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予期できたのに、できなかった事態

 目を覚ました時、自分が何処にいるのか分かりませんでした。

 部屋の様子をキョロキョロと見回して、ようやくヴォルザードの下宿の自室だと確認するまで、暫く時間が掛かりました。


『ケント様、気が付かれましたか?』

『あっ……そうか、ラインハルトに起こしてもらわなかったからか……』


 リーブル農園に働きに出た時に起こしてもらうようになってから、朝はラインハルトに起こしてもらっていました。

 だから自分で目を覚ました時に、何処に居るのか分からなかったのでしょう。


『あれ? 僕はどうやって下宿まで戻って来たんだっけ?』


 ラストックの診療所で魔力を使い果たして、ヴォルザードの路地裏まで戻ったのは記憶していますが、その後の記憶がありません。


『ワシがドノバン殿に知らせて、下宿まで運んでもらいました』

『えぇぇ、ドノバンさんに、そんな事頼んじゃったの? てか、どうやって知らせたの?』

『筆談を使いましたし、ロックオーガを撃退したのですから、この程度の事はやってもらっても罰は当たりませんぞ』

『うーん……そうかもしれないけど、なんか稽古がきつくなりそうだよね』

『ぶはははは、それは諦めて下され』


 まぁ、どうせドノバンさんの稽古からは逃げられないし、無料で鍛えてもらえるのですから、文句を言ったらそれこそ罰が当たるかもしれません。


『でも、気を失った状態で運ばれてきたら、アマンダさんが心配したんじゃない?』

『そうですな、ですがドノバン殿が、過労と貧血だから、寝かせておけば大丈夫だと言ったので、一応納得はしていたようですぞ』

『うん、でも後で心配掛けた事は謝っておかないと駄目だね』

『そうですな、その方がよろしいでしょう』


 ぐっぐぅぅぅ……きゅるるるぅぅぅぅ……


 魔力切れによるであろう倦怠感は無くなりましたが、猛烈な空腹に襲われました。


『ケント様、テーブルの上にサンドイッチがありますぞ』

『えっ、本当?』


 確かに、テーブルにサンドイッチの盛られた皿と、蓋付きのカップが置かれています。

 それと、夜中に目が覚めたら食べなさいと、アマンダさんからのメモが添えられていました。

 メモの端には、早く良くなれと、ちょっと歪んだメイサちゃんからの言葉も書かれています。

 色々と秘密にしている事があるのに、家族のように暖かく接してくれる二人の思いに涙が滲んで来ました。

 二人に感謝しながら夜食をいただきましたよ。


『ラインハルト、今は何時ぐらい?』

『夜半を過ぎて、一時少し前ぐらいですな』


 こちらの世界は、一日二十時間制なので、もう真夜中です。

 アマンダさんは、お店の仕込みもあるので朝早くから起きるので、眠る時間も早く、下宿の中は静まり返っています。

 ヴォルザードの街も、東京のコンビニのように一晩中開いているような店は無く、もうこの時間では盛り場の店も閉まる頃です。

 変な時間に眠ってしまったので、変な時間に目が覚めてしまいました。


『うーん……魔の森の訓練場で少し身体を動かそうかなぁ……』

『ケント様、さすがに今夜は休まれた方がよろしいですぞ、休息も時には必要ですからな』

『そっか、うん、分かったよ。 ところでさ、僕が倒れたのは、やっぱり魔力の使い過ぎだから?』

『おそらくはそうでしょうな、ケント様、ワシは心臓が止まった者を生き返らせるのを見たのは初めてですぞ。 あんな芸当は、王室付きの治癒士にだって出来ませんぞ』


 ラインハルトの言葉からは、心底驚いた様子が伝わってきましたが、日本では心臓が止まっただけじゃ死んだ事になってないからね。

 心停止とか、脳死とかの話をすると、ラインハルトは更に驚いていました。


『なるほど、ケント様が住んでおった世界は、医術が進んだ世界だったのですな』

『うん、でも、結局あの子を呼び戻したのは、闇属性の魔法のおかげみたいだし、治療したのは光属性の魔法だから、殆ど魔法のおかげだね』

『そうだとしても、それをやってのけたケント様は、やはり非凡……いや前例が無いほどの資質をお持ちですぞ』

『それでも、僕の力と言うよりも、もらっただけの力だから、もっと訓練をしないと駄目だと思う』


 そういう意味では、委員長の置かれた環境は、厳しく責任を背負わなければならない環境だけれども、魔法を鍛練するには最高の環境なのかもしれません。


『やっぱり、あの性悪王女のやる事には無駄が無いような感じがするよ』

『それは確かに言えますな、無駄が無く、そして非情です』

『あれは、やっぱり王族の気質ってやつなのかな?』

『それだけとは、言えない……』

『ん? どういう事なの? フレッド』

『あの王女、国民からは人気がある……』


 フレッドが言うには、僕の同級生やイケメンの世話役であるシーリアには冷淡だけれど、国民に対しては慈悲深い王女で通っているのだとか。

 そもそも、ラストックの開拓に関しても、あの王女が深く関わっていて、街の治安維持や貧困層の救済などにも積極的に働いているらしい。


『ケント様、おそらくあの王女は、敵と味方に明確な線引きをしておるのでしょう』

『つまり、味方である国民には手を差し伸べて、味方じゃない僕らは徹底的に利用するって事?』

『はい、おそらくは、そうなのでしょう』

『じゃあ、僕らを召喚した目的も、国民のためって事なのかな?』

『まだハッキリとは分かりませんが、その可能性は高いでしょうな』

『うーん……それって、かなり厄介だよね。 あの王女に敵対する事になると、リーゼンブルグの国民も敵に回しかねないって事だよね?』

『そうですな、そうなり兼ねませんな』


 うーん……単に嫌な奴だったらば、徹底的に叩き潰せば良いのでしょうが、その結果として、リーゼンブルグの国民が損害を被るというのは困るよね。

 

