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ハズレ判定から始まったチート魔術士生活  作者: 篠浦 知螺


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断罪(後編)

「な、なぜですか……なぜ、ディートヘルム様が、そのような事をご存じなのです!」


 アルマンドはガタガタを震えながら、絞り出すようにディートヘルムへ問い掛けた。


「アルマンドよ、問い掛けているのは私だ。私の話は間違い無かったか、それとも間違いだったのか、どちらだ?」


 ディートヘルムは、まるで感情の籠っていない瞳でアルマンドを見据えながら、再び問い掛けた。


「ま……間違い……ございません」

「はぁぁ……」


 蚊の鳴くような声で、己の罪を認めたアルマンドに対して、ディートヘルムは大きな溜息をついた。


「残念だ……」

「申し訳……ございません……」

「由緒あるギレンセン家も今日限りか」


 ディートヘルムの言葉に、俯いていたアルマンドは跳ね起きるように顔を上げた。


「何を驚いている、許されるとでも思っていたのか?」

「あっ……うぅ……どうか、お許しを……」

「アルマンドよ」

「は、はい……」

「貴様のどこに許される要素があるというのだ?」

「そ、それは……」

「穴ウサギの駆除に失敗していれば、コルトーネ伯爵領に留まらず、周辺の領地にも多大な被害を出し、多くの民が飢え、命を落としていたかもしれんのだぞ!」


 淡々と話していたディートヘルムだったが、最後には語気を強め、怒りを露わにした。


「答えろ、アルマンド。貴様のどこに許される要素があるのだ?」

「ご、ございません……」

「ギレンセン家は取り潰し、財産は没収、領地は王家の預かりとする。アルマンド、貴様は貴族としての身分を剥奪したうえで投獄する」

「そっ、そんな……」

「楽に死ねるなどと思うな」

「あぁ……」


 アルマンドは、再びガックリと首を折って俯いた。

 身分を奪われて投獄される事は、公の場で処刑されるよりも貴族にとっては屈辱である。


 貴族よりも身分の低い平民の中でも、人として扱われない罪人になり、しかもその状況が長く続くのだ。

 アルマンドは、明日からの自分を想像して絶望した。


 だが、絶望はそれだけでは終わらない。


「そうだ、なぜ私が貴様の悪事を知っているのかと聞かれたな。逆に聞こう、本当になぜだか分からないのか?」


 改めて問われれば、アルマンドの脳裏には一人の人名が浮かんだ。


「ケント・コクブ様ですか?」

「その通りだ。貴様のことも、フィエルロ商会のことも、バルナベの組織も、全て調べ上げていらっしゃる。穴ウサギを三度目に放った後、影響が少なすぎると思わなかったか?」

「まさか……」

「それ以前の穴ウサギも、ケント様の助力があったからこそ、あの程度の被害で済んだのだ」

「そんな……」

「ケント様を恨むなど、筋違いだぞ。もし、あれ以上に被害が広がっていたら、貴様だけでなく、妻子もまとめて公開処刑せねばならんところだったのだぞ」

「では、妻と子供は」

「貴族の身分は剥奪する。他家の養子に入ることも許さぬが、命だけは助けてやる」

「ありがとうございます」


 アルマンドは頭を下げたが、養子縁組を禁じられた以上、妻子が貴族に戻る道は断たれたのだ。


「今、ケント様の眷属の協力を得て、バルナベの組織の摘発が行われている。通常、裏社会の組織を摘発する場合、抵抗する者は切り捨てるのが常識だが、今回は投降を呼び掛ける」

