帰ってきた七夕の物語(2)
り、
り、
り、
と、庭の片隅で虫が鳴いている。
開け放った縁側から入ってくる柔らかな夜風が、香炉から立ち上る煙を、ゆらめかせている。
座敷は、静かであった。
小さな膳が準備されており、彦星がそこへ座り、織姫の酌を受けた。
恋人たちは静かに、語り始めていた。
「織姫よ、我は十分に研究をしてきたぞ」
織姫に酒を注がれた杯を口にして、得意そうに彦星がつぶやく。
「ほほ、楽しみでございますな。実は私も工夫を重ねてきたところでございます。」
織姫は頬を心もち紅に上気させながら、乾された杯に酒を注ぐ。
それを、くいっとあおり、彦星の眼が楽しそうに輝く。
「おう、それは楽しみよな」
「ええ。実に」
二人の視線が、意味ありげに、ねっとりと絡まり合う・・・
そのまま、彦星は杯を卓に置いた。
織姫も、徳利を置く。
「もうお酒は、よろしいのですか?」
「おう、本題に入ろうではないか。」
嬉しくてたまらない。といった様子が、言葉の奥底に隠れているのが、ありありと分かるような口調で、彦星が言った。
織姫もそれを感じ、目を細めた。
り・・・
それまで、庭で鳴いていた虫たちが、急速に静かになっていく。
夜風も、ぴたりと止まった。
恋人たちの夜が、始まろうとしていた・・・