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歩け持て余した人よ

作者: 清川貴良
掲載日:2026/08/31

頭の中の風景デブリの廃棄。

持て余した初日。


時間ができた。特に書くことは無いので細かい事情は置いておく。兎に角時間ができた。何もやる気が起きない。起きないが何もしないのも身体がむずむずするので筆を執る。


持て余して1週間。


寝て過ごすのは性に合わない。健康に育てられた証なのかもしれない。父母よありがとう。カーテンを開けた。高々1週間でもホコリは溜まるらしかった。1週間ぶりの空は、晴れでも雨でもなかった。


持て余す半月。


何をするでもなく、家の中をぐるぐると歩いてみる。テレビでもあればよかったが、出ては消えるタレントたちを観ている暇は無くなるだろうと思って捨ててしまった。なにか音が欲しい。今度は窓を開けてみた。風は吹かないが、子どもの駈ける声がする。なんだか自分がちゃんと世界に生きているな、と安心した。


持て余す食欲と1ヶ月。


加工品以外が食べたくなった。お湯を注ぎ待つ時間が虚しくなった。スーパーに出かける為の準備。パーカーに袖を通し靴を履く。踏み出した足元は、なんだか馴染まなくて履き心地が悪い。夜のスーパーに並ぶ、食卓に選ばれなかった野菜達は少し萎びていたが、それでも今の僕には瑞々しくみえた。買って帰ったミックス野菜と卵とパックご飯。これまでとあまり変わらない質素な食事だが、ホッとする味だったのは気の所為ではないと思う。


持て余す体力と2ヶ月。


スーパーと家を往復する生活。ある時「この先には何があるんだろう。」などと思う。思うだけで終わる。カット野菜と卵を冷蔵庫に詰めた。詰めて、そのまま外に出た。30分ほど歩いてみる。スーパーの向こうにはランドリーや理髪店、コンビニにフィットネスジム。世界はだいぶ賑やかだった。コンビニでアイスを買って帰る。食後のデザートは小さな冒険の味がした。


持て余す好奇心と変わり始めた季節。


小さな冒険は続いていく。今日は1時間、明日は西へ。明後日はどこへ行こう。1つ知ると2つ知りたくなった。一歩歩くと2歩3歩進みたくなった。コンビニの向こうには別のコンビニがあって、その先にはシャッターの閉じた何を生業としているかも分からない有限会社がある。もう1時間も進むと線路があるが、踏切の向こうに何があるかは分からない。最近は雨の続く日が増えた。それでも好奇心は僕の歩みを止めてくれない。


持て余す冒険心と折り返し。


バックパックと歩きやすそうな靴を買った。今日は歩けるだけ歩くと決めている。大冒険の1歩目は曇り空だが、それでいい。どうにも空気が湿っているが、進む邪魔にはならない。踏切を越えた先は住宅地だった。昼間の住宅地は朝にも夜にもない静かさがある。きっと家々に生活があるのだろうけど、映画か何かのセットを探検しているようで少し楽しい。住宅地を抜けると、大きな商業施設が建っていた。なんだかやる気が削がれた。消化不良のまま来た道を戻る。湿気った空気が纏わりついて重い。


持て余す悔しさと秋の空。


あの日から歩くのをやめた。道の先にはいつか見た風景しかなかった。好奇心は萎んでバックパックと一緒に部屋の隅に置かれたまま埃を被っている。それでも。あの程度の物が行き止まりにみえた事が悔しい。地図を開いた。東には畑やら畜産やらをしている地域がある。きっと気持ちよく歩けるに違いない。バックパックに水と財布と好奇心を入れて外へ出た。紅葉の敷かれた道はちょっとだけ滑る。それが未知への始まりだと思うと浮かれた気分になった。


持て余した果ての。


歩いて歩いて、たまに休んで。夜には宿をとり、朝にはまた歩き出す。坂を登り息が切れれば道端に座り、整えば進む。時には星を眺めて歩く事もあった。よく観える日も雲に隠れる日もあった。とにかく真っすぐ真っすぐ歩いて、雪がちらつき始めた頃、僕は山の麓にいた。冒険の終着点だった。小さなリュックとペットボトル一本、それから1度萎びた好奇心ではここが限界だ。でも満足だった。どうにもできない壁に当たった。息を吐いて山を見上げる。成果としては上々だ。今回は気持ちよく帰れるだろう。足が痛い。きっとまたしばらくは歩かないと思う。でもいつかまた歩き出す。次は海がいい。その時のために、今日は帰ろう。

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