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世渡りの鍵

「皆! お疲れ様!」



大剣を担ぎ、嬉しそうにメンバーの元へかけ戻ってくる赤髪の剣士。 先程、アルファと呼ばれていたリーダーだ



「んなことはいい。 なぁ、ちゃんと見たかっ!この俺の火力を!! 凄かったろ!」



アルファの労いの言葉をバッサリと切り捨て、メンバーに同意を求める赤いローブを纏ったエルドと呼ばれていた魔術師



「確かにそうだが……レンジャーのおかげってのもあるしな」


「そうそう。 それと、僕のおかげでもありますから」


巨大な盾を背負った騎士の一人が呟くのと同時に、白いローブの魔術師も頷く



「レンジャーの弓矢のコントロール。 いくらシステムアシスト付いてるっつっても、あの目を射抜く芸当は無理だぜ…」


「俺もだ。 てか、逆に射抜かれてみたい」



同時に、二本の矢を放つ姿を思い出したスピアが納得の声をあげると、その傍らで全人甲冑のフルフェイスの男の騎士が体をうねらせていた



「おいおいおい! 俺の話からずれてんぞ! あとエム! 気持ち悪ぃ想像してんじゃねぇよ!」


瞬く間に自らの話が流されたことが悔しかったのか怒ったエルド



そんな様子を見ていた黒装束の男NINJAがボソリと呟く


「やはり、エルド殿は目立ちたがりでござるなぁ……

「全くです。 まぁ、そんなところがエルドさんらしいっちゃらしいんですけどね」



NINJAの呟きが聞こえたのか白いローブの魔術師であるシロ坊がアハハと笑った



VRMMORPG『ワールドファンタジアオンライン』、通称WFOと呼ばれるこのゲームは、サービス開始から約3年経つわりと新しいゲームだ。


最近、科学技術が進歩し、数十年前から普及し始めたVRゲームであるが、このWFOは発売当初からかなりの注目を集め、今ではプレイ人口が100万人を越えた人気のゲーム


高い自由性。豊富なスキル。クオリティの高さなどなど、数えればきりがない。



そんなWFO内において、実力No.1と言われるギルドがある


それこそが、アルファがギルドリーダーを務めている『最強ゲーム厨』だ


ギルド名はアルファが決めたらしいが、これを期に、アルファのネーミングセンスの無さが知られるようになったのは、また別の話だ



閑話休題



そんな『最強ゲーム厨』の所属メンバーはたったの8人


リーダーのアルファ、切り込み隊長のスピア、タンクを務めるナイン、同じくタンクのエムエム、主に仲間の強化、敵の弱体化を行うシロ坊、火力厨のエルド、正確無比な弓の腕を持つトレジャー、忍者プレイを志すNINJA


WFOでは、数多存在するスキルの中から、一つだけメインスキルとしてセットすることになっているのだが、このメインスキルのみ、通常スキルレベル100が上限のところ、120まで伸ばすことが可能となったいる


そのため、このメインスキルにセットしたスキルによって、おのずとその人の役割(職業)が決まってくるのだ


メインを剣術とするアルファなら剣士


火魔術をメインとするエルドなら魔術師


また、メインに生産系統のスキルを選ぶと職人といった具合だ



スキルはメインの他に14取得可能なため、個人の好きなようにスキルを組み、一人一人のプレイスタイルで楽しめるようになっているのだ



だが、この場に居合わせる残った男。 彼に限ってはプレイヤー内であまり良い扱いをされていないスキルをメインとしているのだ



「なぁ、やっぱ、お前もうちのギルド入ろうぜ?フミヅキ」



「お、アルファ。 お疲れ」


フミヅキと呼ばれた男はメンバー内でも、かなり奇妙な格好をしていた


まるで平安貴族を思わせるような黒の烏帽子に青の直衣(ナオシ) 、指貫、さらにその手には桧扇(ヒアブキ)が握られていた


「おう、お疲れ。 で?返事はどうなんだよ」



「悪いけど、止めておくよ。 だけど、今日みたいに臨時パーティ組むなら何時でも大歓迎だよ」


「ちぇっ、残念だな」



あーあ。と、いかにも残念そうにため息をつくアルファはそれにしてもとフミヅキに向き直った



「こう、パーティ組んで、一緒に戦ってみると、何で苻術のスキルが不遇扱いなのかさっぱりわかんねぇぜ」



「まぁ、確かに扱いにくいスキルだしね。 それに、かかるコストの割りに、威力はそこまでないからね」



フミヅキのメインスキルである苻術。 魔術のスキルと同じく、魔術系統スキルとされているのだが、実際は少々違っている



利点としては術苻と呼ばれる文字を書いた紙を媒体とするため、詠唱なしのほぼノータイムで魔術が発動するのだが、その代わり、通常の魔術よりも威力、射程、効果範囲などの効果が低くなり、しかも術苻用の紙が必要になる


さらに、この紙、ドロップにはなく、モンスターであるトレントのドロップアイテムである木材を製紙のスキルを持つプレイヤーにつくってもらわなければならないのだが、そのスキルを持つ人がゲームではかなり少ないのだ


おかげでフミヅキの取得スキルの一つにも製紙が入っている



つまり、苻術のスキルは利点のわりに不便な点が多く、今では不遇扱い


「んで、それがメインなんだもんな」



「いいんだよ。 けっこう使えるんだし」



それに、とフミヅキは続ける


「俺自身、もともとソロで活動するつもりだったからな。 これなら、誰もギルドに入れなんて言われないと思ってたんだが…」



「あんなけやれんだ。 むしろ、ほっとくほうがどうかしてるぜ」



まるで、俺は諦めてないぞとでもいいそうな目でフミヅキを見るアルファ



そんな目線にいたたまれなくなったのか、フミヅキは今回のダンジョンの最下層のボスである魔竜を撃破した報酬を確認し始める



ドロップのなかには、自分の持つローブよりも高性能な魔竜のローブなるものを発見し、顔を綻ばせた



「……ん? なんだこれ……?」



ふと、気になったドロップアイテム発見した



『世渡りの鍵』



サービス開始からこのゲームを続けているフミヅキも聞いたことのないアイテム



「? フミヅキ、どうした?」



俺の様子に気付いたのか、アルファが尋ねてくる



「いや、ちょっとな」



なんか、こんなアイテムが出てきたんだが、とそのアイテムをアイテムボックスから取り出した瞬間だった



「ぬわぁっ!!??」



「は?」



一瞬だけ鍵の形が見えたと思えば、それは強烈な光を放ち、たちまちフミヅキ達の視界を奪った



アルファ以外のメンバーも事態に気付くが、もう遅い



フミヅキが目にした最後の光景は、目を覆い隠すようにして佇むアルファ達の姿であった

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