ロード・ロベリア・メルツェッタ
マリアベルは少し考える素振りを見せたのち
「わかりました。私が案内させていただきます。サルーナ国恥じぬ案内をさせていただきますのでご安心ください 」
マリアベルのその言葉を聞くとミルヴィンはふぅ~っと溜息を付きながら背もたれに背を預けるように座った。
だが、カナリアとルルベルだけはミルヴィンを睨んでいた。二人の妹馬鹿さ加減は以上である。
5日後の朝
「サンメリア国第一王太子殿下の御成ーー!!」
黄金色の騎士服を着た男がそう叫びながら門を開けた。
開けた先には馬に乗った男たちがいた。先頭で馬を操っているのは髪の色が紫に近い青で瞳は空よりも薄い水色をしている。その男の後ろには黄金色の騎士服を着た男がざっと数えて30人はいるだろう。
男たちが馬に乗ったまま門を潜り城の中へ入ると、門がゆっくりと閉ざされていった。
門が閉じると同時に男たちは優雅な動きで馬から降りる。すると、先頭にいた男がミルヴィンの方に歩み寄ってきた。
「お初にお目にかかります。ロード・ロベリア・メルツェッタと申します。この度の訪問をお許しいただきまことにありがとうございます。」
男はそう言うとミルヴィンの足元で片膝を床につけ頭を下げた。
ミルヴィンはそんな男、ロードの片方の肩に手をつき言葉を返した。
「うむ。このような遠いところまでよくおいでになりました。ささやかではありますが今宵はこの城であなた様の成人をお祝いするためのパーティーを催す予定でございます。それまでの間お体をお休めくださいませ。マリアベル 」
そう言うと、ミルヴィンは自分の後ろで見ているマリアベルに手を差し伸べ名を呼んだ。
「はい。お父様 」
名を呼ばれるとマリアベルはミルヴィンのそれに自分のそれを重ね、ミルヴィンの横に並ぶようにして歩を進めた。
「自己紹介をしなさい。」
「はい。サルーナ国第三王女マリアベル・ロイド・ミルヴィンです。以後お見知りおきを 」
マリアベルはそう言いながらドレスの裾を掴み膝をまげ礼を取った。
「王子がこの国にご滞在の間、このマリアベルが国を案内をいたします 」
マリアベルが自己紹介をすると隣のミルヴィンがマリアベルの背に手を当てたままロードの方を向きそう告げた。
「このような愛らしい姫と一緒にいられるなど光栄でございます 」
ロードが微笑みながらそう言うと、マリアベルは『愛らしい』という言葉に反応し頬を薄く初めてしまった。
そんなロードのマリアベルに対する態度に怒りを覚えている者達がいた。それはミルヴィンとマリアベルの背後で立ち尽くし、何もかもを見ていたカナリアとルルベルだった。
「納得いかないわ!」
そう叫んだのはカナリアだった。
「姉様? 」
聞き返したのはマリアベルだった。
「お父様は何か隠してるわ!私達の可愛いマリアベルを男の世話係にするなんて!」
「世話係だなんて… 」
ロードを迎え入れた後、カナリア・ルルベル・マリアベルは自室でに戻って良いと言われたのでそのままマリアベルの部屋まで皆でやってきたのだった。
「わかったわ!?」
「?」
突然大声で叫んだカナリアの方をマリアベルはまた向いた。
「きっとお父様はあの王子に弱みを握られているのよ!それをいいことに王子はマリアベルに一目惚れしたからって近づく口実を考えたのだわ!」
そういう考えは考えられなくもない。この国の王族は確かに他の国に容易く行くことは許されてはいないが、自分の国にはいつなんどき足を運んでも構わないとされていた。
だがマリアベルはすぐに目を閉じ言った。
「それはありえません 」
「どうして?」
「私はそんな町で見かけただけで恋に落ちるほど綺麗ではありませんもの 」
マリアベルがそう言うと突然誰かの腕が首に巻きついて抱きしめてきた。それはルルベルだった。ルルベルはマリアベルを抱きしめると静かに言った。
「そんなことない」
「そうよ!何を言っているの!?あなたほど可愛くて、愛らしくて、見てるだけで話したくなくなる娘はこの世界どこを探してもいなくってよ!?」
ルルベルに続いてカナリアがそう叫んだ。
「ですが…。誰? 」
マリアベルがカナリアに反論の言葉を述べようとすると誰かが部屋の扉をノックしたので、マリアベルは扉に向かって話かけた。すると扉の向こうから思いがけない人物の声が聞こえてきた。
「ロードです。マリアベル姫様 」
その言葉を聞くとマリアベルは大きく目を見開き姉達の方を向いた。姉達も同様に目を見開きお互いに顔を見合った。そして、マリアベルは急いでソファから立ち上がり扉の方にかけていくとすかさず扉を開けた。
そこに立っていたのは、やはりさっき挨拶を交わしたはずのロードだった。
「部屋に入っても構いませんか?」
ロードがそう聞くとマリアベルはすかさず返事を返した。
「はい。どうぞ。お入りください。今お茶を持って来させます。」
そう言うとマリアベルは部屋の外で控えていた侍女にお茶の用意をお願いした。
そしてロードが部屋に入り、そこにいた人物達に驚いた。
「おや、先客がいらっしゃったのですね…。来てはまずかったですか…?」
『いいえ。大丈夫です』とマリアベルが言おうとするとすかさずカナリアが返事を返してしまった。
「えぇ。今は私たち姉妹で優雅な一時を過ごしておりましたのに。ハエ(邪魔)が入ってきてしまいましたわ。なので構わなくて構いませんわ。ハエ(邪魔)なんかすぐにつぶしてゴミ箱に捨ててしまいますから 」
カナリアは嫌味ったらしくそう言うが、言葉はちゃんとお客様に対してだからか敬語を使っていた。
「そうなんですか。やはり女性なのですね。虫を早く外に追い出すだなんて 」
カナリアの言葉にロードは何事もなかったかのように微笑みながらにそう告げた。カナリアはそんなロードの態度に心の中で舌打ちをしていた。
マリアベルはそんな二人の会話をオロオロしながら聞いていたが、どうにかしなくては、と考え話を切り出した。
「え、えと。ロード様。何かご用があったのでは? 」
そんなマリアベルの言葉にロードは『あぁ、そうだった』というように自分の片方の手の平にもう片方の手の拳をぶつけた。
「そうでしたね。マリアベル姫。夜のパーティーまでまだ時間はありますので、城の中を案内してはいただけませんか?」
「お体は大丈夫なのですか?隣国と言ってもサンメリア国は、この国から駿馬でも5日はかかるはず 」
「心配してくださってありがとうございます。ですが、これくらい平気でございます。お気になさらず 」
ロードがそう言うとマリアベルは返事に困りながらにカナリア達の方に視線を向けると、カナリアの視線を見て驚いた。カナリアは今にもロードを殺してしまいそうな目でロードを睨みつけていた。
――――姉様達のためにもロード様を部屋の外に出さないとダメかもしれないわね…――――
「ロード様がよろしいのでしたら、構いません。ご案内いたしましょう 」
マリアベルがそう言うと同時にさきほどの侍女がお茶を運んで来たので、マリアベルは申し訳なさそうに侍女にお茶を片付けてもらった。
「姉様方。少し部屋をでさせていただきます。パーティーで会いましょう 」
そう告げると、マリアベルはロードを連れ部屋を後にした。