ウサギ狩り(後編)
僕の眷属の力を持ってすれば、穴ウサギなんか簡単に一掃できる……なんて思っていましたが、どうもいつもと勝手が違うようです。
ヴォルザードに、ロックオーガの群れが押し寄せて来た時には、ラインハルト、バステン、フレッドの三人で一掃できました。
ロックオーガは体の表面が硬いため、剣や槍が通りにくく、討伐の難しい魔物ですが、ラインハルトたちの攻撃ならば通るし、的が大きいので外したり逃がしたりする心配もありません。
一方の穴ウサギは、倒すこと自体は難しくありませんが、臆病なので、仲間が悲鳴を上げた途端、一斉に逃げ出してしまいます。
ロックオーガのように、向かって来てくれるなら、力に物を言わせて叩き潰せば済みますが、バラバラの方向へ逃げる穴ウサギに、みんな手を焼いているようです。
一時間ほどラインハルトたちは奮戦を続け、相当数の穴ウサギを討伐しましたが、それ以上の数の穴ウサギに逃げられてしまったようです。
『ぐぬぬぬ……ケント様、夜の討伐では埒が開きませぬ』
「これだけ、みんなが苦労したのって、初めてじゃない?」
『そうですな、ケント様に忠告しておきながら、ワシらも穴ウサギを侮っていたようですな』
「そうだね。ちょっと作戦を練り直そう」
とりあえず、今夜討伐した穴ウサギの死骸は、トレントを使って砂漠の緑化実験をしている場所に肥料として撒くことにしました。
トレントの森は、暫く放置していた間に、元の倍以上の広さになっていました。
そこへ穴ウサギの死骸を撒いていくと……それまでは、ただの森に見えていましたが、ウネウネと地面が波打ち、触手のような根が死骸を捉え、地面に引きずり込んでいきます。
「うわっ、ちょっとキモいな」
『トレントは、普通の魔物と違って、丸かじりするよりも根から吸収することを好むようです』
以前、サンドリザードマンを捕食したのは、逃がさないための措置で、本来は植物同様に根から吸収するようです。
その方が、長く安定して栄養を吸収できるのでしょう。
「なるほど、御馳走が降ってきたから、とりあえず埋めておこうっていうのとは、ちょっと違うみたいだね」
穴ウサギの死骸が土の中に飲み込まれてしまうと、真夜中のトレントの森は、また静けさをとりもどしました。
さて、死骸の処理は終わったけれど、穴ウサギに対する根本的な対処方法を考えなければなりません。
「残りの穴ウサギは、どうやって討伐しようか?」
『巣穴から出て来る夜を狙いましたが、これが失敗でした』
通常、力の弱い生き物が集団で逃げる場合、一塊になって逃げるのが一般的です。
なので、上手く誘導してやれば、一網打尽にすることも可能です。
ところが、穴ウサギは逃亡する時、それぞれの個体が、好き勝手な方向へ逃げ出します。
そのため、討伐は一匹、また一匹という感じになってしまうそうです。
「でも、昼間に巣穴から追い出して討伐するなら、巣穴の出入り口を全部把握して待ち構えている必要があるんじゃないの?」
『ケント様が仰る通りですが、我々ならば巣穴の全体像を把握することも可能ですぞ』
「そうだけど、巣穴は一つじゃないよね? 全ての巣穴の全体像を把握するなんて無理ゲーじゃない?」
『そうですな、確かに効率という面では、あまり褒められたやり方ではありませぬな』
「だよね。ちょっと面倒だよね」
巣穴の全体図を把握して、追い出す出入口を決めて燻し出すという方法では、一般の人が行う討伐と同じです。
一つの巣でも、準備に時間が掛かりますし、それが幾つも有るとしたら、根本的な解決は難しいような気がします。
「何か、良い方法が無いか、ちょっと僕も考えてみるよ」
『我々も知恵を出しますので、よろしくお願いします』
ということで、一旦ヴォルザードの自宅に戻って、改めて作戦を立てることにしました。
