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ハズレ判定から始まったチート魔術士生活  作者: 篠浦 知螺


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982/992

騒動の裏に潜む者(中編)

『ケント様、根が深い……』


 穴ウサギの騒動を調べているフレッドが途中経過を報告に来たのですが、かなり大掛かりな陰謀が進行しているようです。


「あの反社組織の初老のボスが全ての黒幕じゃないの?」

『違う……黒幕は、領主……』

「えっ、領主って、リーゼンブルグの貴族が関わっているってこと?」

『そう、ギレンセン伯爵家の当主、アルマンド・ギレンセンが黒幕……』


 フレッド、バステン、それにコボルト隊の調査によって、騒動の構造が徐々に明らかになってきたそうです。

 現時点で明らかになっているのは、全ての騒動を裏から指揮しているのがアルマンド・ギレンセンで、初老の男バルナベが率いる反社組織と、表向きは大店のフィエルロ商会が関わっているようです。


「ラインハルト、確かギレンセン家って、みんなが生きていた頃からあるんだよね?」

『そうですぞ、ワシらの頃でも由緒ある家でしたな』


 ラインハルトたちが生きていた頃は、まだリーゼンブルグとランズヘルトは一つの国でした。

 それから魔の森が出来て、国が二つに分かれて、激動の時代を経ても残っているのですから、歴史ある名家といっても過言ではないのでしょう。


「ラインハルト、結局、こいつらの目的は何なの? 何のために穴ウサギを大繁殖させる必要があったの?」

『金儲けですな』

「えっ? 金儲け?」


 てっきり国家転覆とか壮大な目標があるのかと思っていましたが、あまりにも俗物な目的に首をかしげてしまいましたが、フレッドもバステンも頷いています。


『そう、金が目的……』

「でも、バルナベが『我々はアーブル・カルヴァインの轍は踏まない……』とか、思わせぶりなことを言ってなかった?」

『言ってましたね。金の力で国を支配しようと考えているらしいですよ』


 確かにアーブル・カルヴァインは、カミラを自分の物にして、王位すら手に入れて、国の実権も握ろうとしていました。

 その結果として破滅への道を突き進んでしまったのですから、実権は王家に持たせたままで、経済的に国を支配するという考えは悪くないと思います。


 ただし、それが正当な方法で行われるならばですし、バステンが半笑いな感じからすると、計画は結構杜撰なようですね。


「でもさ、穴ウサギを大繁殖させるのと、金儲けはどう繋がっていくの?」

『小麦を買い占めているようです』

「あぁ、なるほど……」


 穴ウサギが大繁殖して、冬蒔き小麦に大きなダメージが発生すれば、必然的に小麦粉の値段が上昇します。

 まだ被害が発生していない安い時期に小麦粉を仕入れ、高くなったところで売りさばいて利ザヤを稼ごうという魂胆のようです。


『穴ウサギの被害に、政情不安も加われば、もっと小麦の値段が上がる……』

「そうか、だから貴族に対する不満を焚きつけていたのか」

『ただし、思っていたほど小麦の値段は上がっていないようです』


 これは、僕の眷属たちの働きのおかげで、穴ウサギが思ったほどは大量に繁殖しなかったからでしょう。

 フレッドが言うように政情不安が拡大していれば、小麦の値段は暴騰していたかもしれません。


『首謀者は、だいぶヤキモキしますよ』

「ほぅ、それはそれは、是非とも見学に行かないと……だよね?」

『是非……』


 バステンとフレッドの案内で向かった先は、アルマンド・ギレンセンの居城です。

 アルマンドは、書斎のような部屋で机に向かい、モノクルを掛けて書類を眺めていました。


 年齢は四十代前半だそうで、癖の強い焦げ茶色の髪と口髭を綺麗に整え、四角く張った顎が意思の強さを誇示しているようです。

 アルマンドが眺めているのは、小麦の取引価格のようで、苦虫を嚙み潰したような表情からも、想定しているほどの値上がりをしていないのでしょう。


 僕から見ると、彼は着実にアーブル・カルヴァインと同じ轍を踏み始めているように見えますね。

 アルマンドを観察していると、書斎のドアがノックされました。


「誰だ」

「マルシオにございます」

「入れ」

「失礼いたします」


 ドアを開けて入ってきたのは執事風の男で、年齢はアルマンドよりも年上に見えます。

 少し陰気そうに見えるのは、主が主導している悪事が思うように進んでいないからかもしれませんね。


