ワトキンスとの会話①
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九月の終わりだった。
リーグ戦三試合を終えて、ヴィラは二勝一分けだった。ニコラスは三ゴール。コーチングはまだぎこちなかったが、試合中に声が出る場面が少しずつ増えていた。
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練習後、グラウンドに二人だけ残ることがあった。
ワトキンスがシュート練習を続けていた。ニコラスも残った。特に約束したわけではなかった。でも自然にそうなっていた。
二年間、そういう場面が何度かあった。
ニコラスがボールを出した。ワトキンスが打った。ゴール左下に決まった。
「今日の練習、どうだった」とワトキンスは言った。
「コーチングが試合よりぎこちない」とニコラスは言った。「試合の方が動きが読める」
「そうかもな」ワトキンスは言った。「試合は状況がはっきりしている。練習は自由度が高い分、難しい」
ニコラスは頷いた。
ワトキンスがもう一本打った。今度はポストに当たった。
「今季のニコラスは去年と違う」とワトキンスは言った。
「どう違う」
「去年までは、お前がゴールを決めることだけ考えていた感じがした」ワトキンスは言った。「今季はたまに周りを見ている。そういう目をしている」
ニコラスは少し間を置いた。「得点が減るかもしれない」
「減るかもな」ワトキンスは言った。あっさりしていた。「でもそれでいいんじゃないか」
「得点王を取りたい」
「取れるよ」ワトキンスは言った。「でも今季じゃないかもしれない。それでも今季やることには意味がある」
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しばらく二人でシュートを打ち続けた。
「サッカーが好きか」とワトキンスは唐突に言った。
ニコラスは少し間を置いた。「好きだ」
「なんで好きか言えるか」
ニコラスは考えた。「ゴールを決めたとき、他のことが全部消える」
「他のこと」
「色々ある」とニコラスは言った。それ以上は言わなかった。
ワトキンスは追及しなかった。「俺はな」とワトキンスは言った。「最初は生活のためだった。家族を養うために続けた。でも今はそれだけじゃない」
「どう変わったか」
「子供が生まれてから変わった」ワトキンスは言った。「試合に勝って帰ると、あいつらが玄関で待っている。その顔を見るためにやっている部分がある」
ニコラスはその言葉を聞いた。
「家族のためにやる、という感じか」
「そうだ」ワトキンスは言った。「大切なものがあると、プレーが変わる。守りたいものがある選手は強い。俺はそう思っている」
ニコラスは少し間を置いた。
「俺には母親がいる」
「知っている」ワトキンスは言った。「お前がチェスターフィールドから今ここにいるのは、お母さんのためでもあるんだろう」
ニコラスは何も言わなかった。
でも否定しなかった。
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「お前はいつか家族を持つか」とワトキンスは言った。
ニコラスは少し間を置いた。「考えたことがない」
「そうか」
「家族というものが、よくわからない」とニコラスは言った。「母親はいる。でも父親は、いないも同然だった。家族がどういうものか、わからない部分がある」
ワトキンスはしばらく何も言わなかった。
「俺の父親も、あまりいい人間じゃなかった」とワトキンスは言った。静かな声だった。「でもだからこそ、自分は違う父親になろうと思った」
ニコラスはその言葉を聞いた。
「お前が知らないなら、自分で作ればいい」ワトキンスは言った。「家族がどういうものか知らないなら、自分がどういう家族にしたいかを考えればいい」
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日が傾いていた。グラウンドが橙色になっていた。
「そろそろ帰るか」とワトキンスは言った。
「そうだな」
二人でボールを片付けた。
ロッカールームへ向かいながら、ワトキンスが言った。
「サッカーへの熱を大切にしろ」とワトキンスは言った。「ゴールを決めたときに他のことが消えると言っていた。その感覚を持ち続けろ。それがなくなったら、俺たちはただ走っているだけになる」
ニコラスは頷いた。
「まだあるか」とワトキンスは言った。「その感覚」
「ある」
「それでいい」ワトキンスは言った。「それがある限り、お前はまだ伸びる」
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