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母の涙

不思議そうに見つめてくるロードに気付くとマリアベルは笑いを堪えながらに謝罪の言葉を述べた。

「 も、申し訳ありません…ロ…ドさ…プックックック… 」

それでも笑いの堪えられないマリアはちゃんと謝罪を言えないまままた笑いだしてしまった。

しばらくした後。一度深呼吸をし、呼吸を整えるとマリアベルは突然笑い出してしまった理由をロードに話した。

「 申し訳ありません。いつも真面目そうに見えてどこか楽しげなロード様が、あのような事を人に相談もせず考えていたと思うと… 」

マリアベルの言葉を聞くなりロードは頬を真っ赤に染め上げ『し、仕方ないでしょう…私だって一人の男なのですから…!』と言った。

「 そ、それで!何か欲しい物はないかい? 」

ロードは気を取り戻すかのように再び質問してきた。マリアベルは顎に手を当てしばらく考えたのち

「 いいえ。お姉様方にも言ったとおり。ただ一緒にお食事をして、一緒にパーティーに参加していただければそれで構いません 」

「 ですが。私はあなたの兄妹などではなく。隣国の王子なのです。だからこそ貴方にはそれ相応の物を差し上げたいのです… 」

そう言われてしまうと、マリアベルも困ってしまいアタフタしているとそれを見かねたロードがしばらく考えた後何か思いついたかのようにマリアベルに話しかけてきた。

「 では!私が勝手に考えても構いませんか? 」

 それを聞くとマリアベルは『それなら…』と安心しきったように『はい!』と返事を返した。

「 それなら当日のお楽しみに、ということで。それでは私は部屋に戻りますね。そうと決まっては貴方に差し上げる品を城から持ってこさせなければなりませんから。誕生式典は明日、明日の夜には間に合うようにしなくてはいけませんからね 」

――――――持ってこさせる?―――――

「 はい… 」

―――――――明日の夜―――――――

マリアベルが返事を返すと、ロードは嬉しそうにテンション高々に部屋を後にした。

「 … 」

何もすることがなくなってしまったマリアベルはこれから何をしようか考えていた。すると頭の隅にある人の姿が思い浮かんだ。母だ。現国王王妃であるマリアベルの母親の姿が思い浮かんだ。

マリアベルは思い浮かんだままに王妃の元へ行くことにした。明日の夜にはもう見ることのない母の顔を見に行こうと。

「 姫様どちらへ? 」

扉を開けながら次女がマリアベルに行き場所を聞いてきた。

「 お母様のところへ 」

マリアベルがそうとだけ告げると優秀な次女は『かしこまりました』と言い。扉を閉めると王妃の部屋へ向かって歩きだしたマリアベルの後ろに付き従って歩いてくる。

部屋の前に到着すると、着いてきていた次女が扉にノックをした。すると中から女性の声が聞こえた。おそらく王妃付きの次女だろう。

「 マリアベル様がいらっしゃられました 」

次女がそう言うと今度は別の女性の声が中から聞こえ『お入りなさい』と答えてくれた。

扉を開け、中に入ると部屋の中央に置いてある華やかで美しいソファでマリアベルとそっくりの少し大人びた女性が紅茶を飲んでいた。

マリアベルは女性がお茶を飲み終わるまで扉の前で立っていると。お茶を飲み終え、カップをテーブルに置いた女性がマリアベルト同じ色の瞳を扉の方、マリアベルへと向け優しく微笑んだ。

