騒動の裏に潜む者(前編)
僕の眷属にかかれば、穴ウサギを放している組織なんて簡単に見つかると思っていましたが、意外にも時間が掛かりました。
考えてみれば、穴ウサギの討伐には手を焼いていますが、放す方は一度で済んでしまうんですよね。
それも、何時どのタイミングで行われるのか、そもそもまだ行われるのかも分かっていませんでしたので、箱を担いでいる怪しい人物を探すと同時に、アジトの捜索も行っていました。
その結果、箱に穴ウサギを詰めて放しにいく人間を見つけたのと、アジトを発見したのはほぼ同時でした。
「フレッド、ここで穴ウサギを育てていたの?」
『間違いない……運び出す様子は撮影してある……』
どうやら、僕らがアジトを発見したのは、ギリギリのタイミングだったようです。
穴ウサギを繁殖させていたと思われるアジトは、山の中の洞窟に作られていて、今はもぬけの殻になっています。
確かに、獣を育てていた臭いは残っていますが、もう穴ウサギの姿もありません。
「ここに居た連中は?」
『コボルト隊が追跡中……』
「ここの他にもアジトがあるってことか」
『たぶん、ここは拠点の一つ……』
「そして、もう用済みだから放棄って感じかな?」
『そうだと思う……』
アジトの中に、物証となりそうな物は何一つ残されていません。
ただし、穴ウサギを箱に詰めて運び出す様子や、指示をしている人物はフレッドが撮影しておいてくれました。
タブレットで再生してみると、後ろ暗い反社組織が暗躍している感じです。
「この、いかにもって感じの人相が悪い奴が首謀者みたいだね」
『ここでは、ボスと呼ばれているけど、まだ他にも関係者が居るはず……』
ボスと呼ばれていた人物は、左の頬に剣で斬られたような傷が残っていて、目付きも悪く、堅気の人間には見えません。
『こいつは、結構ズル賢いと思う……』
「どうして?」
『まず、自分の名前を呼ばせない……それと、穴ウサギを放す目的も口にしない……』
確かに動画の中では、ボスと呼ばれた人物は穴ウサギを放す場所を指定するだけで、余計な話を殆どしていません。
そのため、このアジトを発見したものの、連中が何のために穴ウサギを放しているのか、その理由が分かりません。
「わふぅ! ご主人様、箱を運んだ奴らが集まってきたよ」
「あぁ、報酬の受け渡しだね。よし、見に行こうか」
穴ウサギを運んだ男たちは、アジトには戻らずに別の場所で報酬を受け取る手はずになっています。
その場所に、実行犯の男たちが集まってきたようです。
報告に現れたシルトと一緒に、報酬の受け渡し場所へと影の空間伝いで移動したのですが、そこで行われていたのは口封じでした。
アジトから穴ウサギ入りの木箱を背負って出発していった男は全部で五人、映像に残っていた姿はいずれも何か事情を抱えていそうな人物たちでした。
アジトは放棄するので、穴ウサギを放した後は別の場所で報酬を受け渡すという話を信じて、ノコノコと現れた男たちは、僕らが到着した時には全員殺されていました。
殺害を指示したのは、ボスと呼ばれていた人物のようで、実行したのは、その用心棒らしき二人の男のようです。
「バステン、こっちも撮影してある?」
『勿論です。一部始終を撮影していますよ』
報酬の受け渡し場所には、バステンが先に来て撮影をしていてくれました。
場所は広い畑の中にある物置小屋で、ボスと呼ばれている人物は穴ウサギを運んだ男たちを殺害させた後、顔を魔法で焼くように指示し、立ち去る時には小屋に火を放ちました。
「徹底してるね」
『そうですね。あと少し我々の発見が遅れていたら、穴ウサギを放した件は闇に葬られるところでした』
ちなみに、今回放された穴ウサギは、箱から逃げ出した直後に駆除してあります。
