信頼する者
「 マリアが…『次の月の女神』…ですって… 」
カナリアは体ごと前に乗り出すような態勢でマリアベルにもう一度聞き返した。
「 はい。女神様はそうおっしゃっていました 」
すると、今まで口を開く事のなかったルルベルが突然椅子から腰を上げ立ち上がるとゆっくりと歩きマリアベルの横まで行くと、何も言わずマリアベルの首に腕を回し頭に手を置いてマリアベルを抱きしめた。
「 行くことない。私がこの国を守る 」
そうゆっくりと告げた。するとカナリアも負けじと言葉を口にする。
「 そうよ。この国は私達や父上、母上、王族が守らなければいけないのだから。末姫であるあなたが一人で体をはって守る必要ないのよ。だから空の上なんか行くことないわ 」
「 …はい… 」
マリアベルは涙を流しながらルルベルの腕にしがみついた。
「 でも、 」
そこでまた言葉を口にしたカナリアの方をマリアベルとルルベルは見つめた。
「 ロード様のプロポーズは許しがたいわね… 」
そう言うカナリアの表情はとても恐ろしいことになっていた。
――――――でも、ごめんなさい。姉様方。私、もう決めたのです。――――――
するとそこで今まで黙っていたルルベルがマリアベルを上から眺めるようにして喋り出した。
「 マリア。プレゼント何が良い? 」
そう聞かれ、マリアベルはあることを思い出した。
――――――そうだ。2日後は…――――――
そこでカナリアが喋り出した。
「 あらやだ。そうだったわね。2日後はマリアの16歳の誕生日。マリア、何か欲しいものはある? 」
―――――――2日後。女神様が迎えにいらっしゃる…――――――
マリアベルは女神様に言われた言葉は話したが、最後に言われた言葉『16歳の誕生日の夜に迎えに行く』というのだけ姉達に話してないのであった。
「 お祝いしてくださるだけで嬉しいです 」
そう微笑みながらに言い返したが、あっさりと姉達に言い返しされてしまった。
「「 だめ! 」よ! 」
「 …?? 」
「 16歳と言ったら成人の儀よ!?プレゼントもそれ相応ものではないといけないわ! 」
ルルベルはカナリアの言葉に頷いていた。
「 でも、本当に。父様、母様、姉様方にお祝いしていただけるだけで嬉しいんです 」
マリアベルが微笑みながらそう伝えるとカナリアとルルベルはお互いを見合い渋々答えた。
「 わかったわ…。あ!じゃあ、プレゼントの代わりに色々な国から色々な人々に来ていただいてお祝いしていただきましょう!? 」
「 はい! 」
マリアベルは今度のカナリアの案には笑顔で返事を返した。
『あ、それと!』そこでカナリアはあることを思い出したように話を変えた。
「 マリアベル。誕生式典のエスコート役は私達がやってもいいわよね?この間はロード殿下にお譲りしたけれど、今度はいいわよね? 」
カナリアにそう問いかけられ、先ほどのロードの事を口に出した時のカナリアの表情を思い出してしまいマリアベルの心の蔵がドキリとなった。
「 は、はい。構いません。まだお約束もしておりませんし 」
その後カナリア・ルルベル・マリアベルは楽しい会話をしながら誕生式典ではどの国の人を招待しようかなどの話をしていた。
その日の夜、ミルヴィン・アリア・カナリア・ルルベル・マリアベルが広間にて食事をしているとカナリアが口を開いた。
「 お父様、2日後の誕生式典にはどれくらいのお客様をお呼びするのですか? 」
「 そうだな。パーティーの時は各国の王族などをお呼びしなければなるまい。日本などは王族はいないので、なんといったかな?総理大臣と言ったか?あれが政治的な代表のようだからその方をお呼びしようと考えている 」
ミルヴィンがそう言うと話を聞いていたロードが割って入って質問してきた。
「 2日後何かあるのですか? 」
そこでカナリアが今でも呪い殺しそうな視線を一瞬ロードに向け吐き捨てた。
「 ご存知ありませんか?2日後はマリアベルの誕生日なのです。なので昼は城の最上階のベランダから城の敷地に集まった民に手を振り、夜はパーティーがあるんです 」
そんなカナリアの視線にもめげずロードはマリアベルに視線を移し声をかけた。
「 2日後成人なさるのですか。おめでとうございます 」
誰にでもわかるような柔らかく優しい視線を向けられたままそう言われ、マリアベルは頬を薄く染めてその言葉に答えた。
「 は、はい。ありがとうございます… 」
そんな二人の様子を見ていたミルヴィンは何かに気付いたかのように頷いていた。
だが、ミルヴィンと違い二人の様子に苦々しい表情をしている者がいた。カナリアだった。
そこで思い出したかのようにロードが「あっ」と声を上げた。
「 誕生式典があるということはまたマリアベル姫は遅れてご登場なさるのですよね?と、言うことはエスコート役はまだお決まりではありませんか? 」
ロードがそう言うと、さっきまで頬を真っ赤に染め上げていたマリアベルの表情が悲しみの表情に変わった。
「 も、申し訳ありません…。姉様方とお約束してしまいまして… 」
「 そうですか…。仕方ありませんね。最近、マリア姫様を独占しすぎてしまっていましたから 」
その後も誕生式典の話をしながら食事をし、食事を終えると自室に戻り眠る準備をしていた。
