年明けの予定
「それでね、アーブル・カルヴァインと同じ轍は踏まない……なんて豪語してたから、どんな大物なんだって思ってたら、めちゃくちゃ小物でガッカリだったよ」
「旦那様、悪事を働く者が大物では困ります」
「うっ、そうだよね……」
自宅に戻って、穴ウサギ騒動の顛末をカミラに話していたら、怒られちゃいました。
自分の生まれ育ったリーゼンブルグ王国の話だし、アーブル・カルヴァインには良い思い出が無いですもんね。
というか、近頃カミラは僕のことを旦那様って呼ぶようになったんですよ。
どこからか、日本の情報でも仕入れたんでしょうかね。
「それに、アルマンド・ギレンセンは、小物などではありません」
「そっか、曲がりなりにも伯爵だもんね」
「はい、ギレンセン伯爵家は、古くから続く名門としても知られております。そのギレンセン家が取り潰しとあっては、世の中に与える影響も少なくないはずです」
「やっぱり、名家が無くなるっていうのは大きな影響を及ぼすものなの?」
「勿論です。貴族が悪事を働けば、民衆からの支持を失います。アーブル・カルヴァインの騒動の影響が、ようやく薄れてきたというのに、名家の不祥事は民の気持ちを揺らがせます」
確かに、自分がリーゼンブルグ王国の国民だったら、今回の騒動の中身を知れば、ふざけるなって言っていたと思います。
名門貴族が、最悪の場合には多数の餓死者を出すことになっていたかもしれない事態を引き起こした。
しかも、その騒動の理由が金儲けだなんて、本当にふざけています。
「民衆の気持ちを考えるなら、ギレンセン家の一族郎党を処刑すべきです」
「それはさすがに……いや、生活に余裕が無い人だったら、それを望むんだろうね」
「生活に苦しむ民が少なくないことは、ラストックで見ていましたから……」
そうなんだよね、異世界から召喚された僕らにとっては、とんでもない王女だったけど、ラストックの民衆にとっては女神みたいな存在だったんだよね。
あの王家にあって、民衆に寄り添えていたのは素直に凄いと思います。
「ですが、貴族の立場では、一族郎党を根絶やしにするような処刑は受け入れられないでしょう」
「なので、今回の処刑ではなく貴族の身分を剥奪して、平民と同じ牢獄に入れるという措置は、落しどころとしては良かったように思います」
「なるほど……ディートヘルムとしては、相当思い悩んだ決断だったんだね」
「さぁ、それはどうか分かりません。宰相あたりの入れ知恵だと思いますよ」
「それでも、最終的な決断を下したのはディートヘルムなんじゃないの?」
「それは……そうだと思います」
「だったら、そこは評価してあげても良いんじゃない? よくやりました……てね」
「そうですね。後で手紙に書いておきます」
かつてのリーゼンブルグとヴォルザードでは、手紙を届けるだけでも命懸けの状況でしたが、今ならコボルト隊経由ですぐに届けられます。
ディートヘルムもお姉ちゃんから褒められれば嬉しいんじゃないですかね。
「ところで旦那様、今回の一件の報酬はどうなっていますか?」
「ぎっくぅ……報酬、報酬ね」
「まさか、無償とか言いませんよね?」
「言わない言わない、言いませんよ。ちゃんと報酬は貰う予定です」
というか、ベアトリーチェの影響を受けすぎじゃないかなぁ……。
「それで、報酬はいかほどですか?」
「報酬……えっとね、今回取り潰しになったギレンセン家から没収した財産……」
「丸々ですか?」
「いや、そこから今回穴ウサギの被害にあった領地に賠償金を支払って、その残りかなぁ……」
「はぁ……それでは殆どタダ働きになるのではありませんか?」
「うーん……どうだろう。あっ、そうそう、裏社会の連中の財産も没収するから、そこからも報酬は出る……はず」
