皇帝来訪(前編)
ディートヘルムの戴冠式に出席した翌日は、バルシャニアへ新年の挨拶に向かおうと思ったのですが、マノンに子供が生まれたばかりですし、唯香もセラフィマも身重の体なので、皇帝夫妻に来てもらうことにしちゃいました。
「じゃあ、ちょっとお迎えに行ってくるね」
「はい、いってらっしゃいませ」
セラフィマに見送られながら影の空間に潜り、バルシャニアを目指します。
本日お招きするのは、皇帝コンスタンさん、皇妃リサヴェータさん、そして第一皇子グレゴリエさんのお三方です。
グレゴリエさんをお招きするのは、クラウスさんからの要望でもあります。
まぁ、親バカのクラウスさんが、バルシャニアという遠方の国へアンジェお姉ちゃんを嫁に出すのですから、相手の男を見極めないと気が済まないのでしょう。
と言っても、たぶん飲んだくれて終わりそうな気がするんだよなぁ……。
ヴォルザードの自宅を、今日はゆっくりめに出発しましたが、バルシャニアの帝都グリャーエフに到着したのは朝早い時間です。
グリャーエフはバルシャニアの西方にあるので、ヴォルザードからはリーゼンブルグ王国を横断し、ダビーラ砂漠を超え、バルシャニアに入ってから更に西へ進んだ感じです。
体感的には、二時間ちょいぐらい時差があるように感じます。
バルシャニアの皆さんは、打ち合わせした場所に揃っておりました。
「明けましておめでとうございます」
「明けましておめでとう、婿殿。今年もよろしく頼むぞ」
「今年は平穏な年だと良いですね」
「まったくだな。西の方が静かにしていてくれれば良いのだが……」
コンスタンさんが頭を痛めているのは、バルシャニアの西隣のフェルシアーヌ皇国の更に西にある、キリア、ヨーゲセン、エルマネアの三国の事です。
地球で言うところの銃にあたる魔筒が開発されて、攻め込んだり、攻め込まれたりしていました。
僕の眷属の活躍もあって、元の国境線まで戻したのですが、あれからどうなってるんでしょうかね。
「ケントさん、今年もよろしくね」
「はい、よろしくお願いします。リサヴェータ義母さん」
「今年は、私もお祖母ちゃんになるのよね」
「セラフィマに色々アドバイスしてあげてください」
「勿論、そのつもりよ」
五人の子供を産み育てたリサヴェータさんからアドバイスを聞けば、セラフィマも安心するんじゃないですかね。
ただ、リサヴェータさんは安産型の体型をしていらっしゃいますけど、セラフィマはロリ体型なのが気がかりです。
でも、同じような体型のマノンでも、無事に出産できましたから大丈夫でしょう。
「ケント、今日はよろしく頼むな」
「はい、一旦我が家にお送りして、それから領主の館までは馬車で移動の予定です」
「領主の館まで直接ではないのだな」
「ヴォルザードの街並みを見てほしいそうです」
「そうか、それは楽しみだな」
グレゴリエさんが楽しみにしているのは、アンジェお姉ちゃんとの再会じゃないんですかね。
お二人は、アンジェお姉ちゃんが僕とお嫁さんたちがバルシャニアを訪れた際に同行して、その時に顔合わせをしております。
アンジェお姉ちゃんは美人ですし、母親であるマリアンヌさん譲りのダイナマイトボディーの持ち主ですし、性格も優しいですし、文句のつけどころなんてありませんよね。
更には、魔性の撫でテクの持ち主ですし、結婚したら夜の生活はさぞや……うらやま、けしからんですね。
待ち合わせの場所には、ヨシーエフ、ニコラーエ、スタニエラの第二から第四までの皇子も顔を揃えていました。
昨日は、家臣団との新年祝賀行事を行ったそうです。
「ケント、肉体思考の兄貴を頼むな」
「ヨシーエフ義兄さん、それは保証しかねます……」
「そうだぞ、兄貴、どうせボロが出るなら早い方が良いだろう」
「僕もニコラーエ義兄さんの言う通りだと思いますよ」
