騒動の裏に潜む者(後編)
ギレンセン領の領都フールブルは、王都と地方の都市を結ぶ街道の四差路を中心にして発展してきた街だそうです。
その四差路を見下ろす小高い丘の上に、ギレンセン家の居城があります。
ギレンセン家からの使者は馬に跨ると、坂道を下って街の中心部を目指しました。
街の中心部である四差路に面し、一番目立つ店構えがフィエルロ商会だそうです。
『この商会は、ワシらが生きていた頃から続いているようですな』
「ラインハルトたちが生きてた頃からじゃ、老舗中の老舗だね」
『そうですが、その老舗が悪事に手を貸すとは……嘆かわしい限りですな』
「うーん……でも、その悪事を主導しているのが領主だからねぇ」
『そうでしたな、領主から圧力を掛けられたのであれば、逆らうのは難しいかもしれませんな』
僕ら日本人とは違い、リーゼンブルグには厳然たる身分制度が存在しています。
魔王なんて呼ばれて、僕は結構好き勝手やっていますが、商会を営んでいる人では、なかなか領主に逆らうのは難しいのでしょう。
ギレンセン家からの使者は商会の裏門へと回ると、応対に出て来た者に横柄な口調で告げました。
「商会主は居るか?」
「はい、ご案内いたします」
ギレンセン家の使者は二十代半ばぐらいで、主家の威光を傘に着て、偉そうで感じが悪いですね。
一方、対応しているフィエルロ商会の使用人は、どうみても三十後半ですが腰が低く、使者を下にも置かないバカ丁寧な態度で接しています。
使用人の男性は、通用口から商会の内部へ入り、使者を奥まった部屋へと案内しました。
「旦那様、ギレンセン家の使者がお見えです」
使用人の声を聞いた商会主は、急いで席を立ち、自らドアを開けて使者を招き入れました。
年齢は五十代ぐらいでしょうか、クセの強い茶色の髪には白髪が混じっていますが、お腹もそんなに出ていませんし、動きも軽快です。
「これはこれは、ようこそいらっしゃいました」
「カンナベル、領主様のお言葉を伝える。心して聞け」
「ははぁ」
「売り抜けよと申していた」
「承りました」
使者の男は、アルマンドの言葉を伝えると、左の腰を不自然に突き出してみせました。
「ご苦労様でございました……」
商会主の男が、ポケットから取り出した小さな革袋を左の腰のポケットに入れると、使者の男はニチャァっと悪ーい笑みを浮かべて見せました。
「領主様に、よろしくお伝えくださいませ」
「よかろう、伝えておくぞ」
ニタニタと人相の悪い笑みを浮かべた使者を通用口まで見送った商会主のカンナベルは、使者の姿が見えなくなった途端、顔を歪めて唾を吐き出しました。
「世間知らずのガキが……あの領主にして、この使者ありだな」
カンナベルの言葉を聞いた商会の使用人たちは、一斉に苦笑いを浮かべました。
「ジャンニに書斎に来るように伝えておくれ」
「かしこまりました」
カンナベルは近くにいた使用人に命じると、書斎へと戻っていきました。
「ラインハルト、この商会はグルというよりも巻き込まれている感じじゃない?」
『そのようですな。これから始まるであろうジャンニとかいう男との話を聞けば、より商会の事情が明らかになるのではありませんか?』
「そうなんだろうね」」
カンナベルが書斎に戻って間もなく、小太りの男が姿を現しました。
年齢は三十代後半ぐらいで、ニコニコと愛想の良い笑みを浮かべています。
「お呼びでございましょうか、旦那様」
「世間知らずが売り抜けろと言ってきおったわい」
「それはそれは……当然大きな利益が出るものだと思い込んでいるのですね?」
「その通りだ、現状で売り抜けたとして、どの程度の利益が出る?」
「そうですねぇ……領主様の見込みの半分にも満たないでしょう」
「だろうな、半分どころか三分の一もいけば良い方だろう」
カンナベルは小さく首を横に振って、右手で額を押さえてみせました。
「いかがいたしますか?」
