ウサギ狩り(前編)
我が家に待望の第一子、こうたが産まれて一週間が経ちました。
国分家は、こうた中心に回っていると言っても過言ではありません。
実は、こうたが産まれてくるまで、漠然とした不安に駆られていました。
それは、どうしても父さんから貰った手紙の内容を思い出してしまっていたからです。
ヴォルザードから日本に帰れると分かった当時、僕はクラスメイト達の手紙と共に、父さんに宛てて手紙を出しました。
こちらで起こった出来事や、出会った人々、そして育ててもらったお礼と自立して生きていくという決意を記した手紙です。
その返事として届いた父さんからの手紙は、ちょっとショッキングな内容でした。
父さんが母さんと結婚したのは、仕事をする上で世間体を整えるためだったそうです。
なので、母さんとの夫婦生活も夫婦を演じていただけで、実際には愛情を感じておらず、産まれて来た僕にも愛情を抱けなかったと書かれていました。
手紙を貰った時に、父さんとの思い出を振り返ってみると、その時になって初めて気付きましたが、目に見えない壁のようなものがあったように感じました。
金銭的には、不自由の無い生活を送らせて貰いましたが、一般的な家族としての愛情は注いでもらえませんでした。
なので、僕に子供が出来た時、僕は自分の子供をちゃんと愛してあげられるのか不安でした。
でも、実際にマノンの出産に立ち会って、本当に命懸けの苦しみの末に産まれた命を見て、僕は涙をこらえられませんでした。
それは理屈ではなくて、自分の全てを懸けてでも絶対に守るのだと、魂の奥底から感じたのです。
この一週間、邪魔者扱いされる時もありますが、殆どの時間をこうたと一緒に過ごしています。
たった一週間だけど……いや、一晩眠っている間にも、成長していると感じさせられます。
小さな手、ぷにぷにのほっぺ、天使のごとき表情……いや、この子はマジ天使だと思う。
たぶん、マノンに似てイケメンに育つだろうし、セラフィマやカミラから王族レベルの教育を受けて育ったら、女の子にモテすぎてしまうでしょう。
キチンと誠実な性格に育てないと、とんでもないチャラ男が爆誕してしまうかもしれません。
「やっぱり、ラインハルトに鍛えてもらった方が良いのかなぁ……即死じゃなければ僕が治せるし……でも、あんまり厳しいとストレス溜まってグレそうだし……」
などと、まだまだ先の話をグルグルと考えていたら、リーゼルトがひょっこり顔を出しました。
「わふぅ、ご主人様、ディートヘルムが頼みたい事があるんだって」
リーゼンブルグの王子ディートヘルムは、僕の奧さんカミラの弟です。
そのディートヘルムからの頼み事となると、リーゼンブルグまで行って来なければなりません。
当然、こうたの許を離れなければなりません。
「頼みたい事って、何だろう?」
「ウサギ狩りだって」
「ウサギ狩りぃ? そんなの自分たちで何とかしなよ」
僕に頼み事というから、グリフォンでも飛んできたのかと思いきや、ウサギ狩りとは拍子抜けです。
『いやいや、ケント様、これは放置すると危機的状況を迎えることになるやもしれませんぞ』
意外にも、ウサギ狩りの話にラインハルトが食いついてきました。
「いやいや、ウサギだよね? 危機的状況って……」
『ウサギといっても、種類は多岐にわたります。もし穴ウサギでしたら、かなりマズい状況に陥っているかもしれませんぞ』
「穴ウサギ?」
『左様、非常に繁殖力が強く、大発生すると農作物に大きな影響を及ぼしますぞ』
「そんなにヤバい奴なの?」
『畑一面の農作物を一晩で食いつくすと言われております」
「リーゼルト、もう被害が発生しているの?」
「わぅ、冬小麦の畑が更地になってる」
「えぇぇぇ! リーゼンブルグの騎士とか兵士とか冒険者は何してんだよ」
「わぅ、ウサギ狩りしてるけど、間に合わないみたい」
ラインハルトの話によれば、穴ウサギというのは獣ではなく魔物に分類されるそうです。
夜行性で、昼間は森や雑草の茂みに穴を掘って潜み、夜になると出てきて農作物などを食い荒らすそうです。
「捕まえるのは難しいの?」
『穴ウサギは、非常に土を掘るのに長けていて、一つの巣穴にはいくつもの出入口があり、煙で燻して追い出しても、捕まえるのは非常に難しいですな』
「放置したら、どうなる?」
『最悪の場合、多数の餓死者を出す飢饉が発生してもおかしくないですぞ』