『ケント様、どういう落し所にするのかは、ご学友を助け出してから考えましょう』

『そうだよね、今の時点で色々考えたところで、まだ交渉できる状態じゃないんだもんね』


 バステンが言う通り、今の僕には性悪王女と交渉する材料が何一つありません。

 まずは同級生の身柄を取り戻す事、その上で、更に性悪王女と対等以上に張り合える材料を手に入れなければならないんだよね。

 となると、リーゼンブルグという国を相手にすると同等だろうし、ただの子供の僕には荷が重いよね。


『でもさぁ……一国を相手に、一人で喧嘩を仕掛けるっていうのも、なんかワクワクしない?』

『ぶはははは、良いですなぁ、さすがケント様、見上げた心意気です』

『全く、団長の言う通り、ケント様が喧嘩を仕掛けるならば、いくらでもお供いたしますよ』

『大丈夫……ケント様なら勝てます……』

『うん、もしそうなったら、よろしくね』


 あぁ、凶悪スケルトンの気性が伝染しちゃったんでしょうかね、僕はこんなに好戦的じゃなかったと思うんだけどね。

 でもね、ぶっちゃけ、影の世界に出入り自由な僕らなら、リーゼンブルグの軍隊と正面切って戦っても負ける感じはしないんだよね。


『そう言えばさ、僕らみたいに影の中を自由に移動出来る魔道士って、どのぐらい居るの?』

『ワシらが生きていた時代にも、多くの魔道士が居ましたが、このように自由に影の世界を利用する魔道士には会った事がありませんぞ』

『えっ、そうなの? 闇属性の魔道士ならば、みんな出来るんじゃないの?』

『そうした魔道士が居たらしいという話は聞いた事がありますが、実際に目にしたのはケント様が初めてですよ』

『そう、ケント様は、ちょっと例外……』


 あれっ? 影移動とか闇属性の魔道士ならば普通に出来るのかと思ってたんですけど、何だか違うみたいですね。

 明日、ドノバンさんにはお礼を言わないといけませんし、その時に聞いてみますかね。


『ケント様、昔から闇属性の魔道士は数が少なくて、魔法の使い方も殆どが独学だったと聞きますぞ』

『そうなの? じゃあ影移動とか、影収納とか、影召喚とか、昔もそんな魔法があるよって聞いて、自分で練習したのかな?』

『おそらくは、そうでしょうな』


 と言う事は、影を使って出来る事……って考えていけば、色んな魔法が使えるようになるのかもしれませんね。

 うん、やっぱり魔法の練習もしないと駄目そうですね。


『そう言えばさ、あのヘナチョコ勇者の火属性の魔法を防ぐとしたら、どうすれば良いのかな?』

『普通でしたら、金属製の盾で受け流すのが一般的ですな』

『受け流すっていうと、角度をつけて方向をズラすって感じ?』

『そうです、あれだけの威力の魔法ですと、まともに受けてしまうと火球が弾けて、かえってダメージを受ける事になります』

『同程度の魔法をぶつけて相殺するっていうのは?』

『そもそも相手の魔法の威力を測る事が難しいですし、あれだけの速度で飛来する魔法にぶつけるというのは現実的ではありませんな』

『確かに、凄い速度だったものね』


 バスケットボールぐらいの大きさの火球が、時速150キロぐらいは出てるかと思えるスピードで飛んで行って、的の人形が一瞬で火達磨だったものなぁ。

