闘い
いきなりの出来事に焦る伸行。
ここでやらなきゃ、あいつには会えない。
そう自分に言い聞かせて眼を閉じる。
だてに、今まで修行をしてたわけじゃない。
息を整える、だんだん敵が近づくのが分かる。
―――眼を開けた。
『ふッ!』
ライナスは、パチンと手を合わせてこする。
すると、ゴオオッと音をたてて掌に火が現れた。
そして、きゅっとその火を握ると手の全てが炎に包まれていた。
『はああああああああああッ。』
その手で、握りこぶしを作り伸行に殴りかかる。
それを見た伸行は、叫ぶ。
…大きな魔術になればなるほど、詠唱はしなければならない。
『氷は水から。壁は氷から!』
指を鳴らすと、小さめだが、分厚い氷の壁が出来る。
それは予想通りだと言わんばかりにライナスは珍しく詠唱する。
『rain,flame。』
短いが、意思がはっきり込められている詠唱。
上空から火炎の雨が広範囲で伸行に降り注ぐ。
一撃当たるとそのまま無数の火炎に打たれてアウトだ。
「地から出でるは、無数の岩石。」
詠唱を唱え指を鳴らす。
指を鳴らすことで詠唱を短くしているようだ。
唱えると、地面から大きめの石がぽわっと浮かび上がった。
「迎撃。」
パンと掌を叩く。
岩石はまるで意思があるように動き回り、火炎の雨を丁寧に打ち落とす。
一つの岩石がライナスに向かって飛んでいく。
ライナスはそれを避けきれないと判断して、伸行に炎付きで蹴り返す。
異能は…他の事に集中すると難度の高い技は使えなくなったりするので、雨は止んだ。
しかし、蹴り返したその岩が他の岩の間を縫って、確実に伸行の顔に向かって飛んでいく。
が、伸行はそれを息を思いっきり吐き、炎を沈静化して、手の甲で叩き、砕く。
『なるほど、魔力集中か…。それにしても、二個同時に使うとはな。』
魔力集中とは、集めたい場所に魔力を集め、何かを起こす事だ。
強い奴は指から魔法や技を使ったりするが、これの応用である。
そして伸行の使った集中と魔術はは、緻密と技能上昇。
緻密は、ものの硬さを高めたり、技能上昇は風の勢いなどを高めるものだ。
油断したライナスを見て、伸行は足を地面にこすり唱える。
これもこすって詠唱を短くする。
「足から起こす、空気の刃。」
ビュンという音と伴に見えない刃がライナスを襲う。