今更だけど、魔法の話
三人の強化も終ったので、僕らは森を抜けて、町を目指す事にしました。
森を抜けた先にあるのは、ヴォルザードという城砦都市だそうだ。
城砦都市とか格好良くね? 何か、いかにも異世界って感じするよね。
『ところで、ケント様は、何の用があってヴォルザードに向っておったのです? たった一人で森に入るなど、自殺行為も良いところですぞ』
「えっ? あぁ……やっぱり一人で森を抜けるなんて無理難題だったんだ……畜生、あの性悪王女め」
僕は、今更ながらに、異世界から召喚されて来た事、魔力判定がハズレだったので、ラストチャンスとして、森を抜ける単独行を言い渡された事をラインハルトに話しました。
「でもこれってさぁ、邪魔者を処分したって事だよね?」
『そうですな、そうとしか考えられませんな、この森は、護衛を付けた集団でなければ踏破するのは難しい危険な森ですからな』
ラインハルトの話によれば、この森は、樹木に擬態する魔物、トレントの大発生によって広がった森なんだって。
広がった理由が理由だけに、魔物の生息数も多く、森を切り開いて、元々の道を取り戻すには、相当な困難があったらしいよ。
それでも道を取り戻したのは、人間の意地みたいなものなのだろうね。
「それじゃあさ、この危険な森を一人で踏破したって事になれば、僕の価値も見直されるって事かな」
『無論ですな、この森を一人で踏破するなど、一流の冒険者や達人クラスの武芸者でもなければ無理ですし、闇属性と光属性の両方の魔法を使えると聞けば、下にも置かぬ待遇を受ける事は間違い無しですな』
「おぉ……いよいよ僕の時代がやってきてしまうんだね」
異世界でチートな能力を手に入れるという、中二ならば誰しもが夢見る状況に、興奮を抑え切れませんね。
召喚主である僕の気持ちが伝わるのか、三人も興奮気味です。
でも、ちょっと待て、こういう感じで調子に乗ると、手痛い失敗をするというのがお約束だよね。
ここは慌てて突っ走るのではなく、立ち止って考えよう、そうしよう。
そして、考えるには、判断を下すための情報が必要だよね。
なので、僕はラインハルト達から、この世界の事を教えてもらう事にしました。
『さすがはケント様、類い稀なる力を手に入れても驕らぬとは、素晴らしいですな』
「いやいや、力と言っても貰い物だし、使いこなせてもいないし、それに、召喚された後の扱いも良かったとは思えないしね」
なんてたって、服従か死を選べだものね、何の準備もしないで戻ったら、酷い状況が待ち構えてるのは間違いないでしょう。
あぁ、委員長は大丈夫だろうか、心配だよ、マイ・スイート・ハート。
そう言えば、全く以って今更だけど、こっちの言葉が分かるのは、やはり召喚の影響らしいです。
と言うか、それしか説明のしようが無いもんね、ラインハルトに文字を書いてもらったけど、それも読めるし、書こうと思えば書けるんだよね。
マジで、この召喚の術式とか作った人って凄いよねぇ。
ラインハルト達から話を聞くと、今いる所は、リーゼンブルグ王国という王制の国なんだそうです。
そう言えば、あの性悪王女が、そんな家名を名乗っていたっけね。
ちなみに、カミラという王女の名前をラインハルト達に聞いてみたけど、知らないらしい。
ラインハルト達が亡くなってから、結構な年月が経っているようだし、その間、森からは出て居ないのだから、分からないのは当然だよね。
「ところでさ、僕らは兵士として召喚されたっていう話だったんだけど、兵士が必要って事は、どこかと戦争するって事なのかな?」
『常識的に考えれば、そうなりますが、戦争のための兵力を集めるならば、普通は戦場の近くにするものです、ですが、ここは王国の中では、むしろ中央付近で他国との国境からは離れておるのです』
「そうか、わざわざ二百人近い人数を、戦場から遠い場所に呼び出す必要なんか無いものね」
『いかにも、そう考えると、その第三王女、もしや力による王位の簒奪を目論んでいるのかもしれませんな』
「あぁ……なるほど、クーデターって事か、言われてみれば、あの性悪王女、権力欲強そうだったものなぁ……って事は、僕らは王位を巡る権力闘争に巻き込まれたって事?」
『その可能性は高いと思われますな』
「うーん……」
これは、ますます身の振り方を良く考えないと拙い事になりそうだよね。
性悪王女は、手柄を立てて、褒美を持って帰れ……なんて言ってたけど、クーデターに失敗すれば、処刑コースまっしぐらでしょ。
これは、ノコノコと戻らない方が良いように思えてきました。
クーデターとなると、今現在の国の内情とかが分からないと話にならないよね。