「あとは、こいつらの目的だね」
『はい、まだ裏がありそうです』
こいつらの目的どころか、こいつらの名前も素性も分かっていません。
ボスと呼ばれている男と用心棒二人は、途中で野営をしながら馬に乗って移動を続けていきます。
僕もバステンとフレッドに見張りを頼み、影の空間でネロに寄りかかって仮眠した後、追跡に加わりました。
翌日の午前中に、三人は大きな街に辿り着きました。
「ここは、なんて街なのかな?」
『我々の生きていた頃には、ギレンセン家が治めていたフールブルという街ですね』
フールブルは王都アルダロスと地方の都市を結ぶ街道の要衝で、古くから栄えている街だそうです。
三人が乗っていた馬は借り物のようで、馬を返した後は徒歩で移動をして、裏町にある建物へと入っていきました。
「お帰りなさいませ」
建物の中にいた若い男に挨拶をされている様子からすると、どうやらここが三人の本拠地のようです。
ボスとよばれていた男は二人を解放すると、一人で建物の奥へと入って行き、廊下の突き当りの部屋のドアをノックしました。
「ヘイグです、戻りました」
「おぉ、入ってくれ」
先回りして部屋の様子を覗くと、大きな机を前にして座っている初老の男と、もう一人こちらに背中を向けている男がいたのですが、バステンが中の様子を撮影しようとした途端、勢いよく振り返りました。
「誰だ!」
「どうした、ディウス」
「今、そちらから人の気配が……」
ディウスと呼ばれた男が振り返った瞬間、窓を閉めたので事なきを得ましたが、相当鋭敏な感覚の持ち主のようです。
年齢は三十代半ば、ゴリマッチョではありませんが、鍛え抜かれた体つきをしているように見えます。
今も剣の柄に手を添えて身構えていて、どことなくマスターレーゼの護衛ラウさんを思い起こさせます。
「気のせいではないのか、そちらは石積みの壁だぞ」
「だが、確かに……」
僕らは場所を移動して、ボスと呼ばれていたヘイグの居る方向から様子を窺うことにしました。
『ケント様、なんとか撮影します』
バステンは、ディウスの死角となる位置を探して、撮影を試みるようです。
「ヘイグ、依頼は全部終えたのか?」
「はい、予定通りに配達は終え、ゴミは始末いたしました」
「ご苦労だった、下がって休め」
「ありがとうございます」
「そうだ、オサナスに使いを出すように伝えてくれ」
「分かりました」
ヘイグが部屋から出た後、僕らは机の陰から中の様子を窺いました。
「どうした、ディウス。まだ気配がするか?」
「妙な感じはするが……気のせいかもしれぬ」
「周りは全て石組み、暖炉の煙突も人は通れぬ。ドア以外から入って来れるのは、幽霊ぐらいのものだろう」
「だが、魔王ケント・コクブは影に潜み、影を伝ってどこへでも現れると聞く」
「あぁ、それは情報が漏らし気取られた奴らが、自分らの間抜けさを棚に上げて、魔王の仕業と言い立てているだけだ」
「そうなのか?」
「考えてもみろ、この広い世界で、どれ程の人間が暮らしていると思う。その全てを把握するなど、神でもなければ出来ぬわ」
「なるほど……」
どうやら、この初老の男が組織の本当のボスで、ディウスという男が用心棒なのでしょう。
というか、僕の存在を警戒しているってことは、後ろめたい事をやっているんでしょうね。
「我々は、アーブル・カルヴァインの轍は踏まぬ。国を引っくり返して自分の物にしようなんて、愚か者のやる事だ」
「国を支配する気は無いと……」
「面倒事は他人に押し付け、実利だけを手にするのが頭の良い人間だ」
アーブル・カルヴァインなんて名前が出てくるとは、何やら大掛かりな事を企んでいるみたいですね。
それならば、後で自分の間抜けさを後悔させてあげましょう。





