依頼を受けに
「すみません、依頼を受けたいんですけど……」
翌日、『月の雫亭』で朝食を終えた俺はギルドに来ていた。
昨日の職員さんは登録専用の受け付けだったらしく、依頼のことを尋ねると違う受け付けに行くように言われた。
「なら、自分のランクにあった依頼をあっちから選んで持ってこいよ。 何でわざわざ俺に聞くんだよ」
面倒臭ぇなぁと、怠そうな表情で愚痴られた。
今、担当してくれているのは30代くらいの男。
顔立ちは整っているものの、その雰囲気や身嗜みでぶち壊しているところを見れば残念な男だと言わざるを得ない
おまけに、態度も悪い
「いや、だから、昨日登録したばかりでそこのところが全然分からないんですよ。 依頼とかランクに関しての説明をお願いしたいんですけど……」
「うわっ、見ねぇ顔だと思ってたら新人だったのかよ……。 さらに面倒臭ぇ。仕事増やすんじゃねぇよ」
なんか、さらに愚痴られた。
男の理不尽な文句に、少々イラついていた俺だったが、こんなことですぐキレるようではVRMMOなんぞやれないのだ。 中には、これより酷い輩もいたりする。
そんなときにプレイヤーに求められるのは、そいつをマトモに相手にしない大人な対応なのだ。 文句は心の中でこっそりと。
だから、俺はこの男に呪詛の念を送ってやろう。
「はぁ……ちょっと待ってろ」
心の中で俺が男に呪いの言葉を投げ掛けていると、盛大にため息をついた男は奥の引き出しから1枚の書類を手渡してきた。
「そこに、ランクとか依頼とかの説明全部載ってっからよ。 どっか空いてる席に座って読んどけ。 読み終わったら返しにこいよ」
要するに、説明が面倒なため丸投げしたのかこいつは
だが、俺としても中年のおっさんのやる気のない説明を聞くよりはこっちの方がありがたい。
せめて、担当がキレイな女性なら我慢してでも頑張ったのに!!
まぁ、そんなかと言っても仕方ないのだが
「にしても、これ、紙なんだよな?」
昨日の登録の際にも思っていたことなのだが、手渡された紙は茶色っぽく、ゴワゴワしている。
これがこの世界の基準なのだろうか? だとすれば、苻術で使う紙は自分で作るしかない。 この紙ではただでさえ一般の魔術よりも威力の低い苻術であるのに、さらに威力を落とすことになってしまう。
「まぁ、紙についてはおいおい考えよう。 幸い、製紙の材料も道具も手元にあるし、スキルもある」
とりあえず、内容だ。
俺は手元の紙に書かれている内容を見る。
まずはランクの説明だ
冒険者のランクは全部で10段階。下はIから、上はSまで。
登録時には全員がIランクとなり、これはできる依頼が街の中での仕事ーー清掃や手伝いなどーーのみに限られる。
これは街の人に対する顔見せの役割も持っているらしい。
そして、Iランクの依頼をこなしていけば、職員の人からHランクへの昇格を言い渡されるらしい。
Hランクでは、街の外にも出られるようになるそうだ。 ただし、ここではまだ討伐系統の依頼はなく、主に魔物ーー昨日森でアルト達を襲っていた狼みたいなやつらのことーーのいない森の入口付近での薬草や木の実などの採取が基本らしい。
そして、今度はGランクへと上がるのだが、戦闘経験の無い者は、しばらくの間戦闘訓練を受けるらしい。
なんでも、HからGに上がるには昇格試験として、試験官となる冒険者と試合をせねばならないらしい。
尚、必要の無い者は訓練を受けなくても良いとのこと。
Gランクから討伐系統の依頼が入ってくるようになるらしいが、依頼を受ける際には自身のランク以下のものしか選べないらしい。
当然と言えば当然である。
そして、Sランクなのだが、これは国を救った英雄などが名誉として与えられるもので普通は無いらしい。
「てことは、過去にそういうのがいたってことか……」
国を救うとは、なかなか大したことをする者である。
昇格試験はHからG、CからBの2回行われるそうだ
ランクについてはこれくらい。
依頼は掲示板に貼り出される一般の依頼と、個人やパーティを指名する指命依頼があるらしい。
違いと言えば、人を特定するため、報酬が他のものより高いといったところか。
依頼人が指命依頼で指名できるのはEランクかららしい。
あとは、パーティについて。
これは固定パーティと臨時パーティの2種類があり、固定はその名の通り、特定の人たちが集まったチームよのうなもので、臨時パーティは利害の一致した者同士が一時的に組んだパーティのことだ。
固定も臨時も、組んだ当初はパーティに属する冒険者の平均ランクがパーティランクとされるが、固定の場合、そのパーティで依頼をこなしていけば、パーティも上がるらしい。
その代わり、個人のランクは上がらないらしいが
「なるほどね……」
手元の紙から目を離し、ふぅっ、と一息ついた。
登録したばかりであるため、俺のランクはIランク。
街の中でしか動けないのは残念だが、これも必要なこととして割りきるしかない。
俺は1人で掲示板に向かうと、Iランクの依頼を探した。
「これとこれの2つ。 受けます。 それとこれ、ありがとうございました」
俺が選んだのは清掃と荷物運びの2つ。 掲示板に貼られていた2枚の依頼の紙を手に取って、先程の男の所にもっていった
あいよ、と見るかにやる気の無さそうな声であったが、俺に渡した紙をもとの場所に戻し、依頼の紙に赤い判を押した。
そのあと、名前は?と聞かれたため、フミヅキですと返すと、渡した依頼の紙に俺の名前も書き込んだ。
誰が受けたか明確にするためなのだろう
「んじゃ、頼むわ。 助かったぜ、誰も受けなかったら、俺がやることになってっからよ」
よかったよかったと嬉しそうな男。 この人もここ、オフェルのギルドの冒険者を兼業しているそうだ。
ためしに、鑑定を使ってみると、驚くべき事実が判明した
チャード 男 32歳 人族 剣士
剣術 68
ギルドオフェル支部副ギルド長 『頼れる怠け者』
アルトたちを見たときよりもしっかりと見たためか、読み取れる情報が多かった。
そして、副ギルド長。
………大丈夫なの? このギルド