「値上がり具合はどうだ?」

「かんばしくありません、先週と同じか、むしろ値下がりしております」

「そんな馬鹿な! それでは三度目の効果が全く出ていないではないか!」

「おっしゃる通りでございます。もしや、やったと言ってきましたが、実際にはやっていないのでは?」

「所詮はクズどもの集まりということか」

「ですから、私はあのような者たちを使うのは反対だと……」

「分かった、分かった、もうその話は分かった。クズにはクズなりの使い道がある。それに奴らの手綱を握っておかねば、領内で面倒事を起こされるからな」


 どうやら、このマルシオという執事は、バルナベが率いる反社組織との繋がりがお気に召さないようですね。


「ですが、あのような者たちにギレンセン伯爵家の秘術を教えてしまうなど、ご先祖様が……」

「くどいぞ、埃をかぶった研究成果なんぞ、使わなければ何の価値も無いのだ。それに、乱用すれば国が滅び、国が滅べば己らの儲けも無くなると釘を刺してある。それよりも、フィエルロ商会に使いを出して、売り抜けろと伝えておけ」

「かしこまりました」


 マルシオは、持参した紙の束をアルマンドに手渡すと、綺麗なお辞儀をして部屋から出ていきました。


『私が商会を探って来ましょう』


 バステンがフィエルロ商会の探索を買って出てくれました。

 アルマンドは手渡された紙の束をパラパラと捲って数字に目を通すと、ふーっと大きな溜息を洩らして机の上に放り出しました。


 モノクルを外し、目の間を摘むようにして揉むと、アルマンドは椅子から立って背後の書棚に歩み寄りました。


「ラインハルト、マルシオが言っていたギレンセン家の秘術って、まさか穴ウサギの繁殖方法?」

『そのまさかのようですな』


 書棚の戸を開けて、アルマンドは小ぶりのグラスに酒瓶の酒を注ぎ、くいっと一息で飲み干した後、古い羊皮紙の束を手に取りました。


『あの羊皮紙には、ギレンセン家が調べた穴ウサギの生態が書かれております』


 アルマンドたちが寝静まった後、ラインハルトたちが羊皮紙を確認した所、穴ウサギがどんな状態に置かれると大繁殖するのか、実験した結果が書かれていたそうです。

 それによると、穴ウサギを飢餓状態に置くと、繁殖行動が盛んになり、その時の繁殖行動で生まれた子供は短期間で繁殖できるように育ち、繁殖行動が盛んになるそうです。


 つまり穴ウサギは、飢えて死にそうになると、とにかく子供を残すように行動し、繁殖欲は食糧事情が改善された後も数世代続くので、その結果として大繁殖が起こるそうなのです。


「ということは、穴ウサギを捕まえてきて、飢餓状態で繁殖させ、それで生まれた子供をまた飢餓状態で繁殖させる……みたいな感じで増やしたのかな?」

『そうなのでしょうな。ですが、そもそものギレンセン家の研究は、いかにして穴ウサギの大繁殖を防ぐのかを目的に行われたものです。こやつは先祖の顔に泥を塗った愚か者ですぞ』


 ラインハルトが腹を立てているのは、生前に経験した穴ウサギの大繁殖で、一番酷い被害を受けたのがギレンセン家だったからだそうです。


『その時には、ギレンセン伯爵領では多くの餓死者が出ました。当然、リーゼンブルグ王家に支援を求めたのでしょうが、十分な支援は得られなかったのでしょう』

「だから、二度とそんな事態を招かないように、地道な研究を重ねたんだね」

『それを悪用するなんて許せない……』


 ラインハルトもフレッドも、アルマンドの愚行には腹を立てているようです。


「そうだね、今回の騒動で儲けたお金は、被害に遭った人たちへの賠償に使われるようにしないといけないね。その上で、ギレンセン家やフィエルロ商会からは、ガッチリ罰金の取り立てをしないと駄目でしょう」

『そうですな、証拠を揃えて、ディートヘルム殿に報告し、厳しい処分を下してもらいましょう』


 アルマンドの方は動きはなさそうなので、コボルト隊に監視を頼み、僕らはフィエルロ商会へ向かいました。


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― 新着の感想 ―
初回、2回目、3回目で状況への対処がそれぞれ違った描写されてて興味深い。同じ手口で3回目やっちゃうのも捕まった犯罪者にはありがちな事で妙にリアルwww
ウサギの魔物っていうより、モチーフは「飛蝗(群飛相化した害虫)」かな?
 間接的に100%死人が出ることやらかす、策士って“山賊”以下に感じますねw
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