そこで、身の振り方を考えるのは、ヴォルザードまで行って、現状を調べてから考える事にしました。
次に今の僕に必要な知識といえば、魔法に関する知識だよね。
そこで、早速ラインハルト達に、魔法に付いて聞いてみたんだけど、みんな基本的な知識は持っているんだけど、得意では無いらしいんだよね。
『すみませんな、ケント様、ワシらは皆、騎士タイプなもので、術に関する知識はあまり持ち合わせておらんのです』
「ん? それってどういう事?」
ラインハルト曰く、魔法には六つの属性の他に、大きく分けて二つの分類が存在するのだそうだ。
一つは、いわゆる魔法を使う感じの放出系の術士、そしてもう一つが、身体を強化する循環系の騎士で、ラインハルト達三人は、循環系が得意な騎士タイプだそうです。
『殆どの者は、どちらかに偏っているのが普通です、両方の魔法を使いこなせる者は稀で、どの者も国で重用されておりました』
「なるほど、だとすると、僕は術士タイプなんだろうね」
『おそらくはそうなりますが、ケント様ほどの卓抜した才能があれば、あるいは循環系の魔法も使いこなせるかもしれませんぞ』
「自分の身を守るためには、その方が良いよね?」
『そうですな、ですが、ケント様の場合は、我々が守りに付きますので、心配はいりませぬぞ』
「たしかに……」
こんな凶悪な性能のスケルトンナイツが居るのだから、生半可な攻撃は僕にまで届かないだろうね。
でも、一つ、凄く気になる事があるんだよねぇ。
「あのさ、街中でも、みんなと一緒に居ても大丈夫なのかな?」
『そ、それは……』
あぁ、やっぱり駄目そうだね。
普通に考えて、いくら召喚したと言っても、他の人から見れば、スケルトンは魔物の類いだものね。
白昼堂々と、街中を引き連れて歩く訳にはいかないよね。
「うーん……困ったなぁ、森から出た後も、僕一人じゃ何も出来そうもないのになぁ……」
自慢じゃないけど、日本に居る頃からポンコツだったのに、異世界じゃ常識知らずのただの子供だし、ラインハルト達抜きで、世の中を渡っていける自信なんてゼロですよ。
どうしたものかと困っていると、バステンが教えてくれました。
『闇属性の魔道士は、自分の影の中に使い魔を潜ませたり、影を使って遠方から召喚する事が出来ると、まだ生きていた頃に聞いた事があります、ケント様ほどの才能ならば、可能なのではありませんか』
「えっ、闇属性の魔法って、そんな事も出来るの? って言われても、どうやって魔法を使って良いのか、今いち分かってないんだよねぇ……」
僕がそう言うと、三人は揃って顔の前で、いやいやいや……と言わんばかりに手を振り、ラインハルトが代表して言いました。
『ケント様、ワシらを無意識で召喚し、このような姿にまで強化しておいて、そんな事を言ったら、世界中の魔道士から罵声を浴びせられますぞ』
「うーん……そう言われてもねぇ……」
三人から言わせれば、僕の魔法は常識外れも良いところらしい。
普通は、頭の中で発動をイメージしながら、きちんと呪文を詠唱して、初めて魔法が発動するのだそうです。
僕のように、イメージするだけで魔法が使えるなど、出鱈目にも程があるのだとか。
『イメージするだけで魔法を使われていると仰るのでしたら、そのやり方で、影を使った召喚が出来るか試されてみてはいかがでしょう?』
「おぅ、そうだよね、分からなければ試してみれば良いんだよね」
僕は、バステンの提案を採用して、何が出来るか試してみる事にしました。
で、試してみたんですけど、凄いっすよ、チートですよ、チート。
影の中から皆を召喚する事も出来ましたし、皆を影を伝って移動させちゃう事も出来ちゃいました。
そればかりか、何と自分自身が影に沈んで、影を伝って移動する事まで出来ちゃいました。
何かに襲われて、ヤバいと思っても、影の中に逃げ込んでしまえば、無問題ですよ。
ひゃっはー! ここまーで、おーいーでぇ! ですよ。
闇属性の魔道士は、影という別空間に干渉できるようで、自分だけの空間を作って、そこに物を置いておく事さえ出来ました。
これならば、街中に入った後は、皆には影の中に居てもらえば大丈夫だね。
元々、皆との会話は念話に近い形だったので、皆が影の中に居る状態でも問題無く出来るのも便利です。
さすが、レアな闇属性、そのチートっぷりは、自分でも惚れ惚れしちゃいますよ。
これは、モテ期到来、間違い無しでしょう。
闇属性の魔法をいくつか使えるようになると、気になるのはもう一つの属性、光属性ですよね。