「なぜですか」

「決まっている、貴様と一緒に服役させるためだ」

「うっ……」


 実際、ディートヘルムと共に、ギレンセン家の居城へ乗り込んで来た騎士とは別に、裏組織の摘発に臨んだ一団がいた。

 総勢二百名の騎士達は、コボルト隊の誘導にしたがって、バルナベのアジトへ乗り込んでいた。


 投降すれば、公正な裁きを受けさせる。

 抵抗するならば、容赦なく斬り捨てる。


 逃亡する者は、追い掛けて、捕らえて、必ず報いを受けさせる。

 摘発に現れたのが、ギレンセン家の騎士ではなく、王国騎士だったこともあり、下っ端どもは次々に投降していった。


 王国騎士たちは、今回の摘発は麦価の操作に関するものだけで、その他の罪は問わないと宣言したために、組織の中では中堅クラスの構成員たちも次々に投降していった。

 組織の構成員の中には、穴ウサギの騒動に加わっていなかった者も多く、そうした者から投降した。


 相手がギレンセン家の騎士だったならば、最悪の場合、住民を巻き込めば逃亡できる余地があるし、他領で立て直すことも可能だが、王国騎士には通用しない。

 敵に回すには相手が悪く、その相手が譲歩してくれるならば、話に乗っておいた方が自分の身は守れる。


 バルナベのために体を張ろうという手下は、数えるほどしかいなかった。

 バルナベの用心棒ディウスは、最後まで抵抗の意思を示していたが、鞘から抜いた剣が鍔元からポッキリと折れているのを見て、投降した。


 バルナベの組織が制圧された知らせは、コボルト隊によって直ちにディートヘルムへと届けられた。


「喜べアルマンド、バルナベの組織の制圧が完了したぞ、長年に渡ってギレンセン領の民を苦しめてきた存在が消えるのだからな」


 民の前から姿を消したバルナベは、牢獄でアルマンドの前に姿を現すことになる。

 バルナベが牢獄の中で、どれほどの権力を維持できるかは不明だが、アルマンドに報復を行うことだけは確かだろう。


「ディートヘルム様……」

「なんだ、アルマンド」

「フィエルロ商会は、どうなるのでしょうか?」

「ほぉ、他者の心配をする余裕があるのか」

「いえ、そうではなく、我々と同様の処罰を受けるのかと思いまして……」

「フィエルロ商会への処分は……警告と罰金だ」

「はっ? 警告? 罰金?」


 アルマンドは、己が全てを失ったのだから、当然フィエルロ商会も全ての財産を没収されるものだと思っていた。

 ところが、実際には甘すぎると感じる処分のみだった。


「なぜです?」

「貴様の尻拭いをさせられていた者をそんなに罰したいのか?」


 ディートヘルムの口から、フィエルロ商会が自分の与り知らないところで身銭を切っていたと聞き、アルマンドはガックリと項垂れた。

 フィエルロ商会へは、今後同様の事案が発生した場合には、速やかに国へ届けるように指導がなされた。


「これで、この騒動は一件落着かな?」

『まだ、裁判が済んでおりませぬが、ほぼほぼ終わりですな』


 アルマンドとディートヘルムの対話をケントは影の空間でラインハルトと共に見守っていた。

 ディートヘルムからは、表に出てアルマンドに引導を渡してくれと頼まれたがケントは断った。


 手は貸すけれど、最終的な処分は最初からディートヘルムに任せるつもりだった。 


「ディートヘルムも貫禄出てきたんじゃない?」

『そうですな、まだまだケント様頼みなのが気になりますが、このまま成長していけば、良き王になるでしょうな』

「でないと、ヴォルザードも困るからね」

『そうですな』


 魔王と眷属のスケルトンは、アルマンドが拘束されたのを見届けると、ヴォルザードへと引き上げた。


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― 新着の感想 ―
「貫禄が出てきた」って言えるのはケントをちゃんと使い倒すようになってからじゃないかな。
ディートヘルムがケント頼みなのはそうだけど、偉そうなクラウスも同じくケント頼みなんだよなぁ
 江戸時代だと放火魔は、罪人たちからも憎まれたそうですけど。  魔物を利用・誘導するのって、こちらの世界ではどう扱われるんでしょう?  コミックでは口元を歪めていた、ディートハルトですけど。こちらで…
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