「いかがいたしますも何も、その価格で売り抜けるしか無かろう。これ以上待っていたところで、値上がりなど期待できぬぞ」
「そうでございますが、見込みが外れれば領主様のご機嫌が悪くなるのでは?」
「構わん。元より、うちの商売のやり方には反するものだ。それに、簡単に儲かるなどと思われてしまうと、今後が始末に負えなくなるぞ」
「そうでございますね。では、早期に売り捌くといたします」
ジャンニが頭を下げて退室しようとすると、カンナベルが呼び止めました。
「あぁ、ちょっと待て」
「何でございましょう」
「穴ウサギの被害にあった地域に売る場合は、提示された金額よりも安く売れ」
「他の地域には、いかがいたします?」
「他は提示された金額で構わん。被災した地域では、過剰に儲ける必要はない」
「承知いたしました」
「それと、うちの分の儲けは取るな。ハゲタカどもにくれてやれ」
「分かりました」
「面倒を掛けるが、よろしく頼むぞ」
「はい」
ジャンニが書斎を後にすると、カンナベルは大きな溜息をつきました。
そして、腕組みをして暫く考えに沈んでいたが、ピシャリと両手で顔を叩くと、机の上の書類仕事を再開しました。
「これは、完全に巻き込まれている側だね」
『そうですな、裏社会の連中だけで行っているならば、領主に報告して取り締まれば良いのでしょうが、取り締まる側の領主が主導しているのでは、頭を抱えたくもなりますな』
「これって、もし通報するとしたら、王家に伝えるしかないよね?」
『そうですが、現実的には難しいでしょうな。何よりも、領主が関わっているという明確な証拠がありませぬ』
確かに、さっきの使者も口頭で用件を伝えただけで、文章が残っていません。
僕らには日本から持ち込んだビデオカメラという記録装置がありますし、影の空間からの偵察という接近方法もありますが、これらを一般の人が揃えるのは不可能です。
明確な証拠も無しに領主を訴えれば、下手をすれば自分が処刑される側になり、店は潰され、使用人たちは路頭に迷うことになってしまいます。
そう考えると、フィエルロ商会としては従わざるを得ないのでしょう。
「なんかさぁ、裏社会の連中よりも質が悪くない?」
『その通りですぞ、権力者が悪事に手を染めることが、どれほど下々の者にとって苦しみとなるのか、今回はそれを良く表しておりますな』
「結局、今回の穴ウサギの騒動は、アルマンド・ギレンセンが主導して、バルナベが率いる反社組織が実行犯、フィエルロ商会が小麦の売買に巻き込まれたって図式で良いのかな?」
『それで間違いないと思いますぞ。こうした悪事は、内容を知っている人間が増えれば増えるほど露見しやすくなります。穴ウサギの入った箱を運搬した人間を殺したのも、そこから露見するのを恐れたからでしょうな』
僕の所で、穴ウサギを運ぶための箱を一つ保管していますが、その他の箱や運搬した人間は残っていません。
「それじゃあ、裏付けとなる証拠を揃えて、ディートヘルムに報告しようか」
『捕縛の手柄を譲られるのですか?』
「分からない。というか、アルマンドにはどんな処分が下されるの?」
『穴ウサギが更に繁殖を続けていたら、その被害は甚大なものになっていたでしょう。それを考えれば、アルマンド本人は処刑、ギレンセン家は取り潰しとなるでしょうな』
僕の眷属たちが頑張ってくれたおかげで、穴ウサギによる被害は限定的で済みました。
ですが、アルマンドが計画していたような被害が広がっていれば、リーゼンブルグという国が傾いていたかもしれません。
そういう意味では、反逆罪に問われても仕方ないと思います。
ではでは、〆の調査を済ませたら、王都アルダロスに向かいましょう。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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