パート13
今までサラと過ごしてきて、これほどまでに怒っている事は一度もなかった。過去にあるとしたら、帰りにサラの好物であるプリンを買い忘れてしまったときぐらいだ。あの時は一日中口をきいてくれなかった。
けれど、これはそれと比較にならないほどに怒っていた。
「えっとだな……サラ。これは――」
「ん? 何よあんた。あたしよりも前に契約してる聖霊がいたの?」
ケン達との会話がうっとおしく感じたのか、ネネがサラの方に興味を示してきた。
「ふーん……」
「……………」
お互いに見つめ合う二人。いや、ネネの方はサラを値踏みしているような感じで、サラは警戒しているのかネネの事を睨んでいた。
「……ずいぶん、貧弱そうな聖霊ね」
こいつ、サラに一番言ってはいけない事を言いやがった。
「背もかなり小っちゃいし……見るからに弱そうな聖霊。もしかしてあたしよりも弱いんじゃない? だったらこれからはあたしが――あいたぁっ!?」
「いい加減にしろ」
これ以上、ネネがサラに対する侮辱を言わないように頭にゲンコツをしてやった。ただでさえ怒っているというのに、火に油を注ぐような事をもうさせちゃいけない。
「な、なにすんのよっ!」
「黙れ。もうお前はしゃべるな。息をするな」
「なんでよっ!?」
頭を殴られた程度で怒り始めるネネを無視して、俺はサラに近寄った。
「……………この女、殺していい?」
「サラ、ひとまず落ち着け。とりあえず俺の話を聞いてくれ」
「だって……」
「俺の知っているサラは、そんなことで怒らない、俺だけの優しい契約聖霊のはずだろう?」
そういいながら俺は、サラの頭を撫でてやりながらサラと目線を合わせるために、ゆっくりと膝を曲げる。
「…………心配、した」
「悪い、サラを置いて行って。だけどお前を危険な目に遭わせたくなかったんだ」
「そんなの……」
「それにお前の力を使わせたくなかった。俺はお前を守るって約束してるんだから」
「……うん」
そう言って優しく抱きしめてやると、ようやく機嫌を直してくれたのか俺の肩に頭を乗せてきた。
とりあえず、こっちの方はなんとかなったか……。
「……なに。ラットって幼女趣味なの?」
「あーそう思われても仕方ないかもな。けどそれはサラちゃん限定だ」
あとの問題は、ネネだけだった。なんか後ろでケンと話してるみたいだが、気にしないことにする。
正直に言うとするなら、俺は今すぐネネと契約を破棄したいところだ。だが、そうもいかなくなってしまった。
理由は二つある。
まず一つ。この学園で複数契約する学生はほとんどいなく、その為契約聖霊が二体いる学生は肉体に負担はかからないのか。また聖霊から得ることが出来る力は単純計算として二倍になるのか。そういったものを調べるために、教師を通して監視局に情報を送ることになる。
次に、契約を破棄するというのはそう簡単なことじゃないってことだ。
契約者が怪我や病気などで死ぬときか、聖霊がこの世に存在出来るほどの力を失って消滅するとき。
ちなみに契約者が死んで契約が破棄されるのはよくあることだが、聖霊が力を失うことはめったにない。そもそも聖霊は怪我をすることはあっても、それがどれだけ重傷でも三日で完治してしまうほどに、治癒能力は高い。そして、病気にかかることもない。
まあ、監視局の話が出ている時点で、俺はネネとの契約を破棄することが出来ないんだが……我慢するしか、ないんだろう。