 ぶっちゃけ目茶目茶ムカつくんだけど、あのイケメンを敵に回すのは拙いよね。


『ケント様、魔法を防ぐなら、闇属性の魔法が一番だと聞きますぞ』

『えっ、そうなの?』

『はい、これも聞いた事があるだけで、実際に見た事は無いのですが、闇の盾という魔法は、全ての魔法を弾いてしまう盾だと聞いておりますぞ』

『闇の盾……闇の盾……』


 全ての魔法を弾いてしまうのだから、もしかして闇属性特有の影の空間に通じる入口を開くような感じなのでしょうか。

 今は、影収納に物を出し入れする時も、自分の影を使ったりしてますが、もしかすると、影の有り無しは関係無く、影の空間に接続できるのかもしれません。


『うん、ちょっとこれは試してみた方が良さそうだよね、ただ、練習するなら日が上っている時間じゃないと駄目かな』

『そうですな、それよりもケント様、そろそろ休まれた方がよろしいですぞ』

『あっ……そうだよね、じゃあ、いつもの時間になったら起こしてね』

『了解ですぞ』


 変な時間に寝て、変な時間に起きてしまったから、すぐ眠れないかと思ったのですが、ベッドに横になったら、たちまち眠りに引き込まれました。

 そして翌朝、起きてすぐにアマンダさんに心配掛けた事を謝りに行きました。


「アマンダさん、おはようございます、昨日はご心配をお掛けしました、ごめんなさい」

「あぁ、大丈夫そうだね、担がれて帰って来た時は、死人みたいな顔色してたからね」

「すみません、何だか記憶もあやふやで……」

「頑張るのも良いけど、身体を壊しちゃ何にもならないからね、訓練もほどほどにしなよ」

「はい、分かりました、これからは気を付けます」


 とは言ったものの、ドノバンさんの呪縛からは抜け出せそうもないし、同級生達を救出する為にも訓練するしかないんだよね。

 うーん……ほどほどって難しいですね。

 朝食の時には、メイサちゃんにも怒られちゃいましたよ。

 てか、メイサちゃん、文句を言いながら、自分が嫌いな人参を僕に押し付けようとしても駄目だからね。


 ドノバンさんにもお礼を言わないといけないので、アマンダさんには、仕事も訓練もしないと断りを入れてギルドに向かいました。

 今朝も依頼の貼り出された掲示板の前は、凄い人だかりになっていて、やっぱりリドネル達が揉みくちゃになっています。

 うん、あれはあれで楽しんでるんだろうね。

 壁際に目を向けると、マノンが所在無げに立っていましたが、僕の姿を見つけると、ぱーっと笑顔になりました。

 うっ……もう絶対に惚れられちゃってますよね?

 それとも、まだ仲の良い友達レベルなんでしょうか?


「おはよう、ケント!」

「お、おはよう、マノン」


 チラリと周囲に目を向けると、生暖かい目を向けてくる人が何人か居ますね。

 きっと昨日、ギルドの酒場で話を聞いてた人なんでしょうね。


「ケントは、今日は何の仕事をするの?」

「えっ、えっと……今日は、ちょっとお休み……かな」

「えっ、どうかしたの? 具合でも悪いの?」

「もう大丈夫なんだけど、昨日、ちょっと体調が悪かったから、今日は大事を取って休もうかと思ってるんだ」

「そうなんだ、じゃ、じゃあ、僕も休んじゃおうかなぁ……」


 あれっ? この反応って、やっぱりマノンちゃん、僕に気があるとか?

