表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/952

闇夜の死霊術士

 木の実の食事を終えた頃には、日が傾いて来て、また森に夜が訪れます。

 一瞬、昨晩ゴブリンに襲われた恐怖が頭をよぎりますが、今夜は心強い護衛が三人も居るから大丈夫ですよ。


「そう言えば、みんなは眠たくならないの?」

『ワシらはアンデッドの魔物ですから、睡眠も食事も必要ありませんな』

「そうか……この後、倒した魔物の魔石を取り込んでいったら、みんなは更に強化されるのかな?」

『そうですな、おそらくそうなるはずです』

「なるほど、だとすれば、積極的に魔物を狩って、みんなに魔石を取り込ませれば、更に戦力を強化出来るって事か……」


 この先どんな事態に巻き込まれて、どうすれば元の世界に戻れるのかも分からないので、戦力強化が出来るなら、やっておいて損はないはずだよね。

 そんな事を考えているうちに、日は傾き、そして沈んでいきました。

 すると、昨日の晩と違って、まだ月が昇って来ないので、満天の星空が堪能できましたね。

 こっちの世界にも銀河があるんだろうね、天の川が流れています。

 暫しの間、星空を楽しんだ後で、僕は異変に気付きました。


「あれ? 月が出ていないのに、何でこんなに明るいの?」

『ケント様、周囲の風景は、どう見えていますかな?』

「えっと……曇った日の昼間、みたいな感じかな……」

『どうやらケント様は、闇属性の魔法を使うのに慣れてきたお陰で、夜目が利くようになったようですな』

「えっ? そうなの? もしかして、ここは真っ暗なの?」

『身体強化の魔法を目に集中すれば、何とか見えるでしょうが、普通の人間では伸ばした自分の手の先が、ようやく見えるか見えないかという暗さです』


 おぅ、素晴らしきかな闇属性、昨夜は月が出ていて、ようやくゴブリンの姿が見えたぐらいだったけど、今は月の光も無しで森を見渡す事が出来ている。

 てかさ、星が綺麗に見られるのに、暗闇も見えちゃうなんて高性能すぎじゃね?

 そして、物陰に隠れながら、近付いてくるゴブリンの姿が目に入って来ました。


「どうやら、お客さんが来たみたいだね」

『ほほう、さすがはケント様、この暗さでも見えていらっしゃるとは』

「うん、どうやら闇属性の魔術士にとっては、夜の闇はアドバンテージになるみたいだよ、何だか身体の奥から力が湧いてくる気がする」

『ふっふっふっ、ですがケント様、我々の仕事は取らないで下さいよ』

「分かったよ、でも、ラインハルトと、バステンは待機ね、二人だとゴブリンの魔石まで粉々にしそうだからね」

『ぐぅ、そんな殺生な……』

『我々も、この力を……』

「ちゃんと調整できるようになるまでは駄目だからね、じゃあ、フレッド、さくっと倒して魔石回収お願いね」

『心得ました……』


 凶悪なスケルトンが二体、歯噛みして悔しがっている姿は、なかなかにシュールです。

 そして、その間に、もう一体のカーボンブラックのスケルトンが、闇に溶けるように姿を消したと思ったら、ゴブリン達の首がコロコロと転がりましたよ。

 あれ絶対にゴブリンは、斬られたことも分かってないよね。

 全部で十一匹のゴブリンが息絶えるまで、ほんの数秒しか掛りません。

 回収した十一個の魔石は、二個を残して、みんなに三個ずつ吸収してもらいました。

 外見には変化は無かったけど、何て言うか骨太になった感じですね。


 そのまま移動せずにいると、ゴブリンの死体から流れた血の臭いに誘われて、コボルトやゴブリンが、ノコノコと集まって来ましたよ。

 ラインハルトとバステンが泣いて頼むので、仕方がないので、今度は二人にやってもらいました。

 バステンは、頭だけを爆散させて、なんとか魔石を回収出来たのだけど、ラインハルトの一撃を食らったコボルトは、魔石ごと毛と肉と血の飛沫に姿を変えちゃいました。


「ラインハルト、ハウス!」

『あぐぅ……』


 影召喚で、強制的に呼び戻すと、ラインハルトは、ガックリと肩を落として落ち込んでました。

 てかさ、マジで威力を調整しようよ、それ、どんな怪物と戦う一撃なんだよ。


 その後も、フレッド&バステンのコンビで、ゴブリンやコボルトを仕留め、着々と強化を続けたんだけど、これはラインハルトにとっては悪循環なんだよね。

 ただでさえ、力の調節が上手くいってないのに、更に強化されるんだから、たまったもんじゃないよね。


 そんな時に、そいつらは姿を現しました。

 赤褐色のゴツゴツした巨体は、3メートルぐらいありそうで、分厚い胸板や、二の腕、太腿など筋骨隆々としています。

 こげ茶色の縮れた髪が肩の辺りまで伸び、バットで殴っても壊れそうも無い頑丈そうな顎、そして額には二本の角が生えていますね。

 ゴブリンなどとは較べものにならない迫力の魔物は、ロックオーガと言うそうです。

 それにしても運の無い連中だなぁ……そう思いながら、僕はラインハルトに頷きました。


 三体のロックオーガは、この辺りでは一番強い魔物なのでしょう、周囲を警戒する事も無く、ゴブリンやコボルトの死体の山に近付いて座り込むと、グチャグチャ、ボリボリと貪り始めました。

