表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
沈黙のストライカー  作者: ムーミンの丸焼き
アストン・ヴィラ3年目

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

98/110

無口


-----


九月、リーグ戦が始まった。


開幕戦はホームだった。ニコラスが一ゴールを決めた。ヴィラが二対一で勝った。


パブロはベンチだった。試合には出なかった。


-----


翌日の練習だった。


ウォームアップ中、パブロがニコラスの隣に来た。


「昨日のゴール見ました」とパブロは言った。「やっぱり体で押し込んでましたね」


ニコラスは走りながら答えなかった。


「俺だったらDFをかわしてから決めてました」パブロは続けた。「その方が綺麗じゃないですか」


「ゴールは綺麗じゃなくていい」とニコラスは言った。走りながらだった。


「でも見ている人が楽しいじゃないですか」


「勝てばいい」


パブロは少し間を置いた。「ロメロさんって、練習中も試合中もほとんど何も言わないですよね」


ニコラスは答えなかった。


「チームメイトに何か伝えたりしないんですか。指示とか」


「今季から始めている」


「今季から?」パブロは少し驚いた顔をした。「今まで何もしゃべらなかったんですか」


「そうだ」


「それでよく二年間やれましたね」パブロは言った。「俺には信じられない。チームスポーツなのに、何もしゃべらないなんて」


ニコラスは答えなかった。


パブロは少し声を低くした。「デュランさんに言われました。ニコラスのゴールを全部見てから話せって。でも俺、全部見ましたよ。それでもフィジカルに頼ってる部分が多いと思う。チームメイトはなんで誰もそれを言わないんですか」


ニコラスは走りながらパブロを見た。


パブロの表情は笑っていなかった。本気で不満だった。


ニコラスは何も言わなかった。走り続けた。


-----


午後の紅白戦だった。


ニコラスは意識してコーチングの言葉を出すようにした。


「ファー」


「下がれ」


「右、空いてる」


少しずつだった。タイミングがまだ合わない場面もあった。でも声は出た。


ロジャーズが一度、ニコラスの「右、空いてる」という声に反応して右へ展開した。繋がった。


練習後、ワトキンスがニコラスの隣で水を飲んでいた。


何も言わなかった。でもニコラスを少し見た。


それだけだった。


-----


練習が完全に終わった後、パブロがまたニコラスに来た。


「今日、声出してましたね」とパブロは言った。「でも全然チームに伝わってなかったじゃないですか」


ニコラスは少し間を置いた。「始めたばかりだ」


「俺は最初からしゃべってます」パブロは言った。「でも誰も聞いてくれない。ロメロさんが何も言わなくても成立してるチームだから、俺が何か言っても邪魔扱いされる」


ニコラスはパブロを見た。


チームメイトに相手にされていないことへの苛立ちだった。その矛先がニコラスに向いていた。


「しゃべることと、伝わることは別だ」とニコラスは言った。


パブロが少し目を細めた。「俺の言葉が伝わってないと言いたいんですか」


ニコラスは何も言わなかった。


ロッカールームへ向かった。


-----


その日の夜、エメリーから短いメッセージが来た。


「今日の声、聞いていた。続けろ」


ニコラスはそれを読んだ。


スマートフォンを置いた。


今日、パブロに二度言葉を返した。完全ではなかった。でも昨日より出た。


「しゃべることと、伝わることは別だ」


あの言葉は、パブロに言ったと同時に自分にも言っていた。


声を出すことと、チームに伝わることは別だ。でも声を出さなければ伝わらない。


まず声に出す。それが今季だった。


-----

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