パブロ・ブランコ
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プレシーズン三日目の練習だった。
シュート練習をしていた。ニコラスが列に並んでいると、後ろから声がした。
「ロメロさんですよね」
スペイン語訛りの英語だった。
振り向いた。昨日グラウンドの端で見た選手だった。近くで見ると若かった。細身で、目が鋭かった。
「そうだ」
「パブロ・ブランコです」その選手は言った。「ユースから上がってきました」
ニコラスは頷いた。
「プレミアリーグのトップスコアラーに会えて光栄です」パブロは言った。「去年の得点は三十四点でしたっけ」
「そうだ」
「ハーランドに一点届かなかった」パブロは言った。笑っていた。「惜しかったですね」
ニコラスは何も言わなかった。
「今季は得点王取れますか」
「取る」
パブロは少し笑った。「フィジカルで取ってる感じがしますけど、テクニックはどうなんですか」
ニコラスは少し間を置いた。何か言おうとした。でも言葉が出なかった。
順番が来た。ニコラスはシュートを打った。ゴール右上に突き刺さった。
振り返らずに列の後ろへ戻った。
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午後の練習でパス練習があった。
ニコラス、ワトキンス、ロジャーズ、パブロの四人組になった。
ロジャーズがボールを持った。ニコラスへ出した。ニコラスがパブロへ落とした。パブロがワトキンスへ。ワトキンスがロジャーズへ戻した。
何度か繰り返した。
パブロのボールタッチは滑らかだった。トラップが正確で、パスに迷いがなかった。十八歳とは思えない技術だった。
次の局面でニコラスがパブロへ出した。パブロがニコラスへ戻さず、そのままドリブルを始めた。ロジャーズへ出した。
エメリーが笛を吹いた。「パブロ、ロメロへ戻せ」
「でも俺の方が前を向けてました」とパブロは言った。
「練習の意図がある」とエメリーは言った。「従え」
パブロは頷いた。でも納得していない顔だった。
ロジャーズがニコラスに小声で言った。「ああいうやつだ、気にするな」
ニコラスは何も言わなかった。
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練習後、ロッカールームでパブロがマルティネスとスペイン語で話していた。
ニコラスには内容はわからなかった。でも時々こちらを見ていた。
マルティネスがパブロに何か言った。パブロが軽く笑って返した。
マルティネスは笑わなかった。
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翌日の練習だった。
シュート練習の後、パブロがニコラスの隣に来た。
「ロメロさん、昨日のシュート見てましたよ」とパブロは言った。「確かに上手い。でも、ゴール前で体使ってこじ開けてるだけじゃないですか」
ニコラスは少し間を置いた。
何か言おうとした。「それだけじゃない」と言おうとした。でも言葉がうまく出てこなかった。何をどう言えばいいかが瞬時にまとまらなかった。
「俺はテクニックでゴール前を崩せます」パブロは続けた。「そっちの方が綺麗じゃないですか」
デュランが近くで着替えながら聞いていた。「お前、ニコラスに何言ってんだ」とデュランは言った。スペイン語訛りの英語だった。
「本当のことを言ってるだけです」
「本当のこと」デュランは言った。「ニコラスのゴール全部見たことあるか。あるなら同じこと言えるか確認してから話せ」
パブロは少し口を閉じた。でも引かなかった。「見ました。フィジカルに頼ってる部分が多いと思います」
デュランは呆れた顔をした。ニコラスを見た。
ニコラスは何も言わなかった。着替えを続けた。
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その日の夜、ニコラスはアパートで天井を見ていた。
コーチングを始めろ、とエメリーに言われた。言葉で伝えることを始めろ。
でも今日、パブロに何も言えなかった。
反論しようとした。でも言葉が出なかった。試合中でもない、練習後のロッカールームでも出なかった。
言語化はできていた。頭の中では整理できていた。でも口から出てくるまでに時間がかかった。相手がすでに次の言葉を言っていた。
スマートフォンを取り出した。グレースに電話した。
「どうしたの」とグレースは言った。
「なんでもない。声が聞きたかった」
グレースは少し間を置いた。「何かあったの」
「生意気な後輩が来た」
グレースが笑った。「あなたが後輩の話をする日が来るとは思わなかった」
「俺もそう思う」
「どんな子なの」
「上手い」とニコラスは言った。「でも生意気だ」
「あなたも最初はそう思われてたんじゃないの」とグレースは言った。
ニコラスは少し間を置いた。
「そうかもしれない」
「うまくやりなさい」とグレースは言った。「あなたの方が先輩なんだから」
電話を切った。
天井を見た。
先輩。
その言葉が少し頭に残った。
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