新コボルト隊
好評連載中コミカライズは明日更新予定です!
本日は、ヒュドラの討伐によって出来た池に来ています。
目的は、コボルトのスカウト……というか一回討伐しちゃうんですけどね。
『ケント様、コボルト隊を増員するのですか?』
「んー……増員といえば増員なんだけど、以前頼まれたまま忘れていた事があるんで、ちょっとその対応の為の要員って感じかな」
『それでは、なるべく活きの良さそうな個体を選びますか?』
「いや、眷属化して強化しちゃうから、普通でいいよ」
『では、何頭ぐらい仕留めますか?』
「とりあえず十頭。僕が光属性の攻撃魔法で仕留めるから、回収してもらえるかな?」
『了解ですぞ』
池の周囲には様々な魔物が暮らしていて、その中にはコボルトの群れもいます。
小さく開けた闇の盾から指先だけ出して、サクっとコボルトを討伐しました。
「八……九……これで十頭」
突然仲間が動かなくなったかと思うと、影の中へと引き込まれて消えていく。
半分ほどに数を減らしたコボルト達は、なにが起こったのかも理解出来ていないようです。
討伐した十頭のコボルトは、魔の森にある特訓場へと運んでもらいました。
久々に眷属化を行うので、ちょっと緊張しますねぇ。
特訓場に横たえられた十頭のコボルトに、魔力のリンクを繋ぐようにイメージしながら語りかけました。
「みんな、僕の家族になってくれるかな?」
ぐぐっと体から魔力が抜き取られる感覚がして、横たわっていたコボルト達が起き上がりました。
いつの間にか特訓場には、マルト達を始めとして手の空いているコボルト隊やゼータ達まで集まってきています。
目を覚ましたコボルト達は、少し不安そうに周りを見回しています。
「みんな僕の家族だよ。よろしくね」
「くぅーん……」
十頭のコボルト達は、鼻を鳴らしながら擦り寄ってきました。
「じゃあ、強化と魔法の付与もやっちゃおう」
魔石を用意して……なんて思う前に、コボルト隊が影の空間から取り出して配ってくれました。
輪になった十頭の中心で黒い靄に包まれながら、マルト達のように可愛さ重視の強化を行いました。
マルト達を眷属にしたのが、随分昔のように感じます。
というか、あの時は二回目に救出した同級生五十人をヴォルザードに連れて来た頃で、マルト達を眷属にして街に戻ったら鷹山がやらかしてたんだよね。
あのムカつく勇者もどきだった鷹山が、今や一児のパパだもんなぁ……おっといけない強化に集中しなくちゃね。
強化のための黒い靄が晴れると、可愛いバージョンの新たなコボルト隊が現れました。
「じゃあ、名前を付けていくよ。こちらから順番に、ヴォルルト、マールルト、バッケルト、レゼルト、ブラルト、リーベルト、フェアルト、エーデルト、リーゼルト、バルルトだよ。みんな、よろしくね」
「わふぅ! よろしくお願いします、御主人様」
「よし、おいで……おわぁぁぁ……」
まだ一回強化しただけですが、それでも十頭が一度にじゃれ付いて来ると凄い圧力です。
てか、マルト達まで混ざってるじゃん……おわぁぁぁ……。
「はぁ、はぁ、もう揉みくちゃだよ……アルト!」
「わふっ、お呼びですか、御主人様」
「新しいコボルト隊に、とりあえず通常任務を教えてもらえるかな?」
「わぅ、分かりました御主人様」
新たにコボルト隊に加わった十頭は、アルトに率いられて役割などの説明を受け始めました。
というか、マルト、ミルト、ムルトが腕組みして頷きながら見守っているのが微笑ましいですね。
『ケント様、何やら変わった名付けをしておられましたが、もしや地名が関係しておられますか?』
「さすがラインハルト、その通りだよ」
ヴォルルトはヴォルザード担当のコボルトで、マールルトはマールブルグ担当のコボルトという感じです。
『では、リーゼルトはリーゼンブルグ、バルルトはバルシャニアですかな?』
