パート12
ネネと無理矢理契約をさせられたあの後。駈けつけてきた教師たちには、いろんな事情を聞かされるために約二時間も指導室に閉じ込められた。
聖霊との二重契約というのは、別に珍しくもない。世界で活躍している聖霊使いの中には、最大で五体との聖霊と契約している人だっている。
だというのに二時間もかかったのは、ただ単純に校舎に避難しろと言われていたのにそれを無視し、聖霊が堕ちた場所に行ったのか、その事についてだった。厳重に叱られ、最終的にはラエルがやってきて叱っていた教師をなだめ、俺を解放してくれた。あいつに借りを作るのは正直嫌だったが。
けれど、そんな事より俺には最大の問題が残っていた。
「それであんた、これからどうすんのよ?」
俺の憂欝な気持ちを知ってかそれとも気づいてないのか、ネネは俺の顔を覗き込みながらそう言ってきた。
「……はあ」
「ちょっと、人の顔見てため息つかないでよ」
「黙れ、俺から離れて歩け、話しかけてくるな」
「なんでよ!」
逆ギレをしてくるネネをよそに、サラが待ってる教室へと急ぎ足で戻る。その途中では帰宅しようとする生徒たちとすれ違う。何かまた俺に対する皮肉や愚痴が聞こえてきたけど、全て無視した。
内容は違えど、こんなのは戦闘カリキュラムが始まった時からいつもの事だ。気にする事はない。
自分の教室に戻ると、中にはケンとフェイ、クラス委員長のカノンとウィリア、そしてサラがいた。おそらくトーイはバイトだろう。
「お、やーっと帰ってきたか」
「お疲れ様です、ラット様」
ケンとフェイからは待ちくたびれたぞ、みたいな感じで話しかけてくれる。些細な事は大きく騒ぐケンだが、俺の表情から察したのかあまり深く聞こうとする事はしてこなかった。おそらく、後でゆっくりと聞くから今は聞かないでおいてやるよ、とでも思ってるに違いない。
「……………」
それより、今はこっちの方がめんどうだった。
「……で、どういう理由であなたは聖霊が堕ちた場所に行き、どうしてその聖霊と契約したのか。聞かせてくれるわよね?」
教室に入って早々、いろんな事を聞いてくるカノン。無視したいが、俺の行く手を阻むかのように立ちふさがるので出来なかった。
「……別にお前には関係ないだろ」
「関係なくないわ。私だってさっきまで先生から、委員長としてあなたを止められなかったのかって叱られてたんだから」
「にしては、ラットの事についてあれこれ聞いてたよなー」
「こらそこ、うるさい!」
「落ち着けって委員長。それで、その子が新しく契約した聖霊なのか?」
「……正確には、契約させられた聖霊だ」
「何よその紹介の仕方!?」
俺を睨んできたネネだったが、すぐに気を取り直すとケン達の方に向き直り勝手に自己紹介をし始めた。
「あたしの名前はネネ。ラットの契約聖霊だから、これからよろしくね」
「契約聖霊だからって……ラットにはすでに聖霊がいるのよ! なんでよりによってこいつなんかと契約したのよ!」
「そんなのあんたには関係ないでしょ。何よあんた、ラットのガールフレンド?」
「なっ……!?」
「ふむ、ネネと言うのか……。どう? 今度俺と一緒にデートにでも……」
「なに聖霊相手に口説いてるんですかあなたは」
ネネを中心に騒いでるみたいだったが、そんな事すらどうでも良かった。
「…………ラット、説明して」
何故なら、今まで見た事無い顔でサラが俺の事を睨んできたからだ。