パート02
「あ、あんたには関係ないわよっ!」
真っ赤な顔で否定するカノンを横目に、ラットはラエルと向き合った。ウルフは少し疲れたのか、ラエルの足元に座って寝始めた。
「それで……俺に何の用ですか、学園長?」
「き、決まってるでしょ! あんたが戦闘カリキュラムで聖霊と一緒に戦わないで一人で戦ってる事についてよ!」
「……と、いう事だ。彼女から直々にそう言われたら、こっちとしても黙ってられないだろう?」
「まあ、予想はしてましたが……」
ラットはカノンの事をちらりと見てから、ため息をついた。
「…………相変わらず、お前は余計なお節介を焼くな」
「何よ、いきなり……」
「それで、この事について君から何か言いたい事は?」
少し考える素振りをみせたかと思うと、ラットはラエルに向かって頭を下げた。
「すみませんでした、反省はしてません」
「うむ、結構」
「じゃあ、俺は用事があるので」
そう言ってラットは学園長室から出ようと――
「って、ちょっと待った――――――っ!」
――する前に、カノンに遮られた。
「なんだ、カノン」
「なんだ、じゃないでしょ!? あんたまったく反省する気ないでしょ! というかはっきりとしてないと言ったわよね! あと学園長! なんで学園長もそれで納得してるんですか、どう考えてもおかしいでしょう!?」
「まあまあカノンさん落ち着いて。ラット、君はこの後あの子と約束をしているんだろう? それに……」
ラエルはラットが持っていた『聖霊種・翼人型について』の本を見て、笑みをこぼした。
「あんまりに勉強熱心はいいが、あまり無理をしないように」
「……分かってる」
そう言って、今度こそラットは学園長室から出ていった。
「ちょ……学園長! これじゃあ何のためにあいつを呼んだのか意味が無いじゃないですか!」
「意味ならあるよ。それに彼の戦闘カリキュラムについてなら、もうカノンさんが心配する事はないよ。これについてはすでに監視局の方からも話はついてる」
「監視局から……?」
茫然とするカノンを気にせずに、ラエルは飲み干したカップに再び紅茶を入れて一口飲んだ。
「……まあ、この事については彼というより、彼の契約している聖霊の方に事情があるんだけれどもね」
「あいつの、聖霊にですか?」
「カノンさんほど仲がいい人なら、いずれ分かると思うよ」
彼が話してくれるならの話だけどね、とラエルは付け加えるように言った。
図書室に本を返して、待ち合わせの場所に向かう。
まったくカノンの奴……。余計な事をしやがって。けど思ったより早く終わったからなんとか図書館に本を返せるだけの時間が出来た。あとは下駄箱に向かって走るだけだ。
廊下を走っていると、丁度曲がろうとしていた角から小さな光が飛んできた。
「おっと……、フェイじゃないか」
「おやラットさん」
それは小さな光じゃなくて、俺の親友が契約している聖霊、フェイだった。
フェイは聖霊種がフェアリーのため体がとても小さいが、外見からは想像も出来ないような力と知識を持っている。それにきちんと礼儀を知っている。他のフェアリーと比べると、かなり稀だろう。
「丁度良かったです。今からラットさんを探しに行こうとしていたとこだったんです」
「俺を?」
「はい。とりあえず下駄箱に向かいましょう」
そう言われて、俺は少し不審に思いながらも下駄箱に向かう。
フェイが俺の事を探していたとなると、あいつは俺に何か用があるという事なのか?
「そういえばラットさん。この前の戦闘カリキュラムはおめでとうございました」
「ああ……。いや、いつもの事だからな。相手が素人だからいつも勝ててるだけだ」
「それでも、聖霊相手に一人で戦えるのは充分に凄いですよ。いくら契約されて力が制限されているからとしても」
ここまで誉められてしまったら、さすがに照れるな。けれど俺はそれを顔には出さず、ただ髪をかいて誤魔化した。
「けれど、さすがにそろそろ限界ではないかと」
「……何がだ?」
「そろそろ、聖霊の力の制限は全部ではありませんが解除されます。そうとなれば、さすがのラットさんでも一人では太刀打ちできないですよ」
そう。
さっきの学園長室での話でもあったが、俺が今まで聖霊であるあいつの力を使わずに勝ち続けていたのには理由がある。
まず一つ目は、この学園にいるほとんどの生徒が戦闘経験者が少ない事だ。かなり前から師匠に鍛えられてきた俺相手に、素人が勝てる奴なんかいないだろう。
そして二つ目に、契約されている聖霊の力が制限されている事にある。どちらかと言うならこっちの方が重要だろう。
なぜ制限されてるかというと、聖霊使いは契約された聖霊の力をすぐに使いこなす事は出来ない。力を最初に制限させて、徐々にその力を解放していき、それを使いこなす事が出来るようになってから、ようやく一人前の聖霊使いになれる。
つまり、力が制限されている聖霊が相手ならなんとか勝てているだけであって、フェイの言うとおり制限が解除されてしまった時、俺は歯が立たなくなってしまうだろう。
「やはり、ラットさんも彼女の力を使い始めた方が……」
「…………そうだな。考えておくよ」
フェイにそう言ったが、実際はすでに答えは決まっていた。
俺は今のやり方でやり続ける。それがあいつに一番負担をかけない方法だから……。
「お、やっと来たか」
下駄箱に着くと、俺の親友でもあり、フェイの契約者でもあるケン・サーチェスがいた。