入浴を終え、寝着に着替え鏡台の前にある椅子に座り次女がマリアベルの髪をすいていると次女が声をかけてきた。
「 姫様。あの… 」
モジモジとした次女に最初疑問をもったがすぐに何を言いたいのかがわかりマリアベルの方から声をかけた。
「 心配させちゃってごめんね。姉様方にご相談にのってもらってもう大丈夫よ。ありがとう 」
そう言いながらいつもどおりを笑顔を向けると、次女も安心したのか胸を撫で下ろし中断していた髪すきを大急ぎで再開させてくれた。
その後、髪をすきおわると次女はそのまま「おやすみなさいませ」と言い残し部屋を出ていった。
マリアベルは椅子に腰かけたまま鏡を見つめていた。
「 16歳の誕生日の夜… 」
そう呟いた途端、突然鏡が光だした。マリアベルは一瞬目を閉じたが、すぐに開き鏡に写っている人を見て驚いた。
先程までマリアベルが写っていたそこには、マリアベルと同じ髪と瞳の色をした夢で見たことのある女性が写っていた。
「 め…がみ…様? 」
女神は笑顔で頷きマリアベルに話かけた。
「 マリア。返事はまだ聞きませんので安心してちょうだい。あなたの疑問に答えるため、そしてあなたにお願いがあって今日はやってきたの。夢だと、『夢』だから現実ではありえないと考えてしまいそうだったから… 」
「 そのような事考えません! 」
マリアベルが興奮しながらそう叫ぶと、女神は唇に人差し指を当てた。その動作を見て、今がどのような状況なのかを思い出し、マリアベルは口元を両手で被った。
「 あなた、心配しているわね。「16歳の夜、自分が突然消えたら皆は心配しないだろうか」と、そして「自分が女神になった後女神の血は途絶えるけれど私の次の月の女神はどうなるんだろう」と 」
心の奥底で考えていた言葉を言い当てられマリアベルは目を見開いたまま首を下に降った。
「 っつ!? 」
「 心配しなくてもいいわ。あなたが天に来たときはあなたは神になったのだからあなたが地上にいたときあなたと関わった者達の記憶からあなたは抹消されることになるわ 」
そこで何故か悲しそうな表情を作って話を切った女神をマリアベルは心配そうに見つめた。そんなマリアベルの視線に気付いたのか女神は一瞬笑みを作り話を続けた。
「 あなたにお願いしたいことがあると言ったわね?それはあなたが心配していたもう一つの方に当てはまるのよ。マリアベル 」
そこで女神に優しく問われ、マリアベルは緊張しながらその声に答えた。
「 は、はい… 」
「 あなた…好きな人ができたわね? 」
マリアベルのロードへの気持ちに女神は気付いていたのかズバリと言い当て、マリアベルはすぐ頭を下げた。
「 も、申し訳ありません! 」
「 謝らなくてもいいのよ。恋をしてはいけないとは言ってないわ。結ばれてはいけないと言ったのよ。それでね、16歳の誕生日の夜、もし貴方が私と共に天界に来てくれると言うのならやってほしいことがあるの 」
「 やってほしいこと? 」
「 えぇ。女神はたった一つの大きな魔法を神から使っても良いと許されているの。それは、自分のお腹の中に生まれるはずの未来の子を連れてきて信頼できる女性のお腹へと移し、その女性と自分が愛した男を一緒になるよう仕向けること… 」
「 …?ど、どういうことですか? 」
「 簡単に言うと、あなたが女神の道を選ばなかった時の未来に行きそのとき生まれるはずの子の魂をコピーし連れてくる…ということよ。信頼できる女性はいる? 」
そう問われ、マリアベルは考えた。
「 …姉様方…カナリア姉様… 」
マリアベルの口からボソッと出た言葉を女神は聞き逃さなかった。
「 カナリア…あなたのこの国の長女ね。そうね。あなたの姉でもあるし王女でもあるからいいわ。でも、あなたがあの方を諦めなければいけないのに変わりはないわ。そのかわりカナリアの子ではなくあなたの子がカナリアの中には入り生まれて来ることになるから生まれてくる子はカナリアとロード王子のものではなくあなたとロード王子の子よ…。そう、私がしたように… 」
そこで女神は昔を思い出したのか一粒の涙を流したがすぐに笑顔を作りマリアベルの返事を待たずに答えた。
「 じゃ、じゃぁ!16歳の誕生日の夜また来るわ。考えておいてちょうだい…。無理…しなくてもいいのよ…。地上で愛する人といたいと考えるのは人として当然なことだもの…。そ、それじゃあ私は行きますね 」
「 あ!女神様!! 」
マリアベルが呼んだ時には既に女神は鏡の中にはいなくなっていた。そのかわりにマリアベルの叫び声を悲鳴と勘違いしたのか次女が誰か男を連れてきたのだろう。乱暴に戸をノックされた。
「 姫様!?何かございましたか!? 」
そこでマリアベルは一度深呼吸をすると、ゆっくりと戸に向かって行き開けると次女と数人の男に言った。
「 私は大丈夫よ。ちょっと変わった夢を見てしまったの。心配させてごめんなさいね 」
笑顔でそう言うマリアベルに安心したのか次女と男達は「そうでしたか…夜分遅くに申し訳ありませんでした…何かありましたら、すぐにお呼び出しくださいね。」と言い残し部屋を後にした。
マリアベルは戸を閉めると、戸にもたれかかり溜息を付きそのまま寝室の戸を開け。そのまま寝台の上に倒れるようにして眠りについた。