「闇属性の魔法は、何となくだけど感じが掴めてきたんだけど、光属性の魔法にはどんな魔法があるの?」
『光属性は、治癒と退魔の魔法になりますな』
「ほうほう、何となく、イメージ通りって感じだけど、退魔の魔法って、どんな魔物にも効果があるのかな?」
『そうですな、ワシらは詳しくは無いのですが、強力な光魔法はどんな魔物にも有効だと聞きますが、通常はアンデッド系の魔物、つまり我々スケルトンやゾンビなどの魔物に対して強い効力を発揮するそうですぞ』
うん、何となくイメージしていた通りだね。
ラインハルト達の仲間を送った時に、無意識で使ったのは光魔法なんだと思うんだよね。
あと、ゴブリンに食われた身体を再生したのもそうだろうね。
「光属性の魔法が使えれば、死んだ人でも生き返らせたり出来るのかな?」
『それは無理だと聞いてますな、凄腕の治癒士ならば、瀕死の人の命を救う事が出来るそうですが、完全に死んだ人間を蘇らせる事は無理ですな』
「そっか、そこから先は死霊術の領域って事だね」
『いかにも、ですが、その両方の属性の魔法を使えるケント様であれば、その境目はかなり曖昧になるやも知れませんな』
「なるほどねぇ……」
その後、実際に光属性の魔法を試してみるために、自分の手を少し傷つけて、手の平で被いながら傷が治るのをイメージしたら、血を流していた傷が跡形も無く消えたのには驚きましたね。
でも、よく考えてみたら、腸を引きずり出されて食われていたのに、傷一つ無くピンピンしているのだから、この程度の傷が消えたところで驚くまでもないんだよね。
『ケント様は、出鱈目な闇属性魔法を使う……光属性も出鱈目……』
「そうなの?」
フレッド曰く、切り傷が治る程度の治癒魔法であれば珍しくないが、内臓を引き摺り出され、更には食われて欠損しているような状態から再生するような治癒魔法は見た事が無いそうです。
ラインハルトも、バステンも、揃ってカクカクと頷いている。
光属性の魔法は、アンデッド系を除けば、攻撃には向いていないそうで、光属性の魔術士は、前線で戦うよりも、後方で支援するケースが殆どなんだとか。
光属性の魔術士自体がレアなのと、回復役が先にやられたら、意味が無いからだそうです。
でも、現代日本に暮らしていた僕とすれば、光による攻撃と言えばレーザーだし、アニメにおける光線兵器は花形的存在なんだよね。
てな訳で、何とか実現出来ないかと、色々と試してみました。
まず最初に、光を発する事から始めてみたら、光を浴びたラインハルト達が、あががが……ってな感じでダメージを受けちゃって、慌てて影の中に退避してもらいましたよ。
護衛のために強化したのが無駄になっちゃうところだったよ、危ない危ない。
次に光を強めたら、目が、目がぁぁぁ……ってなって、滅びの呪文を唱えちゃったかと思ったよ。
やっぱり光線兵器は魔法じゃ無理なのかな。
イメージ的には、魔力を光に変換して、そこに魔力を注ぎ込んで強めて、それを圧縮して、方向性を定めて開放するって感じなんだけど、魔力を注ぎ込んだ時点で、目が、目がぁぁぁ……になっちゃうんだよねぇ。
それでも光線兵器を諦めきれず、ラインハルト達を放置したまま試行錯誤を続けていたら、攻撃方法が出来ちゃいましたよ。
要は手順を入れ替えれば良かったんだよね。
大量の魔力を圧縮して、方向を決めて撃ち出す瞬間に光に変換する、これですよ。
と言っても、ロボットアニメに出て来るような、太い線になるような大出力のレーザーなんて無理なんで、チカっと光って木に5ミリ程の穴が開けられるような感じで、見た目的にはショボい。
しかも、発動させるまで30秒ぐらい時間が掛かるんだけど、瞬時に撃てるようになったら凄い威力を発揮しそうだよね。
だって見えたと思った時点で命中してるんだから、自分でやっておきながら、光属性の魔法もチート極まりないよねぇ。
てか、基本、魔法ってチートだよねぇ。
あれ、でも、こっちの世界では当たり前なのかな?
どうでも良いけど、魔法を使うと、やたらとお腹が減るのは何でだろう。
『それは、空気中に存在しているマナを属性の魔力に変換するのに、魔術士の体内エネルギーを使っているからですな』
「なるほど、ラインハルト達が使っていた循環系の魔法も同じなのかな?」
『仰る通りです、そして、その変換効率が、高いほど、強い魔法を使えるという訳です』
「なるほど、なるほど、あの『魔眼の水晶』って奴は、属性とその効率を見てたって訳だ」
光属性の魔法の練習は一旦切り上げて、またもや木の実でお腹を満たしました。
美味しいんだけどね、いい加減飽きてきちゃったよ。
あぁ、白米と味噌汁が食べたいよ。