「仕方ない……狩るか」
マノンとセラフィマに事情を説明して、リーゼンブルグの王都アルダロスへ向かいました。
アルダロスの王城では、ディートヘルム達が大きなテーブルの上に、リーゼンブルグの地図を広げて対策を検討しているようです。
ディートヘルムと共にテーブルを囲んでいるのは、宰相のトービル、近衛騎士のユルゲンとマグダロス、そしてグライスナー侯爵の姿もあります。
外に出る前に、影の空間から話し合いの様子を見守っていると、どうやら状況は思わしくないようです。
「コルトーネ領では、総面積の四割以上が被害にあっているという報告が届いております」
「その知らせが届いてから、どのぐらいの時間が経っている」
「およそ二日ほどかと……」
「それでは、今はもっと被害が増えているかもしれんのだな?」
「仰る通りです」
地図の上には、ルーレット賭博で使うチップのような赤い円盤が置かれています。
一枚なら一割、二枚なら二割の畑で被害が出ていると示しているようです。
「なるほど、こうして見ると、被害の多かった所から広がっているのが分かるね」
『そうですな、一番酷い地域では畑の半分以上が食い荒らされているようですな』
「ラインハルト、穴ウサギが川を越えてランズヘルト共和国に来る可能性はある?」
『可能性としては低いですが、全く無いとは言い切れませんぞ』
リーゼンブルグの東側には川が流れていて、魔の森との間を隔てている。
その川を越えられてしまえば、穴ウサギの大群がヴォルザードがあるランズヘルト共和国へ雪崩れ込んでくる事になるだろう。
それだけは、食い止めなければならない。
地図の状況を一通り頭に入れてから、声を掛けました。
「失礼するよ、僕に頼みたいことがあるって聞いて来たんだけど……」
テーブルから少し離れた場所に闇の盾を出して表に踏み出すと、ディートヘルムが早足で歩み寄ってきて跪きました。
「魔王様、お忙しいところを御足労いただき、まことにありがとう存じます」
「そういう大袈裟な挨拶は要らないから、状況を教えてくれるかな。結構、面倒なことになっているみたいだね」
「はい、初動が遅れた訳ではないのですが、穴ウサギの増え方が異常なのです」
最初に被害の報告があったのは、先程話題に上がっていたコルトーネ伯爵領だったそうです。
芽吹いてきていた冬小麦が食い荒らされているのを見つけた農民が、すぐに領主に報告を上げて対策に乗り出したそうなのですが、被害は拡大する一方だそうです。
「既に相当数の穴ウサギを駆除しているのですが、一向に数が減らないどころか増えているようにさえ見えます」
地図の前に立ち、自ら説明をかってでたディートヘルムは、以前に比べると線の細さが薄れ、体格も良くなってきているように見えます。
「この被害状況から見ると、どんどん範囲が広がっているように見えるけど」
「はい、穴ウサギは駆除が難しく、騎士団や冒険者が総出で対応にあたっていますが、奴らの繁殖速度に追いついていない感じです」
「これまでにも、穴ウサギが増えたことはあったんだよね?」
「はい、ございましたが、騎士団や冒険者が対応にあたれば、対処できていました」
穴ウサギの繁殖力が旺盛といっても、人海戦術で立ち向かえば普通であれば抑え込めるそうです。
「今回は異例ってこと?」
「はい、コルトーネ領での増え方が一向に収まらないので、他への影響も続いている感じです」
「僕への頼みは、その原因の調査と対処ってことかな?」
「仰る通りです。お願いできますでしょうか」
「分かった、引き受けるよ。放置すると、ランズヘルトにも影響が出かねないからね」
「よろしくお願いいたします」
「じゃあ……」
闇の盾に戻ろうとしたら、ディートヘルムに呼び止められました。
「あっ、魔王様!」
「何かな?」
「お子様の誕生、おめでとうございます。改めて、お祝いをさせていただきます」
「ありがとう、でも穴ウサギの件が片付いてからでいいからね」
「はい、よろしくお願いいたします」
さて、それでは眷属のみんなとウサギ狩りといきましょうかね。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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