表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハズレ判定から始まったチート魔術士生活  作者: 篠浦 知螺


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

989/995

断罪(前編)

 新年まで、残りの日数も少なくなったある日のこと、王都アルダロスからリーゼンブルグ王国東部へと向かう街道の要衝フーブルにあるギレンセン伯爵の居城へ、王家から書状が届けられた。

 書状の内容は、年明け早々に行われる、ディートヘルム次期国王のヴォルザード訪問に関するものだった。


 訪問の下準備のために、王国騎士団の担当者が視察に訪れるので、本番に備えての打ち合わせを行うようにと指示が書かれていた。

 ギレンセン伯爵家の当主アルマンド・ギレンセンは、執事のマルシオから受け取った書状に目を通すと、面倒そうに顔を顰めてみせた。


「お飾りの国王が姉に甘えに行くために、また余計な出費をせねばならんのか」

「ですが、ヴォルザードへの訪問は、今後の交易拡大や魔王ケント・コクブへのご機嫌伺いも兼ねているのでしょう」

「ふんっ、その魔王もまた小僧なのだろう? あまり下手に出ても、付け上がるばかりではないのか?」

「これまでに漏れ伝わって来ている噂が事実であるとすれば、機嫌を損ねるのは得策ではないかと……」

「そもそも、たった一人の人間が、国をどうこう出来る訳でもなし、恐れすぎなのだ」


 アルマンドは、マルシオを相手に、散々王家に対する不満を口にした後、視察への対応を命じた。

 どうせ王家からの要請であれば断れるはずがないのだから、最初から粛々と物事を進めれば良いのに、一言どころか、二言も三言も愚痴らなければ気が済まないらしい。


 ただ、執事のマルシオも主の性格は把握しているので、そうした愚痴は全て聞き流すか、他人事と捉えるようにしている。

 そうでもなければ、ストレスが溜まり過ぎて、気鬱になりそうだからだ。


 アルマンドは、視察への対応を全てマルシオに任せて、自分は己の野望の実現に向けた行動に専念していた。

 だが、その表情はすぐれないことの方が多い。


 穴ウサギを使った小麦の価格吊り上げ工作は、想定したほどの効果を得られず、アルマンドは買い占めた小麦を売り抜けるようにフィエルロ商会へ命じた。

 指示を受けたフィエルロ商会は、命じられた通りに買い占めていた小麦を売り抜けた。


 利益は微々たるものだったが、それでも損をしなかったのだから、結果としては良かったのだとアルマンドは考えていた。

 アルマンドは、物事が自分の思い通りになるなどとは考えていない。


 むしろ、思い通りに運ばない方が多いと思っている。

 だが、小麦を売り抜けてから一週間ほど経つと、やはり冬撒き小麦の出来が当初の予想よりも悪くなるという噂が流れ、価格が急上昇したのだが、全ては後の祭りだった。


 売り抜けろと指示を出したのは自分なので、アルマンドは己の軽率さを悔いていた。

 なぜ、あと一週間我慢できなかったのか、そもそも、なぜ自分で小麦不作の噂を流さなかったのか。


 アルマンドは己の無能さを呪ったが、その程度の不幸は序章に過ぎなかった。

 王家の通達が届いてから三日後、王国騎士団の一行がギレンセン伯爵領に現れた。


 通達では、馬車が二台に騎士が十名のはずだったが、フールブルの街に現れた一団の総数は千人を超えていた。

 王家の旗を立て、磨き上げられた金属鎧を着込んだ一団は粛々と街道を進み、フールブルの街へと入った。


 街の入り口に居た衛士は、予定の人数を大きく超える一団に街への入場を拒絶しようとしたが、騎士から王国の方針に逆らうのかと問われてしまうと通さざるを得なかった。

 そもそも、千人の王国騎士団を数人の衛士だけで止められるはずがない。


 街の入り口では、緊迫した空気も感じられたが、街に入った王国騎士たちは、街の人ににこやかに手を振ったり、敬礼してみせたりして、パレードのようになった。

 娯楽の少ない世界だけに、街の人々に熱狂的に歓迎されながら、王国騎士団の一行はギレンセン家の居城へ到着した。


 街の人々は、なぜ王国騎士団がこれほどの人数で訪れているのかとか、何が起こるのかとか、詳しい事情は考えず、騎士達の友好的な態度を見て受け入れたが、城の衛士は違っていた。

