生意気
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八月下旬、プレシーズン最後の週だった。
練習の強度が上がっていた。エメリーがより実戦に近い形での練習を増やしていた。
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その日の午前、ポゼッション練習があった。
二チームに分かれた。ニコラス、ワトキンス、ロジャーズ、ティーレマンス、パウ・トーレスのチームに、パブロも入った。
練習が始まった。
ティーレマンスがボールを持った。ロジャーズへ出した。ロジャーズがニコラスへ。ニコラスがパブロへ落とした。
パブロがトラップした。前を向いた。ニコラスがパブロの視野に入る位置で手を挙げた。
パブロはニコラスへ出さなかった。
そのままドリブルで前へ出た。相手チームのプレスをかわした。ロジャーズへ出した。
エメリーの笛は鳴らなかった。プレー自体は正しかった。
でもニコラスはその場に立っていた。
何か言おうとした。「なぜ出さなかった」と言おうとした。でも言葉がまとまる前に、次のプレーが始まっていた。
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同じ場面が三度あった。
ニコラスがフリーになっている。パブロがボールを持っている。パブロが出さない。
三度目、パウ・トーレスがパブロに何か言った。スペイン語だった。パブロが軽く返した。パウ・トーレスは何も言わなかった。居心地悪そうだった。
練習が終わった後、ニコラスはパブロに近づいた。
「なぜ出さなかった」
パブロは少し驚いた顔をした。ニコラスから話しかけてくるとは思っていなかったようだった。
「出せる状況でも、俺が運んだ方がいいと思ったからです」とパブロは言った。「フリーでも、俺の方が次の展開を作れる」
「俺がフリーのとき、出すのが原則だ」とニコラスは言った。
「原則より結果じゃないですか」パブロは言った。「俺のドリブルの方が相手を崩せた」
言葉が出てこなかった。反論の言葉は頭の中にあった。「フリーの選手を使うことで相手のプレスが間延びする、それが次の展開を生む」——わかっていた。でも口から出てくる前に間が空いた。
パブロはその沈黙を見た。少し口の端が上がった。
「俺、自分が一番うまいと思ってるんで」とパブロは言った。「自分でやった方がいいと思ったら自分でやります」
ニコラスはパブロを見た。
何も言わなかった。
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ロッカールームで、マルティネスがパブロの隣に座った。
スペイン語で話しかけた。
パブロが答えた。軽い口調だった。
マルティネスが続けた。今度は少し低い声だった。
パブロが少し黙った。それから何か返した。
マルティネスは笑わなかった。立ち上がって自分のロッカーへ戻った。
ニコラスにはやり取りの内容はわからなかった。でもマルティネスが笑わなかったことはわかった。
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午後の練習はシュート練習だった。
パブロの順番になった。
助走を取った。インサイドでコースを狙った。GKの逆を突いた。ネットが揺れた。
技術は本物だった。ニコラスはそれを認めていた。
次の順番でパブロがもう一本打った。今度はアウトサイドで巻いた。ゴール左上に決まった。
「どうですか」とパブロがニコラスに言った。「テクニックで決めました」
ニコラスは少し間を置いた。
「上手い」と言った。
パブロが少し意外そうな顔をした。褒められると思っていなかったようだった。
「でもゴール前では使えないことがある」とニコラスは続けた。「相手が近い。時間がない。そのときに体が使えるかどうかが別れる」
パブロは少し口を開いた。何か言おうとした。でも今度はパブロが黙った。
ニコラスは列の後ろへ戻った。
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夜、ニコラスはアパートで今日のことを振り返った。
午前の練習では言葉が出なかった。でも練習後、パブロに話しかけた。言えた。
完全ではなかった。でも昨日より一歩進んだ。
エメリーが言っていた。百回外れて一回合えばいい。
プレー中に言葉を出すことを怖がらない。それが今季の始まりだった。
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