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第2話:二粒の角砂糖――あるいは、制御不能の欠陥品

 『レナード、ここは俺たちに任せて、お前は逃げろ!!』


  『でも…でも…』


 『良いから、早『ぐっ……¥€€〆』く逃げろ』


 俺は仲間たちの悲鳴に背を向けながら走った。言葉にならない叫びが、耳から離れない。足が思うように動かない。


 早く、早く逃げなければ。だが、そう思えば思うほど息が上がり、足は重くなっていった。


 ふと、音がなくなり静寂が辺りを支配していることに気付いた。


 恐る恐る、振り返ると、ジーッとこちらを覘く双眸と目があった。


「うわぁぁぁあ!?」と、叫びながらガバッと起き上がる。


 くそッ。またあの夢だ。あの忌まわしい記憶。俺は気分を落ち着かせるために、コーヒーを淹れ、いつもの様に砂糖を入れようと、瓶を開ける。


 空だった。どこかにないか探すも有るのは、積み重なった、砂糖の請求書だけだった。


 ふぅ、と深呼吸をして、思考を切り替える。今日はゼル達と依頼をこなす日だったはず。


 そこまで考えて、思い出す。


 そう言えば、パーティを抜けたんだったな。チラリと横目に山積みになった砂糖の請求書を見て、今度はため息が溢れる。


 今まで中堅冒険者として長くやってきた。本来なら、そこそこ、良い生活を送れるが、砂糖は高級品だ。そこに他の準備費用も入るとなると、全然稼ぎが足らない。


 頭をガリガリと掻き、深めのため息を吐く。『金と名誉』

 昨今の冒険者が冒険者をやる理由。俺にはそれがどうしても受け入れられなかった。


 『冒険者とは未知との遭遇や未開を開拓する者たち』古い考えに固執する俺が、ゼル達に見切りをつけられても仕方がないか。


 そんな考えを巡らせていると、コンコンとドアを叩く音が響いた。こんな朝早くに誰だ?そう思い扉を開けると、そこには、歴戦の戦士を思わせる顔立ちの男が立っていた。


「やぁ、レナード。おはよう」


「ガーランドさん。大手クランマスターの貴方が何故こんなところに」


 ガーランド、この街にある大手クランの一つ『開拓者たちの軌跡』のクランマスター。クランとは、効率よく依頼をこなし、効率よく金を稼ぐ集団の総称。大手クランともなると冒険者ギルドにも融通を聴かせられると聞く。


 大手クランに加入するのは容易い事ではない。求められるのは、圧倒的実力と実績。ましてやクランマスターとなれるほどの男。その実績はおとぎ話になる程だ。


「レナード、聞いたよ。また、パーティから追放されたんだってね。アッハッハ」


 相変わらず情報が早い。だが、この人がそんなことを言いここまで来るわけがない。何か裏があるはずだ。伊達に付き合いは長くない。


「ガーランドさん。わざわざ、それを言いにここまできたわけじゃないでしょ?本題は何です?」


「うむ。そうだな。昔話に花を咲かせたいが、本題に入ろう。」


「レナードよ。私のクランに入ってくれないか?」


 は?一瞬思考がフリーズする


「君がクランのあり方をよく思っていないの知っている。私とて、本心は君と同じ気持ちだよ。」


「だが、時代は変わった。今は未知との遭遇でも未開を切り開く者でもない。単なるビジネスと、そう捉える若者が多くなってきている」


 ガーランドの言う通り、昨日も同じことがあったばかりだ。俺が時代についていけてないだけだ。


 だが、それでも、やっぱり…


 俺は断ろうと、言葉を発しようとしたが、ガーランドがそれよりも早く言った。


「それに仇を討ちたくないか?」


 その言葉に鼓動が速くなる。ドキドキとうるさく響く心臓を抑え、震える声で聞いた。


「どういうことですか?」


「クランに入れば奴に関する情報は入ってきやすい。それは君もわかっているだろう。良い加減君も、過去に区切りをつけるべきだ。それに、君の命綱である、砂糖。クランに入ればそれも少しは負担が軽くなるだろう」


 そういい、ガーランドは胸ポケットから小さな布に包まれた何かを手渡してきた。震える手で受け取り、包を開ける。そこには、2粒の角砂糖だった。俺はその角砂糖を口に入れボリボリと噛みながら答えた。


「……砂糖の補助は、現物支給で頼む」と告げ、彼の提案に同意した。


 こうして俺は、『奴』の情報と命綱である砂糖のため、一歩を踏み出した。そして、ガーランドに連れられやってきたのは、クランの訓練場だ。


 そこで目にしたのは、巨大な斧を振り回し、訓練用のゴーレムを一撃で破壊する、少女の姿だった。


「名前はアイリス。力だけならAランクすら凌ぐが、周囲との連携が一切不能。どのクランからも見放された、制御不能の欠陥品だ」


 ガーランドの言葉に、俺は分厚い眼鏡の奥で目を細めた。

 アイリスと呼ばれた少女は、こちらを向く。その瞳には、大人に対する深い不信感と、剥き出しの敵意が宿っていた。


「……最悪の相性だ。だが、面白そうではあるな」


 その胸の奥には、随分と昔に感じた、未知との遭遇への疼きがあった。


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