自宅に戻ると、既に日付が変わっていたので、とりあえず風呂に入り、眠ってから考えましょう。
家の中は静まり返っていて、もうみんなベッドに入っているようです。
こうたは、ちゃんとオッパイ飲んだでしょうか。
「今夜の夜泣き当番は誰だっけかな……」
湯船で手足を伸ばして寛いでいると、マルトたちが、チラチラと影の空間から覗いてきます。
どうやら、穴ウサギの討伐が上手くいかなかったから、叱られるとでも思っているのでしょう。
「おいで、今日は上手くいかなかったけど、明日また頑張ればいいよ」
「わぅ、ごめんなさい、ご主人様」
「うちも、上手く出来なかった」
「うちも……」
「大丈夫だよ、ちゃんと作戦立てれば、あいつらを一網打尽にできるから」
「ホントに?」
「ホント、ホント、大丈夫だよ」
たぶん、匂いを辿れば巣穴は見つけられるでしょう。
問題は、見つけた巣穴にどう対処するかです。
「せっかく巣穴を見つけても、逃げられたら意味無いんだよなぁ……」
穴ウサギを討伐する手順を一から考えてみましたが、なかなか良いアイデアが出てきません。
結局、追い出した後の待ち伏せが上手くいくかどうかが、成功の鍵を握っているようです。
「うん、頭が働いていないから、一旦寝よう……」
これから誰かのベッドにお邪魔する訳にもいかず、大人しく一人で寝ようと思ったら、マルトたちが潜り込んできました。
「まぁ、こうなるよね。君らは何処にでも入り込めるんだから……」
あぁ、本当に頭が働いていなかったみたいです。
眷属たちの能力を考えれば、穴ウサギの巣の討伐なんて簡単じゃないですか。
いえいえ、今度は舐めてるつもりはありませんよ。
解決方法も見つかりましたし、今度こそ眠って、起きたらバリバリ働きましょう。
翌朝、家族全員が揃っての朝食の後、再度リーゼンブルグのコルトーネ伯爵領を訪れました。
『ケント様、どういたしますか?』
「日が昇って、穴ウサギどもは巣穴の中でグッスリ眠っているんだと思う。なので、巣穴を急襲して根絶やしにしてやろう」
『根絶やしには賛成ですが、急襲すれば、またバラバラに逃げられてしまうのではありませんか?』
「そうだね。なので、まずは巣穴を見つけよう。見つけるだけで、まだ仕掛けちゃ駄目だよ」
『了解ですぞ』
コボルト隊の能力を持ってすれば、穴ウサギの巣穴は簡単に見つけられました。
『ケント様、この後はどうされますか?』
「影の空間経由で、内部の状態を覗いてみよう」
穴ウサギの巣穴は、ウネウネと蛇行しながら、奥へ奥へと繋がっていて、途中に何ヶ所も枝分かれしていて、本当に複雑な構造になっていました。
「うわぁ、迷路みたいだよ」
『ケント様、奴らが固まっていますぞ』
「うん、お誂え向けだね」
巣穴に戻った穴ウサギたちは安心しきった様子で、広場のようになった場所で一塊になって眠っています。
また夜になるとゴソゴソと起き出して、農作物を荒らすつもりでしょうが、そうは問屋が卸しませんよ。
「じゃあ討伐を始めようか。ここの出入り口は、こっちと、あっちと、そっちの三ヶ所だけだよね?」
『なるほど、巣穴から追い出すのではなく、巣穴の中に閉じ込めて討伐するのですな』
「そうそう、普通の人は、こんなに狭い場所までは入って来られないけど、僕らなら影移動を使って気付かれずに接近できるし、逃げ場を塞ぐことも可能だよね」
『そうですな、奴らの厄介さばかりに目が行って、我々の強みを忘れておりました』
「それじゃあ、巣穴を探して討伐、討伐が終わったら巣穴は崩して埋めちゃって」
『了解ですぞ!』
昨夜の名誉挽回とばかりに、ラインハルトたちは勢い込んで出掛けていきました。
うん、これでこの周辺の穴ウサギは一掃できるんじゃないですかね。





