、わしゃわしゃと撫でてやると、フルトは目を細めて尻尾をパタパタと振ってみせた。
「ところでフルト、ヘタレとは何なのだ?」
「ヘタレはヘタレだよ」
「誰が言ってたのだ?」
「ご主人様」
「魔王様が? 私をヘタレだと?」
「そうそう、ディーはヘタレだけど頑張ってるから手伝ってあげないと……って言ってた」
「魔王様が手伝ってくださるのか?」
「そうそう、ディーはヘタレだけど家族だからね」
「家族……」
そうだ、どうして忘れてしまっていたのだろう。
姉は嫁いでしまったけど、姉であることに変わりはない。
そして、姉を娶った魔王様は、私の義理の兄となったのだ。
魔王様は、私に手柄を譲ってくれたのではなく、家族として手を差し伸べてくれたのだ。
「魔王様は、これからも手伝ってくださるのか?」
「わふぅ、勿論だよ。ご主人様は、家族に優しいからね」
だから、お前は早く撫でろとばかりに、フルトはお腹を見せてくる。
何だか、国王としての実績とか、悩んでいたのが馬鹿らしくなってくる。
今夜は、思う存分フルトを撫でてやって、そして一緒に眠ってしまおう。
「しょうがないな、ディーはヘタレだからな」
「ふふっ、そうだな」





