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ハズレ判定から始まったチート魔術士生活  作者: 篠浦 知螺


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縁談の実情

 クラウスさん、マリアンヌさん、アンジェお姉ちゃんを我が家に迎えて、夕食を囲みながら話し合った結果、クラウスさんに言われました。


「ケント、お前、ちょっと行って来い」


 まぁ、そうなりますよねぇ。

 いくら我が家で話し合ったところで、どこまで言っても推論でしかないですもんね。


 バルシャニアまで行ってくるのは良いとして、全体の夕食会が終わった後、和室に上がり込んで、良い酒があるんだろう、さっさと出せは無いんじゃないの。

 まぁ、出すんだけどね。


「はぁ……本来、縁談なんてものは、申し込む方も申し込まれる方も腹の探り合いだったりするんだが、さすがにバルシャニアは遠すぎるんだよな」

「でも、行商人から噂を拾ったりはしてるんですよね?」

「まぁな。ただ、最近はリーゼンブルグとの往来が頻繁になったせいなのか、確度の高い噂を持ってる奴が見つかりにくくてな」


 魔の森によって往来が難しかった頃は、行商人と言えば情報を持っているのが当たり前の状態だったそうです。

 行商人の方も、情報を聞かれるのが当たり前ぐらいの感じで、情報を取りそろえていたそうなんですが、最近は情報を持たない行商人が増えすぎているようです。


「というか、せっかくコボルト便がバルシャニアまで通じてるんだから、直接聞けば良いんじゃないですか?」

「まぁ、そうなんだが、文章を書くのが面倒だ」

「うわぁ……大事な娘の縁談なんですよ」

「大事な娘の縁談だからだ。中途半端な手応えで嫁に出したら後悔する」

「でも、僕が行ったところで、言い包められるだけかもしれませんよ」

「大事な家族の縁談なのにか?」

「えぇぇ……その言い方はズルくないですか? てか、送還術でバルシャニアまで送りますから、コンスタンさんと直接話せば良いんじゃないですか?」

「最終的にはそうなると思うが……まぁ、ちょっと行って様子を探ってこい」


 こうしたケースでは、むしろクラウスさんならば直接乗り込んで直談判すると思うのですが、何か考えでもあるんでしょうかね。

 クラウスさんとコンスタンさんは、僕とお嫁さんたちの結婚披露パーティーで顔を合わせています。


 僕の実の父さんや唯香の父親である唯生さんなどと一緒に、夜遅くまで酒を酌み交わしていましたから、遠慮する仲ではないはずです。

 元冒険者のクラウスさんと、脳筋タイプのコンスタンさんは相性も悪くないはずですし、実際、肩を組んで盛り上がっていたのを見ました。


 まぁ、僕としてもバルシャニアの状況は気になりますので、とりあえず行って話をしてみましょう。

 翌朝、バルシャニアの帝都グリャーエフへと向かいました。


 コンスタンさんに貸し出してあるバルルトを目印にして影移動すると、皇帝一家は朝食の最中でした。

 皇帝であるコンスタンさん、皇妃リサヴェータさん、話題の第一皇子グレゴリエ、内政担当の第二皇子ヨシーエフ、軍を補佐している第三皇子ニコラーエ、第四皇子のスタニエラ。