 いやいや、待て待て、変な期待をすると、ばっかじゃないの……とか言われちゃうかもしれないし、でも、僕ってかなりのチートじゃない? いや、でもギリクには、こてんぱんにやられてるし……でもでも、リドネル達よりは強いし……


「ケント……? ねぇ、ケント!」

「ひゃい? ご、ごめん、ちょっと考え事してた……」

「もう……ミューエルさんの事とか考えてたんじゃないよね?」

「ち、ち、違うよ、昨日、体調崩した時に、ドノバンさんが下宿まで送ってくれたみたいで、お礼を言わなきゃって思って……」

「えっ、そんなに具合悪かったの? 大丈夫?」

「う、うん、大丈夫、大丈夫、ちょっと貧血気味だったみたいで、もう大丈夫」

「そう、それなら良いけど、ケントは頑張りすぎるからなぁ、無理しちゃ駄目だよ」

「う、うん……心配掛けて、ごめんね」


 うわぁ、良く考えたら、こんなに女の子と親しく話しするのって、幼稚園の頃以来じゃないかな、やっぱりヴォルザード最高だよね。

 ささやかな幸せを噛み締めていたら、フレッドに声を掛けられました。


『ケント様……ちょっと事件が……』

『うっ、ちょっと待ってね、フレッド』

「ごめん、マノン、ちょっとトイレ……」

「あっ、うん、ここで待ってるね……」

「う、うん、待ってて……」


 やっばぁぁぁい、何なんですかマノンちゃん、上目使いで待ってるなんて言われたら、行きたくなくなっちゃうじゃないですか。

 それでも、一度行くと言った手前、トイレに足を向けますよ。


『それで、フレッド、何が起きたの?』

『フナヤマが……死亡した……』

『えっ……』


 トイレへと急いでいた足が、思わず止まってしまいました。


『ケント様、歩いて……怪しまれる……』

『えっ……あぁ、う、うん……』


 フレッドに促されるままに、トイレに向かって歩きながらも、フワフワと地に足が付いていない感じでした。

 トイレに入って、そのまま個室にこもります。


『船山が死んだって、奴らに殺されたの?』

『今朝、起きないので……仲間が起こそうとしたら……死んでいたらしい……』

『そんな……それって、結局あいつらに殺されたようなもんじゃないか!』

『否定出来ない……たぶん、過労と、栄養不足……』


 ハッキリ言って、船山には嫌な奴という印象しか残っていません。

 僕を『バブ』呼ばわりして、暴力を振るわれた事も一度や二度じゃない。

 それでも、殺してやろうと思う程、憎んでいた訳ではありません。


『聖女様が……ショックを受けてる……』 

『あぁ、そうか……委員長は大丈夫そうなの?』

『かなりショックを受けてるけど……診療所で治療を続けてる……ちょっと拙いかも……』

『船山の死に責任を感じて、余計に治療に力を注いでいるような感じ?』

『そう……ケント様の言う通り……』


 このままだと、委員長まで倒れてしまいそうな気がします。

 これはラストックに行った方が良さそうですし、行かずに何かが起こったら、きっと後悔すると思います。

 トイレを出て、急いでマノンの所へと戻りました。


「ケント……どうしたの、顔が真っ青だよ」

「ごめん、マノン、ちょっと気分が悪くなってきちゃったから、今日は下宿に戻るよ」

「そう……送っていこうか?」

「ううん、そこまで酷くないから、大丈夫、また来週……ね」

「う、うん、お大事にね、ゆっくり休んで」


 ドノバンさんにお礼を言わなければいけないのですが、今は後回しにさせてもらいます。

 下宿に戻る道を歩きながらも、ラインハルト達に影に潜れる場所を探してもらいました。


『ケント様、そこの路地を左へ……』

『分かった、ありがとう……』


 路地に入った所で、周囲を確認して、影に潜ると、一気にラストックへと移動しました。

 駐屯地に入ってみると、驚いた事に昨日と変わらぬ様子で訓練が行われていました。


『えっ……どうして訓練やってるの?』

『フナヤマは……居なかったような扱い……』

『そんな、何だよそれ! ふざけんなよ! 人を何だと思ってやがんだ!』

『ケント様、落ち着いて下され!』

『ラインハルトまで、そんな事を言うの?』

