己を知り、敵を知ればっていうから、まずは自分のことを知ろうと思う
ある程度進んだところで、丁度休憩するのにもってこいな大きな木があったため、これ幸いと上に登る
どうやら、俺がWFOで取得していたスキルは健在なようで、いとも簡単に背中を預けて座れそうな場所に到達した
「うん、今、こんなときだから思うが、軽業すげぇな」
下を見下ろせば数十メートルはあるだろう。 この高さを僅か数秒で登ったのだ。 現実の俺なら無理だ
「やっぱ、そういうことなんだよな……」
ゲームのアバターで異世界へ。 ネットなんかでも見かけるような展開だが、本当に現実になるとは思ってもみなかった
だが、着の身着のままで異世界へ放り出されるよりはよっぽどましだと言えるだろう。 なんせ、今の俺はWFOのフミヅキなのだから
「……持ち物とか、色々と確認しなきゃな…」
マップ、チャット、ログアウトの3つは、使えないことが判明しているため良いとして(決してよくないが)他に使える機能、使えない機能などの確認をし、後は俺自身、本当にあのフミヅキのままであるのかも知らなければならない
なんせ、ここが何処だとも分からなければ、何があるのかも知らない。 異世界だとして、危険がないと言い切れる訳がない
「さて、始めるか……」
「ふぅっ、こんなもんか」
結論から言えば、最初にダメだった3つ以外の機能は全部使えた。 アイテムボックスとか、メモとかカメラとか色々だ
とりあえず、アイテムボックスが使えるのは助かった。 中には、貴重な素材や料理の材料。 後は道具なんかが入っているため、使えず取り出せない、何てことになっていれば大変だった
いやはや、ほんとに助かった
「後は、俺か……」
とりあえず、メインであった苻術のスキルを試す。 苻術のスキルを取った際に配備される術苻入れから、一枚の術苻を取り出した。 表には『水』の一文字
「……『水』、起動」
ボソリと呟くように言った言葉だったが、術苻は淡く光ると、消える代わりに拳大の水の塊を数秒間俺の手の上に出現させ、やがて木の根本に落っこちた
「術苻は大丈夫。 なら、次はこれか。 式神『水』、来い」
命令するように言った言葉に反応し、術苻入れの中から一枚の人の形に切られた紙がでてくる
もちろん、表に『水』の一文字
「起動」
そういっただけで先程の術苻と同じように淡く光を放った式神はやはり、消える代わりに拳大の水の塊を残した
結果は先程のものと同じだった
その後、俺は自らが取得しているスキルの大体を把握。 どれも問題なく、ゲーム時代の時と同じように動けるため、支障はない
「良かった……一応、戦闘とかになっても切り抜けられる可能性は出てきた」
心底安心した俺は緊張を解いて息を吐くとそのまま幹に体を預けるようにしてもたれかかった。
「……帰れんのかな、俺……」
見上げると木漏れ日が気持ちいい。
アイテムボックスの中からWFOの時から持っていた体力回復用の果物を取りだし、ガブリとかぶりついた
別に、ダメージを喰らったわけではないが空腹のため、何か腹にいれとかないと落ち着かないのだ
そのまま暫くは果物を咀嚼し、綺麗に種だけ残して種をアイテムボックスへ
普段なら、こんなことはしないのだが、ここは異世界。 この果物ーー回復林檎が存在するとは限らないため、埋めれば育つ種は取っておくことにしたのだ
「さてと、森は抜けるとして……そっからどうすっかねぇ~」
苦笑いとともにはぁとため息をつく。 なんせ、異世界(多分だけど)。 何が起こるかわからないが、せめて、人のいるところには辿り着きたい
だが、マップは使えない。 木の年輪を見れば北と南くらいは判断がつくだろうと切り株を探すが、都合よく、そんなものがあるわけがなく、早々に諦めた
仕方なくもう一度森の中を歩こうと切り株を探していた足のまま俺はスキルである気配察知と気配遮断を使って進む。
どちらも高レベルであるため、大抵のことでは気づかれない。 パーフェクト
少し休憩して頭が冷えたのか、さっきのようにイライラすることはない
だから、俺はその音に気付いた
「……? この音は…」
微かに人の声、そして何か動物の鳴き声。 意識をその方向へ集中させると、俺の気配察知に数名の人と10を越える動物の気配
「これは……戦闘音か?」
それも、人の方が劣勢っぽい感じだ
WFOなら、町の神殿で復活するし、割って入って経験値の横取りなんて思われるのを避けるために介入しないが、生憎、ここは(多分だけど)異世界。 現実だ。 なら、この世界がどうかは知らないが、人が死ねばゲームのようにいかない可能性もある
あと、上手く接触できれば、ここが何処なのかも聞き出せる。 情報は欲しい
「……行ってみるか…」
俺は森の中を駆け出した