「そうだよ。ディートヘルムとカミラの所にはコボルト隊が付いているけど、再編する予定でいる」
『ケント様、レゼルトというのは?』
「うん、マスター・レーゼの担当をやってもらう。ある意味、七人の領主以上の権限を持ってる人だし、色々な動きの中心になる人だからね」
『つまりは、コボルトによる連絡体制を確立する訳ですな』
以前、マスター・レーゼから各都市間の連絡体制を築いてほしいという要望がありました。
闇ゴーレムとスマートフォンで通信体制を調える事も考えたのですが、なんというか異世界っぽく無いですよね。
個人的な趣味で申し訳ないですが、ここはやっぱり魔法を使った異世界っぽい通信手段にさせてもらいます。
今考えているシステムは、こんな感じです。
各領主や国の代表に、一頭ずつコボルトを派遣します。
そして、領主なり皇帝なり連絡業務を担当する者に、闇属性ゴーレムのペンダントを渡します。
このペンダントが、各地への連絡先となります。
それと同時に、配達に出たコボルトが戻るための目印にもなります。
たとえば、ヴォルザードからエーデリッヒに連絡をする場合には、ヴォルルトがエーデリッヒの闇ゴーレムを目指して影移動して、連絡を終えたらヴォルザードの闇ゴーレムを目印にして帰還するのです。
『なるほど、間違う恐れのある内容は文書などで伝え、簡単な内容であればコボルト達に伝言させても良いという事ですな?』
「その通り。悪くないでしょ?」
『そうですな、難があるとするなら、ケント様頼みの仕組みである事ぐらいでしょうか』
「でもまぁ、僕が世を去るまでには、誰かが別の方法を考え出すんじゃない?」
『ふむ、かもしれませんな』
正直、通信のインフラ整備とか、一介の冒険者が心配することじゃないでしょ。
それでも、ジョベートが海賊に襲われた時のような緊急事態が起こった場合に、せめて僕の所に情報が届けば、少しは力になれるはずです。
ついでに、僕への指名依頼で稼がせて貰えるかもしれませんしね。
「さて、ヴォルルト達の教育をアルトに頼んでいる間に、行きたい所があるんだ。ラインハルト、フェアリンゲンとリーベンシュタインに行ったことある?」
『ございますぞ。フェアリンゲンは綿花の栽培が行われていて、繊維産業が盛んな領地です。リーベンシュタインは穀倉地帯として知られていて、ヴォルザードに輸入される小麦粉の殆どはリーベンシュタイン産のはずですぞ』
これまでにも、あちこちの領地へ足を伸ばして来ましたが、まだフェアリンゲンとリーベンシュタインは訪れていません。
フェアリンゲンの領主ブロッホさんとは、ブライヒベルグで行われたクラーケンの魔石のオークションの時に少し話をしましたが、リーベンシュタインの領主アロイジアさんとはイロスーン大森林の対応について領主会議が行われた時に会っただけです。
今後、新たなコボルト隊による連絡体制を築くには、直接会って説明をする必要もあるでしょうし、なによりも僕がランズヘルト共和国の主要都市へはラインハルトの案内無しで行けるようにしておきたいと思っています。
『では、ケント様。どちらから参られますか?』
「フェアリンゲンを先にしてもらえるかな」
『了解ですぞ、では参りましょう』
フェアリンゲンは、ランズヘルト共和国の東側に位置し、北は高い山脈、東がエーデリッヒ、南がリーベンシュタイン、西がブライヒベルグになります。
『北の山脈沿いに森がありますが、魔の森ほど魔物は多くありませぬ』
「じゃあ、比較的安全な土地なんだね」
フェアリンゲンの街は、なだらかな丘陵地に築かれていました。
街の東側を流れる川は、途中で東に向きを変えてエーデリッヒへと流れていくそうです。
『エルロワーヌ川は、ジョベートの北まで流れ、断崖から滝となって海に注いでいます』
