表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハズレ判定から始まったチート魔術士生活  作者: 篠浦 知螺


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

921/967

宿泊所(中編)

 クラウスさんが、僕に宿泊所を作れと言ったのには理由があります。

 一つは、宿泊所を建てる野営地が、実質的に僕のものであるからです。


 元々、魔の森は通り抜けるだけでも命懸けの場所でした。

 そんな場所でも安心して夜を越せるための城郭を築き、街道を整備したのは僕です。


 ヴォルザードの守備隊、ラストックの騎士団を総動員しても、たぶん建設は出来なかったでしょう。

 その野営地に、僕の許可を取って宿泊所を建てるより、僕に丸投げするのが一番てっとり早い方法です。


 二つ目は、職人を送り込むのが大変だからでしょう。

 ヴォルザードやラストックに宿泊所を建設するならば、街で職人を集めれば良いですが、魔の森の真ん中では職人の集めようがありません。


 街中で職人を集めたとしても、野営地まで送り届けるのが大変です。

 送り届けたとしても、宿泊所を建設している間、寝泊まりする場所がありません。


 その点、僕や眷属のみんなは影移動で自由に行き来ができますから、宿泊所も不要です。

 三つ目の理由は、職人さんと同様に、資材を運搬する必要が無いことです。


 普通の職人さんに建設を頼むと、必要な資材の運搬に費用が掛かってしまいます。

 まぁ、資材の運搬だけ僕に依頼するという方法もありますが、丸投げしちゃった方が楽ですよね。


「という訳で、野営地に簡易宿泊施設を建設しちゃうよ。ラインハルト、現場監督をお願いね」

『ぶはははは、お任せ下さいケント様。まずは、建物の設計から取り掛かりますぞ』


 今回は、約百五十人が宿泊できる建物を二棟建設します。

 魔の森の中央にある野営地は、東西に延びる街道を挟んで南北に二ヶ所あるからです。


「一階に約五十人を収容するフロアを三つ重ねようと思ってるんだけど……」

『二段重ねの部屋を廊下に面して十五ずつ作れば、一階あたり六十人、三階建てで百八十人を収容できますな』

「大は小を兼ねるって言うし、そんな感じでいこうか」


 テーブルに広げた紙に、ザックリとした設計図を描き込んでいきます。

 カプセル式の居室の他に、階段やトイレなども必要です。


『トイレは、一階あたり最低でも五個、出発が近づくと混み合うでしょうから、余裕を持たせるなら倍ぐらいあっても良いかもしれませんな』

「それと水浴び場も作らないとだね」

『そちらは一ヶ所で数人が利用できるようにして、男女二ヶ所あれば良いでしょう』

「それか、男性用は各フロアに作って、女性用の出入り口は管理人の目の届くところにするのはどう?」

『そうですな、その方が不埒な考えをする輩を排除できますな』


 乗合馬車を利用する女性の割合は、たぶん一割以下でしょう。

 旅の恥はかき捨てとばかりに、女性に暴行しようなんて輩が現れないとも限りません。


 宿泊所は、詰所の隣に建てる予定ですから、守備隊員や騎士が常駐とまではいかなくても、目を光らせてもらえるでしょう。


「それじゃあ、一階の居室を少し減らして、二階、三階に振り分けよう」

『談話室のようなものは設けますか?』

「うーん……酒盛りを始められると、早く寝たい人の迷惑になりそうだし、飲食は外で済ませてもらおうよ」

『なるほど、あくまでも宿泊に特化するのですな?』

「うん、その方が良いと思う」


 野営地では、食い物や酒を提供する屋台が増えているそうです。

 宿泊所で飲食が出来ないならば、そうした屋台に金を落としてもらった方が経済が回りそうです。


「それじゃあ、設計はこんな感じで……」

『ケント様、今回は新しい建て方を試したいのですが』

「新しい建て方? 別に良いよ、強度が保てるなら」

『では、早速動くとしましょう』


 ラインハルトと一緒に向かった先は、魔の森の訓練場です。

 というか、最近は殆ど使っていなかったので、元訓練場という感じですね。


「あれっ、あれって日本の鉄筋だよね?」

『そうですぞ、今回の建物の骨組みに使います』


 そう言うと、ラインハルトはドンっと胸を叩いてみせました。

 いやいや、あなた骨組みしかないじゃないですか。