「出るはず……では、出ないかもしれないのですよね?」
「いやぁ……どうなんだろうね」
「はぁ……そんな事では困ります。新しい年にはユイカにも、セラフィマにも子供が生まれるのですよ」
「はい……おっしゃる通りです」
唯香に続いて、セラフィマの懐妊も判明いたしました。
皆さん、聞いて下さい、これで暫しの間、うちのヨメからチッパイちゃんが居なくなるかもしれないんですよ。
いやいや、マノンも実に立派な胸で、コウタは母乳で育ててますよ。
今のところ、マノンのオッパイはコウタのもので……僕は、まぁ、ちょっとだけ……。
「旦那様、聞いていらっしゃいますか?」
「聞いてます、聞いてます、ちゃんと報酬を請求しろって話だよね」
「はぁ……国の運営に関わることで、旦那様に甘えすぎるなと、ディーには私から手紙で厳しく言っておきます」
おふぅ、ごめんよディートヘルム、褒められるはずがお小言になっちゃいそうだよ。
「でも、ほどほどにしておいてあげて、今後同じような事態が起こって、僕に頼るのが遅れて大きな被害が出たら困るからさ」
「ですが、国の運営は、その国の者達が背負うべき責任ですし……」
「まぁ、そうなんだけどさ、向き不向きはあるし、得意な分野でキッチリ成果を出せば良いんじゃないの?」
「はぁ……旦那様は甘すぎです」
「まぁまぁ、隣の国が傾いちゃうと、ヴォルザードの景気も悪くなっちゃうだろうし、みんなが幸せになるならば、僕は手を貸すのを惜しんだりしないよ」
風が吹けば桶屋が儲かるじゃないけれど、リーゼンブルグが栄えれば、ヴォルザードだって、バルシャニアだって良い影響を受けるでしょう。
逆にリーゼンブルグが傾けば、周りの国や都市も煽りを食らう事になります。
「仕方ありませんね。ディーには、ほどほどに請求をしておきます」
「ほどほどだからね、ほどほど……」
「ちゃんと心得ております」
まぁ、なんだかんだと言っても、カミラはディートヘルムには甘いから、大丈夫でしょう。
「でも、年越し前に騒動が片付いて、本当に良かったです」
「ギレンセン伯爵家に対する処分とかは、新年の挨拶で発表されるのかな?」
「いいえ、それよりも早く、年内に発表するはずです」
「新しい年は、希望に満ちた話で始まった方が良いもんね」
「その通りです。おそらく、新しい鉱山が本格的に操業する件を発表することになると思います」
「あぁ、そうか、旧カルヴァイン領の鉱山は崩落しちゃったからね。その奧の鉱山の本格稼働の目途が立ったんだね」
旧カルヴァイン領の鉱山は、アーブルの妄執によって崩落し、新しい鉱山は、アーブルに操られていたワーウルフの情報によって発見されました。
良くも悪くも、やはりあの土地にアーブルは縁があったんでしょうね。
まぁ、最後はダビーラ砂漠でキッチリ浄化してやりましたけどね。
「新年になったら、一度リーゼンブルグに帰る?」
「いえ、私はコクブ家に嫁いだ身ですし……」
「そんなに堅苦しく考えなくても良いんじゃない? アルダロスまで移動するのが面倒なら、ラストックの人々に顔を見せに行ってもいいし、なんなら送還術で送るよ」
「ラストック……そうですね、ラストックには帰ってみたいです」
「じゃあ、年が明けて、落ち着いた頃に行こう。僕が護衛を務めるからさ」
「そんな、もったいない」
「なんでさ、妻を守るのは夫の仕事でしょ」
「そうですが……よろしいのですか、旦那様はお忙しい身ですし」
「カミラの里帰りに同行する以上の仕事なんて、今のところ思い浮かばないけど」
「それでは、お願いしてもよろしいでしょうか?」
「うん、お願いされた」
新しい年の、新しい予定が一つできました。
楽しみな予定が増えるのは、嬉しいですよね。





