新春企画『ラスト・・・・』(後編)
〇古田達也の場合
勝負事は先手必勝である。
ラスト・モテない……なんて不名誉な称号を掛けての勝負には、絶対に負けることなど出来ないので、スタートと同時に俺は手を打った。
「俺はこっちへ行く、付いて来るなよ」
俺が街の中心部を指差して言うと、和樹のやつはまんまと引っ掛かった。
「俺はこっちだ、付いてくんなよな!」
誰が付いて行くものか、そっちは街の端、すぐに城壁に突き当たる。
そんなところに恋なんて転がってるはずが無いだろう。
いやいや、ゴブリンやオークとの恋ならば転がっているかもな。
さて、ラスト・モテないの称号を賭けての勝負だが、だからと言って地雷を踏む訳にはいかない。
というか、和樹の奴は最後の手段として金に物を言わせたり、不細工な女を一時的に彼女と偽ったりするかもしれない。
だが俺は、そんな和樹が血涙を流しながら地団太サンバを踊り狂うような良い女を見つけてやるつもりだ。
「美人なのは当たり前、腰がキューっと細くて、胸がドーンとデカくて、尻がプリっとしてる女じゃなきゃ駄目だよなぁ……」
道行く女性から氷のような視線が突き刺さって来る。
おっと、口から願望が、手振りを交えて洩れていたみたいだ……。
「やべぇ、やべぇ、願望は内に秘め、クールにいこうぜ、クールに……」
前から来た女性にニカっと笑いかけると、眉間に皺を寄せて二歩避けられてしまった。
ふん、悲しくなんかないぜ……慣れてるからな。
とは言え、街の中心部へと歩いてきたものの、見栄えの良い女を見つけることは出来ても、それを手に入れる方法が分からない。
てか、それが分かれば、こんなに苦労はしていないのだ。
「うーん……相良の店にでも行ってみるか」
同級生の相良貴子は、俺らと同じシェアハウスに暮らしながら、ヴォルザードのブティックで働いている。
異世界日本のファッションセンスを取り入れた服は、ヴォルザードの女性たちから熱狂的な支持を受けていて、相良はカリスマデザイナー的な存在になっているらしい。
「相良は好みじゃねぇけれど、コネを利用すれば良い女を捕まえられるんじゃねぇの? 俺、思いついちゃいましたか?」
思わずスキップしそうな軽い足取りで、相良が働いている店へと来てみたのだが、場違い感が想像を遥かに超えていた。
ここは渋谷か原宿かと思うほどの華やかさで、ムサい俺には絶対障壁を張られている感じがする。
そう言えば、近藤の同棲相手もここで働いていて、まだ同棲する前に迎えに行った時は、アウェイ感がハンパ無いと話していたっけ。
俺らの中では、日頃からキッチリしている近藤でさえアウェイと感じる場所に、なぜ俺が踏み入れるなんて考えたのか、数分前の俺をぶん殴りたくなった。
相良のコネ作戦は、早々に諦めて退散する。
「アウェイは駄目だな、アウェイは……でも、俺のホームってどこだ?」
俺の主戦場と考えたら、ギルド、酒場、娼館しか思いつかなかった。
娼館は論外として、ギルドも酒場も望み薄だ。
ギルドは金目当ての地雷女の巣窟で、酒場は色気とは無縁のオッサンばっかりだ。
日本に居た頃にドラマや映画で見た、男女の出会いを演出するようなアダルトなバーとか、いったい何処に存在しているのだろう。
「てか、そんなの俺のホームじゃねぇよな……」
このまま歩き続けていくと、それこそ娼館のある方に行ってしまいそうなので、立ち止まって考え込んでいたら声を掛けられた。
「おう、タツヤじゃないか」
「あぁ、おやっさん。どうしたの、こんな所で、まさか娼館帰り?」
声を掛けて来たのは、倉庫街で酒場をやってるオッサンだ。
「いや、こっちに新しい店を出したんだが……そうだ、お前、今暇か?」