「なるほど、鉄筋コンクリート風に作るんだね」

『まぁ、当たらずとも遠からずですな』

「えっ、どういう意味? てか、あっちの山は砂だよね?」

『さよう、ダビーラ砂漠の砂ですぞ』

「あっちの灰色っぽい石は?」

『あれは、ラストックから川を下った先、海岸近くの崖から切り出してきた石を砕いた物や粘土などを混ぜて焼いた物ですな』


 そのほかにも、いくつか白っぽい塊やら砂利の山などがある。

 そして元訓練場には、まるで日本の基礎工事をするような穴が掘られ、コボルト隊が鉄筋を組んでいる。


「えっと……ラインハルト、これは基礎工事なのかな?」

『おっしゃる通り、基礎工事ですぞ』

「なんか、レーザーとか使って計測してない?」

『基礎の正確さは重要ですからな』


 正確さの重要性は分かるんだけど、みんな現代機器を使いこなしすぎじゃないかな。

 なんか、日本の工事現場に迷い込んだ気分です。


「ラインハルト、いつもの事ではあるけど、僕の出番無いよね?」

『とんでもございませんぞ、ケント様には闇属性のゴーレムを用意していただきます』

「闇属性のゴーレム……そうか、これを転送するのか」

『その通りですぞ。こちらで構築した骨格を野営地へ転送していただきます』

「骨格ってことは、上まで作っちゃうってこと?」

『そうですぞ』

「それなら、向こうで建てた方が良くない?」

『ケント様、突然建物が現れて、見る間に完成した方が見た者が驚きます。近頃、ヴォルザードの者どもは、ケント様の御威光を忘れがちですからな。度肝を抜いてやりましょう、ぶははは……』


 そりゃあ、いきなり三階建ての大きな建物が突然現れれば驚くだろうけど、僕の名前が話題にならなくなってるのは、ヴォルザードの人達が眷属のみんなの行動に慣れてきたからじゃないかな。

 この建物のことだって、一時的には話題になると思うけど、また魔物使いの眷属の仕業か……ぐらいに思われて、すぐに忘れられそうな気もするけどね。


 まるで早回しの映像を見ているように、瞬く間に基礎用の鉄筋が組み上がり、僕が用意したゴーレムが基礎の底に据え付けられると、コボルト隊とザーエ達が一緒に作業を始めました。

 灰色っぽい石みたいな物や白っぽい塊が土属性の魔法で砕かれ、ザーエたちが魔法で用意した水や積まれていた砂利と混ざって、鉄骨が組まれた溝の中へと注がれていきます。


 それは、まるで生コンが流し込まれていくようです。

 溝が混合物で埋め尽くされると、ゼータ達が周りから土属性の魔法を使い始め、モワっと湯気が立ち昇り始めました。


「なるほど、強制的に水を抜いて固めるんだね?」

『違いますぞ』

「えっ、違うの?」

『ケント様、コンクリートは水が抜けたら固まるのではなく、水と反応することで固まるのですぞ』

「えっ、そうなの? じゃあ、ゼータ達がやってるのは反応の促進?」

『その通りですぞ』


 なんと、ラインハルト達はネットを使って日本の建築技術を調べ、コンクリートについての実験を行っていたそうです。

 ゼータ達がグルっと一周作業を終えると、今度はコボルト隊も加わって何やら作業を行いました。


『では、地上部分の工事に取り掛かりますぞ』

「いやいや、待って待って、今さっきコンクリートを流し込んだばっかりじゃん」

『もうコンクリートとして硬化してますし、更に硬化の魔法を掛けてありますから、ちょっとやそっとでは壊れませんぞ』


 そう言うと、ラインハルトはサンプル用に取っておいた生コンとハンマーを差し出しました。

 触るとコンクリートのザラザラした感じではなく、まるで石のような手触りです。


 そして、ハンマーで叩いてみると、キンっと金属みたいな音がしました。

 これ、ヤバくない?


『厳選した材料を用いれば、ここまで硬化させられると分かりました。今回の建築は、そのデモンストレーションでもあるのですぞ』

「うわぁ、なんか凄いものが出来そうな気がする……」


 将来、僕の眷属達はバベルの塔とか建てちゃうんじゃないですかね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
通気口がタダの穴ならいびき対策は必要ですよね。
おいw 異世界と日本からの建築技術魔改造すなw
まぁもはや3つのしもべどころじゃないんですけどね…質も数も(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