 その気味の悪い音と、周囲に漂う濃厚な血の臭いで、気分が悪くなってきちゃたよ。

 どうやったって、自分が食われてた時の事を思い出しちゃうからね。


「ラインハルト、やっちゃって……」

『お任せあれ……』


 ラインハルトもまた、物陰にかくれる事も無く、堂々とした足取りで、ロックオーガの方へと歩み寄って行きました。


「うぼぁぁぁぁ……」


 ラインハルトに気付いたロックオーガ達が、威嚇のための声を上げてきます。

 その声を聞いて、こちらをチラリと振り向いたラインハルトは、ニヤリと本当に楽しそうな笑みを浮かべましたよ。

 あぁ、めっちゃる気十分じゃないですか。

 一体のロックオーガが、立ち上がり肩を怒らせながら、ラインハルトを出迎えました。


「うぼぁぁぁ、うばぁぁぁぁ!」

『うらぁぁぁぁぁ!』


 掴み掛かって来るロックオーガを、ラインハルトは大剣も抜かず、素手で迎え撃ちます。

 って、いくらタングステン製? でも、1m80cmぐらいの骨と、3mクラスの筋骨隆々がガチ勝負なんかしたら駄目じゃないの?

 武器使おうよ、武器、折角グラムと名付けた意味無いじゃん。


 思った通り、ロックオーガと力比べをするような形になったラインハルトは、上から圧し掛かられるように、グイグイと押し込まれ始めます。

 影召喚で呼び戻した方が良いかな? と思って、バステンとフレッドを振り返ると、二人は揃って肩を竦めて、問題無いという表情をして見せました。

 あぁ、二人とも骸骨なのに、表情分かっちゃうし、意図まで読めちゃうよ。

 喜んで良いのか悲しんだ方が良いのか、複雑な気持ちになりながら向き直ると、状況が変わり始めていました。


「うぼっ……うぼぉぉ、うぼぉぉぉぉ……」

『ぁぁぁ……ぁぁぁぁ……うらぁぁぁぁぁ!』


 さっきまで圧し掛かられていたラインハルトが、手首をへし折りながら、ロックオーガを押さえ込もうとしています。

 手首を曲がっちゃいけない方向へ、思い切り曲げられ、ロックオーガが呻いてもラインハルトは力を緩める様子はなく、そのまま地面に減り込ませようとしているみたいです。

 仲間が劣勢になった事に気付いたのか、残り二体のロックオーガが食事を止めて立ち上がってきましたよ。

 それを見たラインハルトは、今や足元に平伏すような形となったロックオーガの顔面に膝蹴りを叩き込みました。

 うひゃー、ロックオーガの頭が、風船のように爆散しちゃったよ。


 更に、ラインハルトは、大剣グラムを抜き放つと、横薙ぎの一撃をロックオーガの脚に目掛けて放ちます。

 ロックオーガは反射的に跳び退こうとしたけど、大剣グラムの一閃を食らい、膝から下が消失しちゃったよ。

 ラインハルトは、動けなくなった一体を放置して、もう一体へと踏み込み、頭目掛けて横薙ぎの一閃を振るいます。

 ロックオーガは反射的に腕でのガードを試みたけど、大剣グラムの一閃は、腕ごと頭を吹き飛ばしました。

 うーん……剣なのに、切りつけた相手が爆散するっておかしいでしょ。


『うがぁぁぁぁぁ!』


 ラインハルトは、勝利の雄叫びを上げた後、脚を失って動けなくなったロックオーガに、サックリと止めを刺しました。

 どうです、やりましたよ俺と言わんばかりのポーズが、ぶっちゃけ物凄く暑苦しいです。


「フレッド、申し訳無いんだけど、魔石の回収をお願い出来るかな?」

『心得ました』


 フレッドが闇に溶けるようにして、瞬時にラインハルトの下へと移動しました。

 うん、忍者みたいで格好良いぞ。


『すいませんね、ケント様、団長があれなのは、昔からなんで……』

「あぁ……うん、薄々分かってたから大丈夫、時たま発散する場所を与えれば大丈夫なんでしょ?」

『その通りです、基本的には面倒見の良い人なんですけどね、あぁ、今はスケルトンか』


 生きていた頃には、結構苦労していたらしい、遠い目をするバステンを見ながら、これからも苦労してもらおうと決めましたよ。

 あんな暑苦しいおっさんの世話は、僕には無理っす。


 ロックオーガ三体の魔石を、それぞれに取り込んでもらって強化を終えたところで、場所を移動して休むことにしました。

 闇属性の魔術士の特性なのか、なんとなく夜の方が元気になってくるんだけど、昼間も行動する事を考えたら、少し眠っておいた方が良いよね。

 あんまり眠たくはなかったんだけど、みんなに護衛を任せて眠る事にしました。

 眠たくないなんて思ってたけど、それは神経が張り詰めていたからで、柔らかい草地を選んで横になった途端に、僕は気を失うように眠りに落ちていきました。


 ちゅん、ちゅん、ちゅん……


 翌朝は、再び鳥のさえずりで目を覚ましましたよ。