「まぁ、暇って言えば暇だけど……」
「ちょっと知恵を貸してくれ」
「まぁ、いいけど……」
オッサンの酒場は、俺と和樹で炭火焼肉のアイデアを出してやって、それから大繁盛の人気店になっている。
行くたびに結構サービスしてもらっているので、頼られれば無碍にはできない。
「店を開けたのはいいんだけどよ、煙がよぉ……」
焼肉と煙は切っても切れない関係で、元の店は倉庫街にあるから、むしろ煙で人寄せをしてきたのだが、今度の場所は近隣から苦情が来ているらしい。
「店の表と裏を開けっぱなしにして、風が抜けるようにしてるんだけど、それだけだと煙が抜けきらなくてよ……」
隣は普通の居酒屋と串焼き屋で、そんなに匂いを気にする店にも思えないが、オッサンの店が繁盛しているのが気に入らないらしい。
「こりゃ、ダクト付けるしか無いっすね」
「ダクト? なんだそりゃ?」
俺がダクトの説明を始めようとしたら、店の奥から若い女が出てきた。
青みがかった金髪を短く切り揃え、女レスラーかと思うようなガチムチ体型で、背丈も俺と同じか少し高いぐらいだ。
顔は不細工ではないが、意思が強そうな顎をしていて目付きも鋭い。
俺の好みの綺麗系で艶っぽい女性とは対極の体育会系の女だ。
「店長、仕込みはどうしますか?」
「昨日と同じでいいぞ」
「でも、また苦情来ません?」
「来たって、止めたら商売になんねぇだろう」
「まぁ、そっすけどね。ところで、そちらは?」
「こいつはタツヤだ」
「あぁ、焼肉のアイデアをくれたっていう……コレットっす、よろしく」
コレットは、ニカっと人懐っこい笑みを浮かべて手を差し出した。
「タツヤだ、どうも……」
交わした握手は、思った以上に力強い。
「ふふーん、今、顔に似合わない可愛い名前だと思ったっしょ?」
「いや、そんな事……」
「そうっすか、私は自分じゃ笑いのネタみたいに似合ってないと思うっすけどね」
カラカラと笑うと、コレットは仕込みに戻っていった。
「がさつだろう? でも、あのくらいじゃないとナメられっし、商売になんねぇからな」
「なるほどね……んで、ダクトっすけど」
「おう、そうだったな」
日本の焼き肉屋がやっているような、卓ごとにダクトを付けて建物の上に排気する方法を提案した。
「なるほど……でも、それだけだと煙が流れないか?」
「だったら、ダクトの途中に魔道具仕込んで、風の流れを作ってやればいいっすよ」
「いや、ありがてぇ、これで苦情の問題も解決できそうだぜ」
「いやいや、俺はアイデア出すだけで、ダクトは作れないからね」
「なに言ってんだ、そのアイデアが大事なんだよ。いや、助かった、折角だから飲んでいけよ。俺の奢りだ」
「んじゃ、ゴチになりますか」
丁度開店時間になるので、今日最初の客として肉を焼き、飲み始めると、すぐに煙の匂いに誘われて、次々に客が入って来た。
「いらっしゃい! 何人様?」
「三人だ、コレットちゃん、今日も可愛いねぇ」
「はいはい、そういうお世辞は娼館のお姉さんに言ってね」
「おう、いいケツしてんなぁ」
「生憎と売り物じゃないよ」
常連は笑顔であしらい、尻を触る客は腹で撥ね跳ばす。
コレットは、テキパキとフロアを仕切っていた。
「タツヤさん、お代わりは?」
まだ大丈夫だと答えると、コレットは耳元で小声で囁いた。
「店長の奢りなんすから、ジャンジャン、食って飲んでしてやって下さいよ、その方が喜ぶっすよ」
「そっか、んじゃ、肉も酒もお代わり頼む」
「はいよ、まいどありー」
コレットに進められるままに酒を飲み、肉を食らい、いい感じに酔っぱらってしまった。
そして気が付いたら、見知らぬ部屋のベッドの上で、俺はコレットの隣で目を覚ました。





