無口
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九月、リーグ戦が始まった。
開幕戦はホームだった。ニコラスが一ゴールを決めた。ヴィラが二対一で勝った。
パブロはベンチだった。試合には出なかった。
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翌日の練習だった。
ウォームアップ中、パブロがニコラスの隣に来た。
「昨日のゴール見ました」とパブロは言った。「やっぱり体で押し込んでましたね」
ニコラスは走りながら答えなかった。
「俺だったらDFをかわしてから決めてました」パブロは続けた。「その方が綺麗じゃないですか」
「ゴールは綺麗じゃなくていい」とニコラスは言った。走りながらだった。
「でも見ている人が楽しいじゃないですか」
「勝てばいい」
パブロは少し間を置いた。「ロメロさんって、練習中も試合中もほとんど何も言わないですよね」
ニコラスは答えなかった。
「チームメイトに何か伝えたりしないんですか。指示とか」
「今季から始めている」
「今季から?」パブロは少し驚いた顔をした。「今まで何もしゃべらなかったんですか」
「そうだ」
「それでよく二年間やれましたね」パブロは言った。「俺には信じられない。チームスポーツなのに、何もしゃべらないなんて」
ニコラスは答えなかった。
パブロは少し声を低くした。「デュランさんに言われました。ニコラスのゴールを全部見てから話せって。でも俺、全部見ましたよ。それでもフィジカルに頼ってる部分が多いと思う。チームメイトはなんで誰もそれを言わないんですか」
ニコラスは走りながらパブロを見た。
パブロの表情は笑っていなかった。本気で不満だった。
ニコラスは何も言わなかった。走り続けた。
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午後の紅白戦だった。
ニコラスは意識してコーチングの言葉を出すようにした。
「ファー」
「下がれ」
「右、空いてる」
少しずつだった。タイミングがまだ合わない場面もあった。でも声は出た。
ロジャーズが一度、ニコラスの「右、空いてる」という声に反応して右へ展開した。繋がった。
練習後、ワトキンスがニコラスの隣で水を飲んでいた。
何も言わなかった。でもニコラスを少し見た。
それだけだった。
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練習が完全に終わった後、パブロがまたニコラスに来た。
「今日、声出してましたね」とパブロは言った。「でも全然チームに伝わってなかったじゃないですか」
ニコラスは少し間を置いた。「始めたばかりだ」
「俺は最初からしゃべってます」パブロは言った。「でも誰も聞いてくれない。ロメロさんが何も言わなくても成立してるチームだから、俺が何か言っても邪魔扱いされる」
ニコラスはパブロを見た。
チームメイトに相手にされていないことへの苛立ちだった。その矛先がニコラスに向いていた。
「しゃべることと、伝わることは別だ」とニコラスは言った。
パブロが少し目を細めた。「俺の言葉が伝わってないと言いたいんですか」
ニコラスは何も言わなかった。
ロッカールームへ向かった。
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その日の夜、エメリーから短いメッセージが来た。
「今日の声、聞いていた。続けろ」
ニコラスはそれを読んだ。
スマートフォンを置いた。
今日、パブロに二度言葉を返した。完全ではなかった。でも昨日より出た。
「しゃべることと、伝わることは別だ」
あの言葉は、パブロに言ったと同時に自分にも言っていた。
声を出すことと、チームに伝わることは別だ。でも声を出さなければ伝わらない。
まず声に出す。それが今季だった。
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