未来に向けて(前編)
エルマネアの王城をドーンした翌日、バルシャニアに報告に出向きました。
今後の事も含めて色々と話をしたかったので、コンスタンさんの他に、第一皇子のグレゴリエさんにも同席してもらえるように頼みました。
「お忙しいところ、時間をいただき、ありがとうございます」
「なにを言うか、礼を言うのは我らの方だ。毎度、毎度、面倒事を押し付けてしまって申し訳ないと思っている」
会談の席には、グレゴリエさんだけでなく、内政を担当している第二皇子のヨシーエフさんも姿を見せています。
「体力バカの兄だけに任せておけぬからな」
「そういう事だから、構わんよな」
「ええ、問題ございません」
弟から体力バカ呼ばわりされても、嫌な顔するどころかニヤリと笑って見せるのだから、この兄弟は将来も上手く支えあっていくのでしょう。
「では、話を進めさせていただきます。皆さまの方でも情報収集をされていらっしゃると思いますが、結論から申し上げるとエルマネアによるキリア、ヨーゲセンへの侵攻作戦は打ち切られました」
「我々としては、ヨーゲセンへの侵攻が止まればそれで良かったのだが、キリアの領土も回復させたのは何か理由があるのか?」
バルシャニアでも情報を集めていると言っていましたが、何しろ事が起こってからバルシャニアにまで届くのに時間を要します。
キリア国内もそんな自由に移動はできないでしょうし、僕の眷属たちが集めてくる情報とは速度に違いがあり過ぎるのです。
「キリア国内の掌握を担当していたのが、元魔道具屋の成り上がりだったので、度を超えた圧政が行われていました」
「なんと……なぜエルマネアは、そんな人間にキリア統治を任せたのだ?」
「その理由を語るには、エルマネアの現国王バラズノフについても話す必要があります」
「エルマネアの王位継承は、揉め事も起こらずスムーズに行われたと聞いているが、何か問題でもあったのか?」
「バラズノフ自身に、運だけで王になった男という劣等感があったようです」
バルシャニアから見ると、エルマネアとはフェルシアーヌ、キリアと二つの国の向こう側で、それゆえに政治状況が詳しく伝わっていなかったようです。
「エルマネアについては、表面上は全く問題が起こっているように見えなかった。キリアが爆材を使ってヨーゲセンへの侵攻を始めた時も、巻き込まれず上手く立ち回っていると見ていたのだ」
コンスタンさんの話には、グレゴリエさんもヨシーエフさんも頷いている。
これはたぶん、バラズノフが上手くやったというよりも大臣達が結託して上手く乗り切ったというのが正しいのだろう。
「なるほど、なまじ上手くいって、それが自分の手柄ではないので余計に劣等感を募らせたのだろうな。それと、俺のように支えてくれるのが弟ではなく、赤の他人の大臣だったからだろう」
「だが、大臣の足を引っ張らずに、キリアとの難局を乗り切らせたのであれば、それだけでも有能だと私は思うけどな」
グレゴリエさんはバラズノフの立場で、ヨシーエフさんは大臣の立場でエルマネアの状況を見ているのだろう。
「バラズノフが劣等感に囚われている時に、その魔道具屋上がりの男が現れたのか?」
「はい、そのようです。バラズノフが魔筒の有用性を認め、国王の権利で増産を命じたようです」
「だとすれば、単なる愚か者ではなかったのではないか?」
「はい、僕もコンスタンさんと同意見です。自分の存在価値を認めさせるためだったとしても、魔筒や大魔筒の量産や戦術を整えさせ、キリアへの侵攻を命じたのは偶然だったとしても、ただの無能には出来る事ではないと思います」
これに関しては、グレゴリエさんもヨシーエフさんも同意見のようだ。
「問題は、占領後の杜撰な統治体制と、キリアの内情が安定しないうちにヨーゲセンにまで手を出した事でしょう」
