パート16
ちなみにこの聖霊鎮圧用の札は効力は高いが、それに比例して値段も高い。
聖霊使いを育成するのが売りの学校にも関わらず、無料で支給をされているという訳ではないのだ。それはなぜかというと、まず理由の一つとして作成するのに時間がかかる。札を張るだけで聖霊の動きを止めてしまうのは、小さな札の中には複雑な術のようなものが書かれている。それを書ける人は少なく、そのため生産量が極端に少ないので、値が張る一つの理由だ。
そしてこの学校は国から支援を受けてはいるが、それを札に回すお金は無い。せいぜい設備の保持費と授業などで使う教科書の作成だけで消えていくと、あの学園長から聞いた。
にも関わらず、なぜ俺が持っているのか? それは皮肉なことだが学園長から試作品ということで無料でもらっているだけだ。
何を隠そう、あの学園長はこの札の製作者の一人でもあり、少しでも活用しやすくまた、誰でも書けるようにどれだけ簡単な術で聖霊の動きを長く止められるかと実験をするために、俺に実践カリキュラムの前に出来上がった試作の札を渡してくるのだ。
まあ、そのおかげでカリキュラムの時は大いに助かっているわけなんだが……。
「あの変態に手助けしてもらってるってのが、気に食わないんだよな……」
イモの皮を剥きながら、一人で愚痴る。
正直なところ、あのカリキュラムをサラの力を借りずに戦うのにはかなりの限界がある。対戦する相手は必ず聖霊とのタッグで、しかも能力を使ってくることもある。今までも何度か負けそうになった試合だってある。
それでも負けずに勝ち続けているのは、学園長が毎回くれるこの札のおかげだろう。聖霊の動きを完全に止められることが出来るこの札はもはや反則だ。しかも店で売っている物は学生にはとても買える値段ではないので、相手が使ってくることは決してない。
「まあ、たとえ使ってきてもあまり意味はないか……」
そんなことをぼやきながら鍋で炒めていると、どたばたと誰かが走ってくる音がした。
「ちょっとラット! いきなり何するのよ!」
「……は?」
台所に駆け込んできたのは、サラではなく札で動きを止められているはずのネネだった。
おかしい。あの札を張られてから約一時間は動かないはずなのに……。
「は、じゃないわよ! あんた足払いしておまけにこんな変な札まで張って! ちゃんと私の質問に――」
「うるさい」
大声を出し続けるネネの頭を使ってないフライパンの底で叩く。ゴワーンという妙に気持ちのいい音を出すと同時にそれ相当の痛みをネネに与えた。