 一家勢揃いですが、どことなく食卓が暗く感じるのは気のせいでしょうか。

 朝食が終わり、お茶が配られ始めたところで、闇の盾を出して声を掛けながら表に出ました。


「おはようございます。僕にもお茶をいただけますか?」

「来たか、ケント」

「その口ぶりでは、待っていらしたみたいですね。お義父さん」

「どうせ、クラウスは自分では行かないと言ったのであろう」

「えっ、よく分かりましたね」

「ははっ、奴とは腹を割って飲み明かしたからな」


 コンスタンさんは自慢げに話した後で、リサヴェータさんにジロりと睨まれて首を竦めてみせました。


「さて、聞くまでもないと思うが、一応訪問の理由を聞いておこうか」

「はい、バルシャニア皇家からヴォルザード家に縁談の申し込みがあった理由を探って来いと言われてまかりこしました」

「まぁ、そうであろうな」

「率直に伺いますが、ボロフスカやムンギアと内乱になりそうなのですか?」

「率直に問われたから、率直に答えるが、いつもの事だ」

「えぇぇ……内乱の危機がいつもの事って……」

「まぁ、セラフィマが物心ついた頃からは、一度も内乱は起こっていないが、それとて、ほんの十数年の話だ」


 コンスタンさんはメチャクチャ物騒な話を平然と話し、聞いている他の家族も当然といった表情で聞いています。

 一人だけ、第四皇子のスタニエラだけは少し表情が硬く見えますね。


 たぶん、最後の内乱の時には、まだ物心がついたばかりだったのでしょう。


「それじゃあ、内乱は避けられない情勢なんですか?」

「それは向こう次第だ。こちらとしては、内乱なんぞやりたくはないからな」

「でも、そんな状況でヴォルザードから嫁を貰うんですか?」

「そんな状況だからこそだ」


 コンスタンさんの話によれば、バルシャニアの反体制部族はムンギア、ボロフスカ、カジミナの三部族が主だそうです。

 今後の国内安定を考えて、グレゴリエさんの嫁はボロフスカ族から貰う予定だったそうですが、ここにきて態度を硬化させているそうです。


「セラフィマの輿入れも無事に済み、次はグレゴリエに身を固めさせるつもりでいたのだが、肝心の婚儀の話が一向に進まなかった」


 コンスタンさんは具体的な婚儀の日取りを決めようとしていたそうですが、ボロフスカ側があれこれ理由を付けて協議に応じなかったそうです。

 そこで、期限を設定して、それまでに協議に応じないのであれば、婚約解消して他の部族との縁談を進めると通告したそうです。


「それで、ボロフスカは何と?」

「ご随意に……だとよ」


 コンスタンさんも不機嫌さを隠していないのですが、それ以上に無表情になったリサヴェータさんの方が怖かったです。


「ムンギアやカジミナ、その他の部族には声を掛けなかったんですか?」

「ボロフスカが断った時点で、他の部族は手を握りにくいものだ」

「そうなんですか? 僕から見れば皇家と結びつきを強くするチャンスに見えますけど」

「腹立たしいが、そこまで皇家が信頼されていないということだ」


 多くの部族は内乱など望んでいないそうですが、ボロフスカ、ムンギア、カジミナの三者が手を取り合い、そこにあといくつかの部族が手を貸せば状況は混沌とするらしいです。

 仮にボロフスカなどの反体制派が勝利すれば、内乱直前に手を貸した部族は戦後の立場が悪くなってしまうので、縁談を受けづらいようです。


「それじゃあ、アンジェリーナさんとの縁談は反体制派への牽制なんですね?」

「ぶっちゃけてしまえば、そうだ。アンジェリーナ嬢を嫁に迎えれば、バルシャニアの内乱にケントが介入するのをクラウスは止められなくなるだろう」

「いやいや、セラフィマの実家が危うくなれば、僕は手を貸しますよ」

「ケントはそう言うであろう。だが、クラウスは止めるだろう」

「いやいや、さすがにクラウスさんも止めませんよ」

「いいや、奴なら止める、なぜなら、内乱は魔物相手の戦いではなく、人と人が殺し合いをするのだからな」

「うっ……そうですね」


 ついギガースの時のようなつもりでいましたが、内乱は人が起こす騒乱です。

 僕自身の魔術や眷属達を使って脅しを掛けても抵抗を止めないならば、最終的には命を奪うしか無くなるかもしれません。


 確かに、魔物相手の戦場ならば、クラウスさんは僕を止めたりしないでしょう。

 でも、人と人が殺し合いをする戦場に僕を送る事には躊躇すると思います。


 ああ見えても、クラウスさんは優しいですからね。


「なるほど、この縁談は僕との繋がりを強めるのではなく、クラウスさんに覚悟を迫る縁談なんですか」

「勿論、それだけではない。セラフィマを通じてアンジェリーナ嬢の人となりを聞いているし、クラウスという人間を見極めた上での申し込みだ。というか、クラウスは全部承知していると思うぞ」

「えっ、でもバルシャニアからの書状には縁談を申し込むとしか……」

「クラウスが、詳しい状況を書かなければ分からないような愚物か?」

「うっ……そう言われれば、そうですよね」


 何だよ、昨晩うだうだと酒飲んで管を巻いていたのは、全部分かった上でのポーズだったのかよ。


「まぁ、分かっていても確かめずにはいられないのが人の親というものだがな」

「はぁ……なるほどねぇ。それで、内乱になりそうな確率は何割ぐらいなんですか?」

「分からん。未来の事など誰にも分からんが……どこぞのSランク冒険者が手を貸してくれるなら、大幅に確率を下げられるだろうな」

「そんな事を言われたら、手伝うしかないじゃないですか……」


 結局、僕は悪い大人達の手の平の上でコロコロ転がされる運命なんですかね。

 これはもう、アンジェお姉ちゃんにハグしてもらって良い子良い子してもらわないといけませんね。


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― 新着の感想 ―
ケントはすでに殺人はしてるけど基本的に死刑相当の極悪人だけだから 戦争に従軍するほとんどの兵士は断れば重罪となる徴兵によって強制的に戦わされる一般人なわけで、それを殺す事への忌避感はあるはず でも兵士…
アンジェお姉ちゃんはリーゼンブルグ王女の義理の姉ポジションでもありますからね。娶る理由はあるかと・・
ケントの力を借りるために相手国のトップの一人を妾で娶るの? 相手側に利がほぼない状態で反乱が発生した場合に助けに入らざるおえない人質よこせみたいな感じになってないか? 他が男兄弟しかいないなら有力貴族…
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