 門を閉ざし、通達よりも遥かに大人数で訪れた理由を問い掛けた。


「ディートヘルム・リーゼンブルグ様のご訪問である。拒絶するのであれば、王国への反逆とみなす」

「し、暫し、お待ちを!」


 次期国王の訪問と聞いて、衛士は大急ぎで領主の判断を仰ぎに向かった。


「なんだと! ディートヘルムが来ているだと!」


 突然の訪問にアルマンドは困惑したが、次期国王を門の前で待たせ続ける訳にもいかず、城の中へと招き入れた。

 己の悪事が、既に知られているとは、露ほどにも考えていなかった。


 アルマンドは急いで身支度を整えると、城の玄関までディートヘルムを出迎えに向かった。

 急ぎ足で向かったものの、アルマンドが玄関に到着した時には、既に王家の馬車が停車していた。


 アルマンドが片膝をついて頭を下げると、馬車の扉が開いて一人の少年が降りてきた。

 その姿を見て、アルマンドは我が目を疑った。


 確かに、顔形はディートヘルムなのだが、体全体の雰囲気が大きく様変わりしていた。

 病弱な感じが消え、王族としての威厳すら感じられる。


 数か月前に会った時とは、まるで印象が違っていて、これならば、周囲の協力は必要であろうが、国王という地位に就いても大丈夫だと感じさせるほどの変貌ぶりだ。


「ようこそお越し下さいました、ディートヘルム様」


 ディートヘルムが開口一番に、どのような言葉を発するのか、アルマンドは楽しみになっていたが、返って来た言葉は全く予想していないものだった。


「アルマンド・ギレンセン、なぜ私が足を運んだのか分かるか?」


 友好的とは思えないディートヘルムの厳しい口調に、アルマンドは背筋にヒヤリとした物が走った気がした。

 頭に浮かんだ穴ウサギを使った小麦価格操作の計画は、結果こそ思わしくなかったが、どこからも発覚する恐れは無かったはずだ。


「い、いいえ……突然のご来訪に戸惑っております」

「そうか、ならばこれから、たっぷりと貴様のしでかした事について語ってきかせてやろう。さぁ、話の出来る場所に案内せよ。それと、くれぐれも無駄な足掻きはするなよ。人死にを出したくはないからな……」


 一言一言、噛んで言い含めるようなディートヘルムの言葉を聞き、その意味を理解すると、アルマンドの体はガタガタと震え出した。

 なまじ狡すっからい悪知恵が働くだけに、アルマンドは自分の悪事がバレた時の処遇についての知識も持ち合わせている。


 ディートヘルム自ら、これだけの戦力を率いて電撃的に訪問したのは、絶対に逃がさない、無駄な抵抗は許さないという意思の現れだとも理解した。

 来客用食堂で、テーブルを挟んでディートヘルムと対峙したアルマンドは、処刑を待つ罪人の気分だった。


 必死に頭を回転させて、言い逃れる道を探しているが、ディートヘルムがどこまで情報を把握しているのか分からない状態では、不用意な事は口に出来ない。

 アルマンドは、一つ大きく息を吐いてから話を切り出した。


「先程、ディートヘルム様は私のしでかした事と仰いましたが、何のことか心当たりがございません」

「あぁ、そのような無駄な足掻きはするな。ギレンセン家の秘術を悪用した小麦価格の引き上げについて、我々は全て把握している」

「なっ……なんの話でございましょう」


 アルマンドは、白を切り続けようとしたが、自分でも声が震えていることに気付いていた。


「貴様の書斎の書棚に置かれている羊皮紙に書かれた、ギレンセン家の先祖が残してくれた研究資料を悪用し、バルナベ率いる裏社会の連中に穴ウサギを異常繁殖させ、他領に放ち、冬蒔き小麦の畑に損害を与え、小麦の市場価格を吊り上げ、フィエルロ商会を通じて事前に買い付けておいた小麦を高値で売り捌こうと画策した……相違ないな?」


 アルマンドは、ディートヘルムの話を聞きながら、自分の足元が音を立てて崩れていくように感じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ディートヘルム、頼もしくなったな(*^^*) こういう物言いが似合う貫禄がついたようで何より。 病床時はラインハルトにケントの修道の相手にどっすか?などととんでもない提案をされていたほど、なよなよして…
久しぶりに本編が読めてうれしい
年末だろうがんんだろうが話の途中でぶった切られると誰こいつにしかならんのよ 劇中に現実の暦は関係ないんだから
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