年下男子と不可解な感情。
ツイッターのフォロワーさまからのリクエスト話。表情が分かりにくいクールな年上女子と、積極的な年下男子というリクから作ってみました。が、書いてるうちに論点がずれてきて、ちょっとリクから離れた話になってしまったかも…。良ければお付き合いください。
学生の頃お世話になっていたバイト先に、そのまま就職して5年目。表情が乏しいと昔から定評のある私だが、店長はそんな私を受け入れてくれ、感謝しきれないくらいだ。ファミレスで学生はよく勉強をするが、店側からしてみれば迷惑だったりする。長く居座られると食事に来た他のお客様の迷惑になるし、集客率も落ちる。私の友人の働くファミレスはその関係で最近潰れた。お昼時、夕食時というのは、非常に迷惑だ。別に談笑を邪魔したくはないし、勉強が大変なのも分かる。でも場所は考えてほしい。だから、追い出しにかかる。“ここは食事をする場なので場所を移してください”と。
ただ、深夜は別だ。立地にもよると思うが、私の働くここは、深夜は静かで、その時間帯については何の問題もない。勉強されようが、おしゃべりで居座られようが。少なくとも私はそう思っている。
何とか君がかっこいいだの、彼氏ができただの……そういう話をよく耳にするが、私には縁のない話だった。学生の頃は、勉強とバイトに明け暮れて、たまに友人と出かけることはあっても、恋愛する余裕はなかった。というか、そういう類のものに興味がなかった。周囲が結婚、婚約だのわいわいしている中、私は今の環境が気に入っていた。
しかし、その環境が、最近崩されつつある。たった一人の男によって。しかも年下の、まだ学生に。ファミレスの席が埋まることのない深夜に来る学生に。
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃいましたー」
――不本意、まさにそれだ。
噂をすれば何とやら。何がそんなに嬉しいのか、笑顔で今日もその人は店にやってきた。身に付けた自分なりの営業スマイルで微笑めば、ニコニコと言葉が返される。何だか毎回この会話をしている気がする。
「……お好きな席にどうぞ」
「どこに座ってほしい?」
……この人の言ってることが理解できないのは私だけだろうか。
「今日は何時にあがる?」
「メニューが決まりましたらお呼び下さい」
「冷たいなあ」
「仕事中ですので」
「そういうところ好きだよ」
「……失礼します」
今どきの、若い人はこういう人ばかりなのか。笑顔が眩しくて仕方ない。彼と初めて会ったのは数か月前。深夜のお客さんとして彼は来た。その時から眩しい笑顔付きで、まるで私のことを既に知っているかのように話しかけてきた。正直よく分からない。男の人と話すことなんて個人的にはあまりないし、男の人自体がよくわからない。ただ、悪い人ではない、と思っている。だって、ほんとに勉強頑張ってるから。言ってることはよくわからないけれど、勉強しているときは真剣で、私がお皿を下げに行っても気付かないこともある。話しかけられるのは来た時と帰る時だけで、仕事を邪魔されることもない。だから――そういう意味でも不本意なのだ。
仕事あがりの朝。裏口を出て、背伸びをする。まだ太陽は見えず、少し肌寒かった。帰ったら、洗濯物を取り込んで、お風呂に入って……とこれからすることを頭で組み立てながら、息を深く吐いた。そのとき。
「お疲れさまー」
「……!」
重ねられたコンテナの影からひょこっと現れた人物に、どうしようもなくあきれた。
「……また、ですか」
「暇なので」
いつもの眩しい笑顔に、嘆息する。約1時間前に帰ったはずの人が、何故ここにいる。最初の頃はそれを問いかけ続けていたけれど、もうやめた。何度問いかけても、『好きな人を待っていたらダメ?』とそれしか言わないから。本当に、よく分からない。なんで、こんな地味な私に関わろうとするんだろう?
最初に、言葉を告げられたときも、こんな日だった。この場所で。『好きです。付き合って下さい』ただ、それだけの言葉。もちろん私には響かなかったのだけれど。だって、理解に苦しむから。――好き、が分からない。好きって、なんだろう?
そして、断ったにも関わらず、店に来たり、私があがるのを待ったりする。こんな取り柄のない私に何を求めているのか分からない。営業スマイルは身に付けても、日頃は無表情に近いし、面白い話もできないし、平凡な顔だ。彼の目はおかしいと本気で心配しているのだ、これでも。
「まーた考え込んでる」
「……」
無意識のうちに寄せていた眉間のしわを伸ばすように指が触れ、すぐさまその手を払う。それでも、彼は相変わらずの笑顔で、気にしてる風でもない。
「今度は何を考えてた?」
「あなたの処理法を」
ぽろっと出た言葉に、あ、間違えたと思う。
「すみません、ちょっと間違えました。対処法でした」
彼は一瞬目を丸くし――、笑い出した。
「ははは…!さすがだ…!」
……やっぱり、よくわからない。
「私帰るので」
笑い続ける彼に嘆息して彼の横を通り過ぎると、腕を掴まれる。
「ちょっと、待って!怒った?」
焦りの見える顔と言葉に、少し驚く。――こんな顔もするんだ。
「笑って、ごめん」
縋るような腕への触れ方に、変な気分になる。なにだ、これ。。
「……怒ってません」
そっと手を外して、そう言うと彼は私の顔を覗きこむように顔を近づけてきた。近い、近くないですか。
「ほんとに怒ってない?」
「ええ」
「良かった…」
今度は安堵した表情。何だか今日は色んな顔を見てる気がする。笑顔の彼しか、私は知らないから。こんな風には、私はできないと思う。地味だ地味だと言われ続けてるから。彼と私は違う。違いすぎる。
「分からない…」
「何が?」
心の中で言ったつもりが、声になっていたようで彼に妙な顔をさせてしまった。
「なんであなたが私に構うのか」
「まだ、そんなこと考えてるの?」
少し低くなった声に、意味もなく心臓が跳ねる。
「好きだ、そう言ったの忘れた?」
「……」
「俺はあなたが好きなんだ」
――子どもだと思ってた子が急に大人になるのを感じて焦るとは、このことなのか。真剣な瞳に頭がガツンと殴られた気分になる。目が、逸らせない。さっきから、なんなんだろう?
「うーん、ようやく意識してくれた感じかな?」
「……知りません」
「あなたが知らなくても、俺はまだまだ頑張るからね」
「勝手にしてください」
変になった思考を振り払うように、首を振って、歩き出す。もう、勝手にやっててくれ。
「そんなこと言われたら、容赦なくガンガンいっちゃうからねー!」
背中に、明るい声を聞きながら、私は昼ごはんのメニューを考えた――。
――不可解なこの感情が解けるのは、いつになるのか。
fin?
昨年頂いたリクをようやく投稿することができました。データが消えるというドタバタからの投稿です。リクエストに答えることができたか謎ですが……相変わらずの自己満足暴走小説を読んでいただきありがとうございました!スライディング土下座!