「やっぱ、俺も遊びに行っちゃ駄目かな?」
「スタニエラ義兄さん、また今度招待しますよ」
「いや、今日の居残り組は、全員招待してくれ」
「そうだ、頼むぞケント」
「はいはい、ちゃんと機会を設けますから、安心してください」
話し込んでいると遅くなりそうなので、そろそろヴォルザードへ向かいましょう。
「では、ヴォルザードまで送りますので、そのまま動かないで下さい……送還!」
コンスタンさん、リサヴェータさん、グレゴリエさんの三人を送還術でヴォルザードへ送った後、僕も影の空間を通って戻りました。
我が家では、お嫁さんたちと眷属のみんなが揃って出迎えていました。
「うぉぉ……黒いサラマンダーだと……ストームキャットまで……」
以前にも来ているコンスタンさんとリサヴェータさんは平気ですが、初来訪のグレゴリエさんは目を見開いて驚いています。
「フラムっす、よろしくっす」
「ネロは我が家の番猫にゃ」
「グ、グレゴリエだ……よろしく……」
まぁ、初めてだと驚くよね。
というかネロは、ナイフみたいな爪を出して舐めてみせるのはやめなさい。
「それでは、僕は皆さんの到着をお知らせしてきますので、馬車が来るまで応接間でお待ちください」
三人を応接間に案内してもらって、その間に僕は領主の館へ向かいました。
クラウスさん一家は、四人揃ってリビングで寛いでいました。
「おはようございます、ケントです」
「おぅ、コンスタンが着いたか?」
「はい、うちの応接間で待ってもらっています」
クラウスさんとコンスタンさんは、僕の結婚披露パーティーで顔を合わせて、すっかり意気投合しています。
腕っぷしも強くて、頭も切れる良く似たタイプなので、最初から気が合ったみたいです。
領地を統治する考えも二人は近いようですし、日頃の苦労なんかも共感しているみたいです。
「さて、グレゴリエとやらの顔を拝ませてもらうか……」
「親父、あんまり手荒くしないでくれよ」
「さぁて、それは相手次第だな」
アウグスト義兄さんも、砕けた調子で話すのにも慣れてきたみたいです。
いつの間にか、親父呼びするようになってますもんね。
「では、守備隊に馬車を回してもらいますね」
「おぅ、あちこち飛び回らせて悪いな」
「いえいえ、僕にとっては隣の部屋に行くのと変わりませんから」
コンスタンさんたちを乗せる馬車は、我が家のすぐ近くにある守備隊の施設に用意してもらっています。
領主の館から、守備隊の門の前へと移動すると、門の奥に四頭立ての立派な馬車が用意されているのが見えました。
門を守る衛士は、僕の顔を見るとニッコリ微笑んで通ってくれと手振りで促してくれました。
「明けましておめでとうございます。カルツさん、今日はよろしくお願いします」
「明けましておめでとう。バルシャニアの皆様は、お着きになられたのか?」
「はい、クラウスさんにも知らせて来ました」
「では、ケントの家の門の前に付けるから、バルシャニアの皆様をご案内してくれ」
カルツさんが馬に乗り、馬車を先導してくれるようです。
馬車を回してもらっている間に、僕は自宅へと戻ってコンスタンさんたちを門の所まで案内します。
本当なら、家の玄関まで馬車を横付けできれば良いのですが、眷属のみんなが居るので、馬が怯えて入って来られないんですよね。
「お待たせしました。馬車が参りますので、ご案内いたします」
「クラウスに会うのも久しぶりだ。今日はこちらも美味い酒を用意してきたからな」
「僕も故郷の良い酒を用意してますから、楽しみにしていてください」
唯香の父、唯生さんに頼んで、上等な日本酒を買ってきてもらいました。
大晦日に全部飲まれてしまわないように、事前に確保してあるから大丈夫ですよ。
ではでは、ヴォルザードの領主の館に向かいましょう。





