ワルツ
そう言われると、ロードは床に片膝をつく格好になり瞳を閉じ、片手を胸にあて
「お褒めに預かり光栄にございます 」
と言った。マリアベルは頬を薄く染めたまま微笑んだ。
そんな二人のやりとりを見ていたカナリアは二人の間に割って入り、ロードに言った。
「殿下、何用でしょう?これからあなた様のお祝いの宴。なのに何故こちらに?」
ロードを睨みながらに言うと、ロード本人、睨まれていることがわかっているはずなのに静かに答えた。
「マリアベル姫とご一緒に行こうかと思いまして。さきほど別れるときそうお伝えしたのですよ。『支度を終えたら迎えにあがります』と、そして支度がすんだので迎えに上がったんです 」
そう微笑みながら言うロードを無視して、カナリアは後ろにいるマリアベルの方に向き直り、ロードに見せていた表情とは真逆の表情を作った。
「本当なの?マリア 」
「あ…。はい。そうお約束いたしました 」
マリアベルがオズオズとそう答えると、カナリアは笑顔のまま後ろにいるロードのほうに振り返りまた睨むようにして言った。
「……そうですか。わかりました。ではどうぞ、後でお越しください。リードのお相手を『今回だけ!!』お譲り致します 」
カナリアのその言葉を聞くなり、ロードはある言葉に疑問をもち聞き返してしまった。
「『後でお越しください』とは?」
ロードのその言葉を聞くなりカナリアは勝ち誇ったかのような表情を作り、言葉の意味を教えてくれた。
「あら、ご存知ないのでしたね。今日のような盛大なパーティーの日は『月の姫』と称されたマリアベルがステージの上で歌を披露するのです。なので、マリアベルは私たちより後に広場に入ることになるのです。その時、マリアベルと連れなって入ってくる者はマリアベルと深く関係のあるものか仲のいい者と決まっております。いつもは、私達がマリアベルと一緒に広場に入っていたのですが。致し方ありませんね 」
そういうなり、カナリアは『ルル行きましょう』と言い部屋を後にした。
「そのような大役…私のような者がやってもよろしいのですか?」
カナリアとルルベルが部屋を出ていくところを見送っていたロードは、扉が締まるとマリアベルの方に視線を送りそう聞いた。
「構いません。決まっていると言っても、そんなに大事なものではありませんので。ですが、ロード様がお嫌なのでしたら…」
マリアベルがそこまで言うと、ロードは大きく首を左右に振り両手のひらをマリアベルに見せるようにして顔の前で横に振って言った。
「とんでもない!そのような大役をさせていただけることとても嬉しいです 」
「良かった 」
ロードの言葉にマリアベルは嬉しそうな表情を作って返した。
そうやってしばらく二人は楽しい一時を過ごしたのであった。
二人で話をしていると部屋の扉をノックされ、マリアベルとロードはソファから腰を上げた。
「はい 」
マリアベルがノックに答えると、扉の向こうから若い男の声がした。
「マリアベル姫様。お時間です。広場にお越しください 」
「わかりました 」
マリアベルがそう答えると、ロードがまたもや床に片膝を付き片手を胸に当て、もう片方の手を頭より上に上げマリアベルの方に差し出した。
「それでは姫。まいりましょう 」
「はい 」
そう返事を返すと、差し出された手に自のそれをゆっくりとのせた。
ロードはのせられた手をもう片方で掴み、自分の二の腕のところまでもってあげると、そのまま立ち上がって歩きだした。
そんな二人を微笑みながら見ていた次女はゆっくりと扉を開けてくれた。
パチパチパチパチ
二人はライトに当てられながら広場へと歩を進めて行った。
「おや。今日は姉君達ではないのですね。あのお方は… 」
招待客の一人がそう呟いた。すると、隣に立っていた客が質問に答えた。
「あの方はついこないだ成人になられたばかりのサンメリア国第一王太子殿下のロード様ですよ 」
「ほう…あのお方が…。マリアベル姫とご一緒に入ってくると言うことは親しいご関係なのか…?」
「さぁ。それは私にもわかりかねますね 」
マリアベルとロードはステージ傍まで来ると、腕に当てていた手を放した。
「それではロード様。行ってまいります 」
「いってらっしゃい。マリアベル姫 」
「マリア…とお呼びください。マリアベルだと長いでしょう 」
マリアベルは階段を三段ほど上がった上からロードにそう言いながら微笑んだ。
ロードも負けじと微笑み返した。
「それでは…マリア。いってらっしゃい 」
「はい!行ってまいります!」
マリアベルはロードに『マリア』と呼んでもらったのが嬉しいように満面の笑みを作りステージの中心まで行った。
そして美しい歌声を披露してくれた。客達は、マリアベルの歌で踊る者もいるが、歌をただずっと聞き入っている者もいた。その中にはロードもいた。
ロードはステージ斜め前にあるテーブルの傍でグラスを傾けながらマリアベルの歌っている姿を見つめていた。
「殿下 」
そんな時背後から誰かに声をかけられ、ロードはマリアベルから視線をはずし、そちらに目をやった。声のしたほうに立っていたのはミルヴィンだった。
「陛下。今宵、このような素晴らしい宴を開いていただき誠にありがとうございます 」
ロードはミルヴィンに近寄り、そう言って礼をした。
「いえいえ。せっかく成人を迎えられたのだ。盛大にやらねばと思っただけです。ところで殿下…」
そこで突然ミルヴィンは少し真面目な表情を作りロードに詰め寄った。
「マリアベルはどうでしたか? 」
そう告げながらステージの上で歌っているマリアベルにミルヴィンとロードが視線を移した。
「えぇ。想像以上に素晴らしい女性です…。探し求めていた方でした 」
「そうでしたか。やはりあの子が…それでは、あとはあの子の心次第とさせていただきましょう 」
「はい。わかりました 」
二人はそこまで話し合うと再び礼を仕合い離れて行った。
歌を歌い終わると、マリアベルは階段をゆっくり降りていった。降りている最中に横から手を差し出された。差し出した人物に視線を向けると、階段横には立っているのはロードだった。
ロードはマリアベルと視線があうとすぐに『素晴らしかったです』と答えてくれた。マリアベルはそんなロードの言葉に満面の笑みを返した。
二人はその後素晴らしい演奏楽団の曲に合せワルツを踊った。
「マリア。疲れたでしょう。飲み物を持ってくるので待っていてください 」
ロードはそう言うと、テーブルに向かって歩いて行った。マリアベルはそのまま、ベランダに出て疲れきって火照った体た顔を外に涼しい風にあてた。
「ふぅ…。こんなに踊ったのは久しぶりだわ 」
――――――――いつもは、姉様方傍で守るようにして立っているから誰もダンスに誘ってくれないのよね…。いくら姉様方でも今日は遠くで見ていたようだけれど…――――――
風にあたりながらそう考えているマリアベルを隠れて見ている者がいた。ロードだ。
隠れているわけではない。背後からマリアベルの姿に見とれてしまっているだけだ。腰まであるだろう髪を風にそよがせている彼女は女神のように美しかった。