パート14
「……………」
「待てサラ。ここでするな」
「あうっ……」
ずっと俺の肩の上に頭を乗せていたサラが、いきなり俺の首に噛みつこうとしていた。ここでその行為をするには少し問題があるし、さらにめんどくさい状況になってしまうかもしれない。
だがしかし、そろそろ頃合いであることには間違いなかった。
もし手遅れになってしまったら……。
「おいネネ。今すぐ戻るぞ」
「はあ? あんた誰に命令して――いたぁっ!?」
「いいから黙ってろ」
口答えをするネネの頭に拳骨を落として、急いで荷物をまとめて寮に戻る準備をする。
「どうしたいきなり? 急ぎの用事か?」
「そんなところだ。今日についての話なら、また後日に話す」
「りょーかい。それじゃあ、委員長。ちょいと俺に付き合ってデートにでも行こうぜ」
「な、何を言ってるのあなた!? あ、ちょっとラット、待ちなさい!」
ケンがカノンを引き留めている間に、俺はサラを背負いネネの腕を引っ張りながら寮へと戻って行った。
ガリシア学園の中にある施設の一つ。それはこの学園で過ごすうえで一番欠かせないのがこの寮だ。
世界中から聖霊と契約された者が集まるこの学園は、その膨大な人数が全員過ごせるように校舎と同等ぐらいの大きさを誇っている。それでも一人一人の部屋は小さくはなく、きちんと契約している聖霊と快適に過ごせるように作られている。
とはいえ、基本は聖霊が一人と契約者一人が住む部屋だ。そこに新たな聖霊が同居するとなると、当然部屋の数は足りなくなる。
「お前の今後の寝床はここだ。覚えておけ」
「これをどう寝床っていうのよ!?」
手渡したクッションをそのまま床に投げ捨てたネネ。ムカついたので一発チョップをしてみた。
「何をする」
「それはこっちのセリフよ! というか、あんたは人の頭を叩きすぎよ!」
「安心しろ。殴るのはお前だけだ」
ちなみに俺がネネに提供した寝床は、床の上にベットの代わりにタオルをひいてソファーに置いてあったクッションを枕代わりにして作った簡易ベットだ。
「これなら、ソファーの上で横になって寝るわよ……」
「なんだ。そっちの方がいいのか。俺はてっきり床で寝る方が好みかと思ったんだが」
「あんたは私をなんだと思ってるのよ!?」
「無理やり契約してきた聖霊」
「そうだけども!」
そこはきっちりと自覚しているあたり、まだ根は腐ってはないようだ。もしここで反論していたら、もう一発今度はグーで殴っていたところだ。
「……ラット」
「あ、悪いな。さっさとやらないとな」
「…………うん」
ソファーに座って腕まくりをすると、サラは首を振って違うと言ってきた。
「……今日は、首から」
「は? いや、いつもは腕からだろ。それにこいつもいるし――」
「首から」
「…………」
サラがいつもより真剣な表情で見てきたため、俺は断ることが出来ずにため息をついた。自分でも分かっているつもりではあるんだが、こういう所に俺はサラに甘いんだろう。
俺は座ったままサラを抱き上げて膝の上に座らせると、シャツの一番上のボタンを開ける。
そして――むき出しになった俺の首に、サラはその小さな口で噛んだ。