「 マリアベル。こちらへいらしゃい。一緒にお茶を飲みましょう 」

王妃の微笑みを見るなり、マリアベルは嬉しい気持ちを抑えきれず大きな声で返事を返し、王妃の向かいの席に腰を下ろし次女が入れてくれた紅茶の入ったカップに口をつけた。

マリアベルは紅茶を飲みながら王妃の方を視線だけでチラチラと見ていた。マリアベルが月の女神の娘のということはこの母も月の女神候補であり娘でもあるからだ。

だが、そんなマリアベルの視線に気付いていたのか王妃はカップに視線を向けたままマリアベルに話かけてきた。

「 私の顔に何か付いていて? 」

そう聞かれると、マリアベルはアタフタとカップをテーブルに置き王妃に謝罪の言葉を告げた。

「 も、申し訳ありません!お母様! 」

そんなマリアベルの慌てっぷるに王妃はクスリと笑い話しかけてきた。

「 そんな緊張しなくていいわ。私と貴方は実の親子なのですから。滅多に会うことがないと言っても実の親子なのにかわりはないのだから 」

そう。マリアベルは生まれてすぐ母に抱いてもらうことかなわず姉達の待つ宮殿へと連れて行かれた。そして、そのまま乳母と姉達によって育てられてきたのだ。この15年間王妃と顔を合わせて話をすることができたのは式典の時運良く会うことができた時だけだ。

そして、王妃は普段後宮の王妃専用の部屋にいる。正しくは、外に出させてもらえないのだ。それは、母が元は旅で世界各国を渡り歩いて歌を歌っていた歌劇団だからこその配慮であり王の寵愛を受けているからこそのはからいだった。

だが、マリアベルは王妃の気持ちを知っているからこそ王が王妃にしている事を許すことができた。王妃は無理やり結婚させられ、無理やり部屋に閉じ込められたとは思っていないだろう。マリアベルの目には二人はちゃんと愛し合っているからだ。そのことに父王が気付くのはまだまだ先のことだろう。

マリアベルは気になっていることを王妃に聞くことにした。

「 あの…お母様?ちょっとお聞きしてもよろしいですか? 」

「 えぇ。私が答えられることならね 」

「 …あの。お母様はお婆様、いえお母様のお顔をご存知ないんですよね…? 」

「…えぇ。私はまだ産まれたばかりの赤子の時布にくるまれた状態で歌劇団団長様に拾われたから。そうね、いるとしたらその団長様が親のようなものね 」

「 お母様は、その…髪と瞳の色が他の人と異なることに違和感のような事を覚えた事はなかったのですか…? 」

続けてマリアベルが質問すると、王妃は顎に両手を付きテーブルに肘を置きマリアベルを見つめ言った。

「 そうね。確かにそう思うこともあったわ。でも、歌劇団で歌を歌うようになってからはこの髪と瞳の色に感謝したの 」

「 何故ですか? 」

マリアベルは本当にわからないかのように王妃に問い返した。

「 私の歌劇団時代の呼ばれ名を貴方に教えた事はなかったかしら? 」

そう聞かれマリアベルは『はい』と答えた。

「 歌劇団時代。私がいた歌劇団はお城に呼ばれるほど大きな劇団ではなかったの。でもある日、私が配役でステージに立って歌いだした途端、周りの空気が変わったわ。お客さん達は私を『月の女神様がここにいらっしゃる』と言ってね。歌ってる私に拝んでる人もいたわ。そして、その言葉が色々な場所で広まり王族や貴族などのお屋敷にお呼ばれするようになったの。だから私はこの瞳と髪の色が好き。この髪と瞳のおかげで育ててくれた劇団にお礼ができたもの。そして、この瞳と髪のおかげで陛下と会えたもの 」

その話はマリアベルにも見に覚えがあった。そう、町でマリアベルが噴水のある場所で歌を歌うと町の人達が集まり同じような事をしているところを毎回見かける。

「 貴方は…嫌い? 」

今度は逆に問い返されマリアベルは返事に困ってしまった。

そんなマリアベルを王妃は黙って見つめた後頭に手を当て撫でてあげた。

「 良いのですよ。好きでその姿に産まれたわけではないものはたくさんいます。姿だけでなく宿命まで… 」

そう言うと、突然マリアベルの額に水のような物が落ちてきた。不思議になり見上げてみると、そこには涙を流した王妃の姿があった。

「 お母様!?どうなさったのですか!? 」

そう言うとすぐ、王妃はマリアベルを抱きしめ言った。

「 ごめんなさい…ごめんなさい…マリアベル…貴方に悲しい思いをさせることになって… 」

「 おかあ…さま? 」

マリアベルに呼ばれると王妃はマリアベルの両肩に手を当て向かい合った。

そして…


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