 昨夜はお楽しみでしたね、えぇ、スケルトンナイツの皆さんが、心ゆくまで殺戮を楽しんでました。

 と思ったら、何やら香ばしい良い匂いがしてきます。


『ケント様……朝食、出来てる……』

「おはよう、フレッド、おぉ! 魚だぁ!」

『その先の川で……取ってきた……』

「ありがとう、うわぁ、美味そう、いただきま~す!」


 マスに良く似た魚は、臭みも無く、淡白な味わいで、とても美味しいです。

 果物も摂って来てくれてあったのだけど、久々のたんぱく源に、僕は夢中で魚を貪りましたよ。


『ところで、ケント様』

「何かな、ラインハルト」

『ヴォルザードに行かれるのでしたら、服を何とかしないと拙いですな』

「うっ、そうだよね、流石にこの格好じゃ怪しまれるよね」


 今現在の僕の格好と言えば、ゴブリン達に食い千切られて、服と言うより襤褸布に近い状態の制服姿です。

 中身は生身の人間だけど、血が染み付いたそれは、ゾンビのコスプレ衣装って感じだよね。

 これで街に行ったら、怪しまれること間違い無しだね。


「うーん……でもさ、街に行く途中に店とかあるの? と言うか、僕お金持ってないし」

『なので、ケント様、少し街道の近くを歩きませんか?』

「それは別に構わないけど、何で?」

『上手くすれば、着る物が手にはいるかもしれませんので』

「分かった、ラインハルトに任せるよ」


 ラインハルトの提案に従って、街道を見渡せる程度の距離の森の中を進みます。

 街道を進まないのは、いきなり馬車と鉢合わせになってしまうと、僕自身の事や、みんなの事まで説明しないと怪しまれるだろうし、場合によっては、いきなり攻撃される心配もあるからだそうです。

 今後の事を考えても、人間同士の無用な争いは避けた方が賢明だよね。


 そうして街道に沿って森の中を進んで行くと、馬車が一台倒れていました。

 近付いてみると、辺りには血の跡がいくつもの残り、腐臭を放つ肉片も落ちています。

 三人は周囲を警戒していましたが、すでに襲撃からは時間が経過しているせいか、魔物の気配はありません。


「ラインハルト、これは魔物に襲われたんだよね?」

『そうですな、そう考えるのが普通です』

「もしかして、この馬車から?」

『はい、どの道、この馬車の積荷は、このまま朽ちてゆくだけです、それを活用させていただくだけです』


 魔物たちは、馬車に乗っていた人間には興味があっても、その積荷には興味は無いらしく、多くの荷物が無事な形で取り残されていました。

 僕は、少しだけ罪悪感を感じながら、荷物を漁って、着られそうな服を探しました。

 まだ160cmにも満たない僕には、少々大きめの服しかありませんでしたが、贅沢を言ってはいられません。

 鞄の中に綺麗に畳んで入れられていた服を。手を合わせてから拝借いたしました。


 皆も荷物や積荷を捜索して、使えそうな物を探してくれました。

 その結果、こちらの世界の服装一式、それに、金貨や銀貨、魔石などの金目の物、商品と思われる反物や絨毯、ナイフや鍋、小麦粉、塩、砂糖、油、ロープ、針や糸などを手に入れる事ができました。

 なんか、火事場泥棒みたいな気がしないでもないけど、ここに他の馬車が通り掛れば、同じ事が行われるし、こっちの世界では、死んだ人間の物を活用してやるのも供養なのだそうです。


 普通の人では、これほどの量の荷物を持って、森の中を移動するなんて不可能だけど、僕の場合は、影の空間に置いておけるので、全部いただいて収納しましたよ。

 ラインハルトの話によると、森を抜けての商売は、危険を伴うが、その分稼ぎも良いそうで、回収した財宝の額は、二、三年は遊んで暮らせるほどの額だそうです。

 服も、お金も手に入れられたので、僕らは城砦都市ヴォルザードを目指す事にしました。

※ コミカライズ好評連載中です! 

がうがうモンスター

https://gaugau.futabanet.jp/list/work/5dd4f51f77656175d2030000

ニコニコ静画

https://seiga.nicovideo.jp/comic/47146?track=official_list_s1

小説書籍版は2巻、コミック単行本は5巻まで発売中!

https://www.futabasha.co.jp/search?author_name=%E7%AF%A0%E6%B5%A6%E7%9F%A5%E8%9E%BA

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
スケルトンが泣いて頼むって文字で読むとシュール笑
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