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年の差の紡ぎ  作者: 翠凛
2/7

年上執事はお嬢様に永遠を誓う。

以前、フォレストノベルに掲載した作品です。恋愛のようなそうでないような。ある意味愛ある話です。

 女の子だから、お嬢様だからピンクが好き、だと思ってたら、それは大間違い。世の中には、ピンクが嫌いな女の子だっているっつーの!特に私とか!私とか!わ・た・し・とか!

そ れ な の に !

 目の前に広がる、ピンクピンクピンク……ッ!バックにポーチにヒールにドレスなどなど…。誕生日でもクリスマスでも、何かの記念日でもないのに、いつか部屋を埋めてしまうんじゃないか、という勢いの贈り物たち。吐き気がする。



ドカ……ッ

ガ……ッ


 積み上げられた箱を蹴散らして、開かれた窓へと走る。


私は


私は


私は……っ




「婚約者なんていらないの――っ!!」



バタバタバタ……ッ

バタン……ッ



「お嬢様!」

 ふう、と息をつき窓から離れたと同時に勢いよく開かれた扉。飛び込んできた人物はその勢いで私に近付きぐいぐいと腕を引っ張った。 

「叫ぶのは結構ですが、窓から身を乗り出すのはやめて下さい。私が死にそうです」

 見てもいないのに、事実を言う私の優秀な執事は、本気で焦ったのか顔色が少し悪かった。

「大丈夫よ、着地は得意だから。ちなみに木登りも」

 自慢げに、ない胸を張ると、窓を閉められ、強引に鏡台の椅子に座らされる。ええ、ええ、Aカップですけど何か?

「妙な自慢はいいです。私の為にも危ないことはしないで下さいね」

 ぽん、と頭に触れた温もりに私はこくりと頷く。

「じっとしてて下さいね」

「はーい」

 鏡越しに見える櫛を持つ彼に、私はひらひらと手を振った。



――私はこの優秀な執事、10歳年上の時弥にしか髪を触らせない。そして毎朝のこの時間が一日の中で一番好き。いつもなら他愛のない会話をするけれど、今日は話題がひとつのことへと流れていく。

「贈り物、どうなさいますか?」 

「むー…」

 私が蹴散らしたことで更に部屋中に散乱した贈り物を一瞥し、時弥は鏡に映る私に問う。どうしろと言われても、どうしようもない。嫌いだと言ったら嫌いだし、私には嫌いな贈り物を身に着けるほど寛容なものは備わってない。ふう、とため息をつき口を開く。

「私が好きそうなものは残して、他はメイドたちに分けて。ただし、絶対に捨てないこと」

 髪を梳き続ける時弥は、微笑して頷く。

「お嬢様は優しいですね」

 その言葉に思わず眉を寄せる。優しい要素をどの言葉から拾ったのか全く分からない。それに、この私が優しいわけがない。だって……

「私が優しかったら、今頃婚約者なんて決まってるのよ」

「お嬢様……」

 時弥は、困ったように私を見ていた。


――私は、近々婚約者を決めなくてはいけないらしい。私はまだ20歳になったばかりで、でも両親からしたらすぐに結婚とはいかなくても婚約をしてほしいらしく、最近はお見合い三昧だった。でも木登りを得意とするような私の性格からして、すんなり事が進むわけがない。お見合いの相手には微笑みひとつかけず、棘のある言葉を吐き続けた。

 その所為で、両親は悩み……なんと、何の目的もない昨夜のパーティーで私の婚約者候補探しを公表してしまった。つまりは、この贈り物たちはそれ。俺と結婚しましょ~、俺っていいやつでしょ~、みたいな胸糞悪い贈り物。早朝から嫌というほどやってくるのだ。

 パーティーの翌日によくやるものだなあ、とある意味感心する。ものすごく腹立つけど。贈り物なんて、意味はない。ピンクでない贈り物でも嬉しいとは思えない。何も欲しいものなんてない。そんなもの何年も前からないんだから。


「お嬢様、できましたよ」

 不意にかけられた声にはっとする。柄にもなく思考の渦に沈んでしまった。

「うん。ありがとー……ん?」

 なぜか髪に、きらりと光り、シャラランと揺れるものがある。

 時弥は男のくせに私より器用で髪のアレンジが得意だ。そのためいつも何かと凝った髪型にする。今日もやたらと編みこんでいるけど、……こんなの私持ってた?蒼い髪飾りなんて。

「どうしたの、これ?」

 背もたれに手を置き、くるりと振り返ると、時弥は笑みを深くして立っていた。

「気に入っていただけましたか?」

「あ、うん。すごく私好みだけど…」

「私からの贈り物です」

 さらりと言われた言葉に目を瞬かせる。耳の近くでシャラランと、音が聞こえる。

「え、なんで時弥が?今日は別に何かの……」


――あッ!


 壁掛けのカレンダーを見て、はっとする。そうだ、今日は……。



「「私たちが出会った日」」



 ……重なった声は心地好く、見上げると優しい瞳があった。もう、10年。当たり前のような生活で気づかなかった。しかも私は、何もプレゼントとか用意してないし。最悪な主人だ。

「ごめん。時弥、私」

「お嬢様、私はその髪飾りにかけて誓います」

「……は?」

 急に手をとられ、私を立ち上がらせたと思えば、時弥は膝を折った。まるで、お姫様と王子様のような。なんで、急に?訝しげに見下ろせば、柔らかい笑みが返り――

「私はずっとお嬢様のそばにいます」

「時、弥……」

 すべてを見透かしたような言葉に、泣きそうになった。



――10年前。お嬢様、お嬢様と言われる生活に耐え切れなくなって家を飛び出した。何も考えず、何も分からない子供の世間知らずのお嬢様だと痛感させられたのもあの日だった。気付いたら、たどり着いた街で迷子になっていて。情けない自分に腹が立って泣きたくなって。その時、私を見つけたのが時弥だった。

 街中に突っ立って唇を噛んでいた私の前に立ち塞がった大きな人。何この人?不審者?犯罪者?なんて睨んでたら、その人は急に私の手をとり、膝を折り。

『初めまして、今日からお嬢様にお仕えすることになった時弥です。私はずっとお嬢様のおそばにいます』

 馬鹿みたいに、道のど真ん中で笑ってた。



 だから、欲しいものなんてない。私には何も響かない。意味なんてない。だってあの日素晴らしいものをもらったから。時弥にもらったから。時弥と出会えたから。

「……っ!私の髪に触れていいのはっ、時弥だけ、なんだからね」

「はい、お嬢様」

「約束は守らなきゃいけないんだから」

「はい、お嬢様」

 揺れる瞳の先に、大切なものがある。私が何よりも大切にしたいものが。きっと、ずっと、それは変わらない。




何よりも

大切にしたいのは

大切だと

愛しいと

どうか永遠にと思うのは



「ずっとそばにいてね」

「はい、お嬢様」




――一生そばにいると誓ってくれた大切な人。






fin

読んでいただきありがとうございました。お嬢様と執事だけど、対して甘々な展開のない話でした。

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