街
「『電撃』!」
術苻入れから手元に『電撃』の術苻を4枚呼び出し、それを向かってくる赤い狼ーーレッドウルフに投げつける
すると、術苻は淡く光り、次の瞬間には青白い稲妻となって敵を襲う
狙い通りに放たれた攻撃はしっかりと胴を捉え、狼はギャンッ!と鳴いて動きが止まる
『電撃』は『魔弾』よりも速度があるが、その分、威力が落ちる。 だが、これをくらった相手は、一時的に麻痺によって動きを止めるため、WFO序盤でもかなりお世話になったのを覚えている
「それっ!!」
足の止まった狼の顎をアッパーで打ち抜いた後、胴体に回し蹴りを叩き込む。 痺れて声も出せないのか、狼は木に叩きつけられるとそのままぐったりと動かなくなった
首が変な方向に曲がっている。 多分死んでいるのだろう
チラリと横目で3人を確認する。 怪我をしているシリウスという少年は負傷している方とは逆の手で短槍を持ち、狼に応戦している
アルトと名乗った男の娘はたまに危なげな時もあるが、それでも上手く狼相手に立ち回っている
そして、少女2人だ。
マリーという獣人の女の子はスピードを生かしたヒットアンドアウェイの戦法で敵を掻き乱し、エルノという少女は狼が登れない木の上から次々に矢を放っていく
俺が介入して、戦況が動いたのか、先程までの劣勢が嘘のようだ
なら、俺のすることは決まっている
術苻入れから呼び出したのは『停滞』の術苻
一応、補足を入れておくが、この術苻入れ。 苻術スキルをとったもの全員に配られる装備で、中身の術苻さえ分かっていれば探そうとせずとも手元に望んだ術苻が現れるようになっている
どうやら、こちらでもそれは同じなようだ。 助かる
「『停滞』!」
投げつけたそれは狼に当たることはなく、ある程度の距離を飛ぶと淡く光りだし、次の瞬間には弾けた
これで、あそこを中心とした一帯は停滞の魔術がかかり、敵の動きが鈍くなる
3人も驚いたようで、急に足が遅くなった狼に動揺するが、チャンスだと思ったのか攻撃を再開
どんどん数を減らした狼は、やがて最後の一匹が倒れた
「助かりました。 ほんと、ありがとうございます」
「気にすんなって。 無事で何より」
現在は森の中を案内してもらいながらアルト達と話していた
あの戦闘の後、何かお礼をとか言われたため、その代わりに町までの案内を頼んだのだ
……俺が最初に進んでいた方角とは全くの逆だったことにはかなりへこんだが…
そして、負傷していたシリウスという少年だが、それほどひどい怪我ではなかったため、『治癒』の術苻で治した
その時、4人から驚いたような顔をされたのだが、何か問題でもあったのかと気になって仕方ない
「しっかし、やっぱ魔術ってすげぇよな。 俺も使いたいもんだぜ」
そう言って残念そうにため息をつくシリウス。 そんな彼の呟きに言葉を返したのは獣人の少女、マリーであった
「無理に決まってるでしょ。 魔術は貴族の特権なんだから。 ですよね、フミヅキ様」
何故俺は様付けなのだろうかと質問しようとしたが、止めた。 今の言葉を聞く限り、どうやら貴族というものたちがいて、その人たちにしか魔術は使えないと
で、それを使った俺は貴族だと
だが、彼女の考えは全くの検討外れである
「残念だけど、違うよ。 俺はそんな大層なもんじゃない」
「え? でも、魔術を使ってましたよね?」
不思議そうに返すエルノに俺はアハハッと笑った
「俺のはちょっと変わっててな。やり方が特殊なんだよ」
「お、俺にも使えるんですか?」
そんな俺の言葉に興味を持ったのか、シリウスが身を乗り出すようにして詰め寄ってきた
「あ、いや。 それは…」
「シリウス。 止めなよ。 冒険者にとって、自分の情報は他人に教えたくないものだよ」
シリウスに注意を呼び掛けたのは先頭でフミヅキを案内してくれるアルトであった。 動くたびに後ろでくくられた髪がピョコピョコ跳ねている
「まぁ、何はともあれ、課題はクリアだな」
「? 課題?」
「冒険者学校の課題のことですよ。今日は薬草をとりにきてたんですけど、運悪くあんなことになっちゃいまして」
冒険者学校と言われてもよく分からないが、恐らく、冒険者になるための学校なのだろう
アルトたちはその学校の同じ3年のクラスメイトであるらしい。 今はこの4人でパーティを組んでいるんだとか
「へぇー。 そうなのか」
「はい。 フミヅキさんはどこの学校の出身なんですか?」
ここで現世のことを言ってもおかしな話だろう。た多分、アルトが聞いているのは冒険者学校のことだ
「残念だが、俺はどこの学校も行ってないぞ」
「あ、そうなんですか。 なら、ギルドランクは?」
また、知らん単語だ。 だが、察するにアルト達のような冒険者が集まって依頼をこなす何でも屋みたいなものなのだろう
だが、俺がこんな状況になったのも今日が最初。そそんなものに入っているはずもないため、俺は素直に首を降った
「え? 入ってないんですか?」
「おう。 まぁ、それも含めて町についたら色々とやるからな」
「どこかで鍛えてました?」
「まぁな」
さすがにゲーム内で! などとは言えなかった
「あ、着きました。 オフェルですよ」
先頭を歩くアルトが森の向こうを指差した。 よく見えないが、木々の隙間から大きな壁が見えた
城壁のようなものなのだろう
そして、異世界の町だ
「?どうかしましたか?」
「あ、いや。気にしないでくれ」
少々その壁の圧巻に驚いていたが、アルト達はなんともないらしい。
最初こそは俺みたいな反応になったが、慣れると大丈夫だそうだ
「それじゃ、なかに入りましょうか」
そんなアルトの声に俺はついにきたか。と気持ちを落ち受ける
異世界の街がどうなっているのか、すごく興味がある