「なるほど、直接海には出られないから、途中から陸路でジョベートまで運ぶんだね」
『その通りです。直接海に出られれば、今よりももっと交易が盛んになっているでしょうな』
クラーケン騒動の時も、フェアリンゲンの領主ブロッホさんは、エーデリッヒの領主アルナートさんと水面下で手を結んでいました。
理由は勿論、シャルターン王国との交易を再開したかったからです。
「あれっ? そうなると、シャルターン王国の現状って、フェアリンゲンにとっては良い状況なのかな? それとも悪い状況なのかな?」
『さて、それはブロッホ殿に聞いてみなければ分りませんな。内乱によって物資が欠乏すれば物が高く売れますが、物資を買う資金すら底を尽けば逆に値崩れを起こします』
「とりあえず、領主の館に行ってみようか」
領主の館は、丘陵地に作られた街の一番上にありました。
街の一番下から上がって行くと、かなりの距離になりそうですが、僕らは影移動なので一瞬です。
怪しまれないように離れた場所で表に出てから歩み寄り、門を守る衛士さんに声を掛けました。
「こんにちは、こちらは領主様のお屋敷でしょうか?」
「あぁ、そうだが何か用かい?」
「僕はヴォルザードのSランク冒険者のケント・コクブと申します。ブロッホ様は御在宅でしょうか?」
「なっ……ケント・コクブ? 本物なのか?」
「はい、ギルドカードです」
今日は、こうした訪問を予定していたので、いつもよりも小綺麗な格好をしてきたのですが、それでもすぐには信じてもらえないようです。
衛士さんは、ギルドカードと僕の顔を何度も見較べた後で、ようやく納得したようです。
「失礼した。ブロッホさまは、この時間はギルドの執務室にいらっしゃるはずだが、行ってもすぐに会えるとは限らないぞ」
「そうですか……分かりました、ギルドに出向いて御都合を伺ってみます」
正体も明かしましたし時間を節約するために、衛士さんに会釈した後で闇の盾を出して影に潜りました。
「ラインハルト、ギルドに案内して」
『了解ですぞ、こちらへ……』
人目に付かない廊下で表に出てカウンターへと向かうと、昼前の時間なのに随分と騒がしい気がします。
それともフェアリンゲンのギルドは、このくらいの時間が混雑するのでしょうか。
カウンター前に多くの人がいますが、どうやら情報交換が目的のようで、窓口に並んでいる人は数えるほどでした。
あぁ、ちょっと綺麗なお姉さんが暇そうにしてる……けど行かないよ。
僕も学習してますから、ここは隣のしょぼくれたオッサンに頼みましょう。
「こんにちは」
「なんだ坊主、なにか用か?」
「えっと、こちらに領主のブロッホ様がいらっしゃるとお屋敷で伺いまして、可能であればお会いしたいのですが……」
「はぁ? 領主様がお前みたいな子供に会う訳ないだろう」
「あっ、僕はヴォルザードの冒険者でケント・コクブといいます」
ギルドカードをカウンターに出した途端、受付のオッサンは鋭く舌打ちしてみせました。
「ちっ、このクソガキが、ギルドカードの偽造は重罪だと学校で習わなかったのか?」
「いやいや、偽造なんてしてませんよ、正真正銘本物のギルドカードです。というか、ギルドの機械を通せば本物か偽物かわかるでしょう」
「馬鹿が……こんな物が、本物かよ……」
ギルドの機械を使ってカードを照会すると、オッサンの顔からみるみる血の気が引いていきました。
「ブロッホさんの都合が悪ければ、指定の時間に出直して来ますから、御都合だけでも聞いてもらえませんか?」
「わ、わかった……ちょっと待っていてくれ」
小走りでカウンターを離れたオッサンは、暫くして領主のブロッホさんと一緒に戻ってきました。
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