「そうだな、国の規模を考えても、キリアだけなら統治は可能だっただろうが、ヨーゲセン全土まで統治するだけの能力がエルマネアにあったとは思えぬ」
「あのまま侵攻が続けば、泥沼の戦闘状況が続きそうだったので、元の国境線まで引かせましたが、この先も国境線付近での小競り合いが続く可能性があります」
「まぁ、実際に戦火を交えれば、はい今日からは仲良くしましょう……とは、ならんからな」
バルシャニアも隣国フェルシアーヌとの国境線では、長い間小競り合いが続いていました。
国同士の争いというよりも、バルシャニア側のムンギア、フェルシアーヌ側のヌオランネという部族間の争いでした。
今は争いは止んでいますが、それは僕や眷属たちの活躍の結果です。
爆材でドーンしたり、エリアヒールで木を強制的に成長させたり、フラムに火球を打ち上げさせたりして、争いの元となっている中州を聖地化して、無理やり争いを止めました。
それ以前は、所有権を争っていた中州を巡って、取った取られたを繰り返していたそうです。
そうした状況を長年にわたって見てきたコンスタンさんだけに、言葉には実感が籠っています。
そして、ここからが会談の本当の目的です。
「今回、僕の眷属が細工をして、エルマネアの魔筒や大魔筒を暴発させたり、盗み出したりしてきましたが、全ての魔筒と大魔筒を回収できた訳ではありません」
「では、また作られて、戦争に使われる可能性が高いということか?」
「はい、一応エルマネアには釘を刺してきましたが、なにも魔筒を手に入れるのはエルマネアだけとは限りません」
暴発して壊れた魔筒や大魔筒、使用済みの弾丸、薬莢などが残されていれば、それを手掛かり足掛かりにして、独自に魔筒を開発する可能性はキリアにもヨーゲセンにもあります。
そして、爆材を開発したキリアでは、当然火薬を使った銃や大砲が作られるのも時間の問題でしょう。
「その魔筒と爆材が一緒になるのは危険なのか?」
「めちゃくちゃ危険です。今回の騒動では、エルマネア国内で既に魔石不足が発生しつつありました。ですが、弾を発射するのに爆材が使われるようになれば、魔石不足を考慮しないで弾丸を製造できます」
すでに、エルマネアの魔筒では、薬莢と弾丸という形が出来上がっている。
当然、爆材こと火薬への転用も可能になるし、威力もどんどん上がっていくでしょう。
「その流れは止められないか……」
「難しいと思います。なので、これからどうすべきかを皆さんにも一緒に考えてもらいたいんです」
今後の魔筒の扱いや、エルマネア、キリア、ヨーゲセンの和平問題などは、僕個人の判断でどうこう出来る話ではありません。
なので、より当事者として距離が近いバルシャニアの皆さんにも考えてもらおうと思ったのです。
「グレゴリエ、どう思う?」
「バルシャニアの利益のみを考えるならば、ケントから鹵獲した魔筒を譲ってもらい、研究、改良、量産し、魔筒を含めた新しい戦術を構築すべきしょう」
「ヨシーエフはどうだ?」
「ケントの話を聞く限りでは、魔筒と爆材の組み合わせも研究し、他国よりも一歩先んじる必要があ
るでしょう」
二人の意見は国を預かる立場としては、当然と思えるものですが、それでは、果てしなき軍拡競争が始まってしまいそうな気がします。
「ケントとしては、各国が新しい兵器の開発競争をする事を懸念しているのだな?」
「はい、難しいのは重々承知していますが、出来る限り遅らせたいと思っています」
「ふぅむ……」
コンスタンさんは、腕組みをして考え込みました。
五分近く目を閉じて考えた後、コンスタンさんは小さく首を振って見せました。
「残念だが、我々にはそれを止める力は無い。あるとすれば、フェルシアーヌだが……難しいだろうな」
バルシャニア皇帝の力を以てしても、恒久的な平和の構築は難しいようです。