『他の者が人質に取られたままですぞ!』

『うっ……ちっ……ちっくしょぉぉぉぉぉ!』


 悔しいけど、ラインハルトの言う通り、他のみんなの身柄を押さえられている状態では、下手な動きは出来ません。

 そして、元の世界に戻るという絶対的な切り札を握られてしまっているので、相手を皆殺しにすれば済むという状況でもありません。


『くっそぉ……あの性悪王女だけは、絶対に許さない、必ず償わせてやる……』

『ケント様……聖女様を……』

『そうだ、委員長……』


 急いで診療所へと向かうと、委員長は悲愴な表情で治療を続けていました。

 患者さんに治療を施しているのですが、その表情は能面のようで、笑顔の欠片も存在していませんでした。


「終わりました……次の方……」

「ありがとうございます、聖女様……?」

「次の方……」


 患者さんが感謝の言葉を口にしても、委員長の表情は1ミリも動きません。


「聖女様、そろそろ休憩なさっては……」

「次の方!」


 最初に偵察に来た時に、委員長の世話をしていた女性が休憩を勧めても、全く相手をしていません。

 その後、三人の患者さんに治療を施したところで、委員長に限界が来ました。


「つ、次……次の方……」

「聖女様!」

「触らないで!」


 倒れかけたところを支えようとした女性を、委員長は思い切り突き飛ばしました。

 目が吊り上がり、とても正常な状態に見えません。


「さっさと次の患者を呼びなさいよ!」

「聖女様……」

「うるさい! 治療の道具にしか思っていないくせに、都合の良い呼び方なんかしないでよ!」


 診察室の外にまで響き渡る程、大声で喚き散らすような委員長は、今まで見た事がありません。


「何でよ! どうしてよ! 毎日、毎日、朝から晩まで、あなた達の治療してるのに、何で!何で私の仲間は、満足な治療も、満足な食事も与えられずに死ななきゃいけないのよ! 何でよ! 答えてよ!」

「そ、それは……」

「帰して! 元の世界に帰してよ! 嫌ぁ! もうこんな生活、嫌ぁぁぁぁぁ……」


 委員長は髪を振り乱して絶叫すると、糸が切れた操り人形のように、意識を失って倒れました。

 世話役の女性が受け止めたけど、委員長は意識を失ったままで、軽く痙攣まで起こしているようです。

 世話役の女性は、委員長をソファーに横たえると、診察室の外にいた兵士に声を掛けました。


「軍の治癒士を呼んでちょうだい!」

「あの、聖女様は……」

「いいから、早く! それと今日の治療は打ち切りよ、帰ってもらって、早く行って!」

「は、はい!」


 世話役の女性が委員長から離れた隙に、影から治癒魔法を流そうとして、一瞬躊躇してしまいました。

 このまま委員長を治療して、体調を回復させたら、逆に追い詰める事になるのではと思ってしまったのです。

 でも、迷ったのは一瞬で、今の委員長に治療が必要なのは明らかです。

 ここで治癒魔法を掛けずに、委員長にもしもの事があったら、悔やんでも悔やみきれません。


 委員長の背中にそっと手をあてて、全身に巡るように治癒魔法を流しました。

 治癒魔法を流している僕の手に、委員長の棘棘とした感情が流れ込んで来るような錯覚に囚われます。

 その棘棘とした感情すらも癒せるように願いながら、治癒魔法を流していると、委員長の苦しげだった呼吸が落ち着いて行くのが分かりました。

 委員長の治療を終えた僕は、性悪王女を探して移動を始めました。

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― 新着の感想 ―
身から出た錆かな、力を自分の為だけに振るえばそれ以上の力に脅かされても文句を言えんよ
[一言] まあこれも因果応報ってことなのかな。
[気になる点] 始末するのがまだ早いと言うなら、バレないように痛めつけて、同郷に八つ当たりするようなら、もっと発狂する位、苦しませて、もし死んじゃったら、こっそり処理して、同郷に接触したら解放して、逃…
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