外側③
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## X(旧Twitter)、日本
イングランド対日本のベスト16が終わった翌日、日本のXで「ロメロ」がトレンド入りした。
「イングランドの9番誰??顔良すぎて試合に集中できなかった」
「ニコラス・ロメロ。アストン・ヴィラ。プレミア2年目で34ゴール。普通にやばい」
「タトゥー入ってるのに顔がお人形みたいで無理」
「日本代表破ったくせになんで応援したくなってるんだ俺は」
「ロメロのゴール、体の入れ方が人間じゃない。あの体格で技術もあるの反則だろ」
「61分のシーン見た?日本のDF二人がかりで押さえにきてるのにビクともしてない。壁じゃん」
「↑あれ二人で押しても動かなかったよ。どんな体してるんだ」
「↑ロメロ189cm99kgらしい。そりゃ動かんわ」
「あのシーンでボールを落ち着いて落としてベリンガムに繋いだの意味わからん。普通パニックになる」
「↑フィジカルだけじゃなくて技術も冷静さもある。何なんだこの選手」
「ロメロって全然しゃべらないらしくてインタビューが面白すぎる。一言で全部終わらせるの」
「あの無表情で決めるやつ、映画の主人公すぎる」
「金髪でタトゥーだらけで189cmて。現実にいるキャラじゃない」
「↑しかもサッカー始めて5年でここまで来てるの意味わからん」
「ロメロのインタビュー動画見てたら「言葉を覚えた」って言ってて意味深すぎる。何を言葉にしたんだ」
「試合後AKIとユニフォーム交換してて草。仲いいのかよ」
「↑プレミアで何度も対戦してるし連絡取り合ってるらしいよ。ライバルだけど友達みたいな感じ?」
「ロメロ今日本にいるらしいんだけど誰か見た人いる?」
「↑道頓堀で見たって知り合いが言ってた。写真撮ってもらったら日本語で返事したって」
「嘘でしょ日本語話せるの??」
「↑AKIから教わったって話がある」
「もう完全に推しです。日本代表に負けたこと許せないけど。ロメロのことは好き」
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## X・Instagram、日本(サッカーを見ない層)
ワールドカップ期間中、普段サッカーを見ない層にもニコラスの名前が広まった。
「サッカー全然見ないんだけどTLに流れてきたこの人誰?顔が良すぎて現実の人間じゃない」
「↑ニコラス・ロメロっていうイングランドの選手。日本代表倒した人」
「↑え待って日本代表倒した人なの。でも顔が良すぎて許せてしまう」
「タトゥーびっしり入ってるのに顔がお人形みたいなのなんで。どういう組み合わせ」
「身長189cmらしい。顔が良くて体でかくてタトゥーだらけで金髪って、少女漫画のキャラクターか」
「↑しかも無口で無表情らしい」
「↑それはもう少女漫画のキャラクターじゃなくて少女漫画そのもの」
「インタビュー動画見たら一言しか言わなくて笑った。記者が困ってた」
「↑でもなんか、その一言で全部言い切ってる感じがして逆にかっこよかった」
「ロメロのタトゥー、よく見たらすごく綺麗なデザインだった。どこで入れたんだろ」
「サッカー選手ってこんなにかっこいい人いるんだ。今まで見てなかったの損した」
「↑ワールドカップ終わったらまたサッカー見なくなりそうだけど、ロメロのことだけ気になる」
「ロメロが日本に来てるってマジ?道頓堀にいたって情報あるんだけど」
「↑日本語で話しかけたら日本語で返ってきたって目撃情報あった」
「↑え待って日本語話せるの??完璧すぎる」
「普段サッカーに興味ないけどロメロだけ追いたい。これがにわかというやつか」
「ワールドカップが終わってもロメロのことが気になってしまっている。プレミアリーグって何」
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## X・Instagram、日本(目撃情報・写真・動画)
旅行中、ニコラスの姿を収めた写真や動画がSNSに上がり始めた。
「浅草で外国人に声かけられてたロメロ。普通に写真撮ってあげてた。優しい」
*(写真:雷門前、ニコラスが外国人観光客と並んでいる。身長差が圧倒的。無表情だが写真には収まっている)*
「↑でかすぎる。周りの人間が子供みたいに見える」
「↑隣の人普通の体格だけどニコラスの肩くらいまでしかない」
「↑タトゥーが浅草に馴染んでるのなんで。似合いすぎ」
「道頓堀でたこ焼き食べてるロメロ目撃。お母さんと一緒にいた」
*(動画:たこ焼きを食べているニコラスとグレース。グレースが熱そうにしているのをニコラスが無表情で見ている)*
「↑お母さんと旅行してるの!?!?」
「↑なんか意外すぎてギャップがやばい」
「↑お母さんめちゃくちゃ楽しそう。ニコラスが隣でずっと無表情なのに」
「↑お母さん鹿に服引っ張られて爆笑してた動画も上がってたよ。ニコラスが隣で小さく笑ってた」
「↑小さく笑ってた!?見たい!!」
「奈良で鹿に囲まれてるロメロ。鹿が怖がってないのは体格関係ないのか」
*(写真:鹿に囲まれたニコラス。鹿たちが普通に近づいている。ニコラスは無表情)*
「↑鹿の顔が全員無表情でロメロも無表情で画になりすぎ」
「↑これポスターにしてほしい」
「日本語で写真お願いされてた動画。『いいですよ』って日本語で答えてて相手が固まってた」
*(動画:ファンに日本語で答えるニコラス。相手が驚いて友人と顔を見合わせている)*
「↑『いいですよ』って言えてるの普通にすごい。外国人であの発音は」
「↑AKIに教わったって話があるけど、AKIの京都弁が移ってたりしないかちょっと気になる」
「↑それは流石にない(笑)」
「ロメロが日本に来てくれたこと、なんか嬉しい。日本代表倒した人なのに」
「↑日本戦でゴール決めた人が奈良で鹿と並んでるの、なんか平和すぎて笑う」
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## スポーツコメンテーター、テレビ番組
「えー、このニコラス・ロメロという選手なんですが、私も今回のワールドカップで初めてちゃんと見たんですよね」
「私もそうです。プレミアは普段あまり追いかけてないので」
「でもあのイングランド戦、衝撃でしたよね。日本代表のDF陣が全員困ってた。体がまず違いすぎる」
「そうなんですよ。身長189センチ、体重99キロって言われていて。動けるサイズじゃないんですよ本来」
「それでいて動き出しが早い。ボールが来る前にもうスペースに走り出してる。どうやって止めるんですかあれ」
「プレミアでは2年目に34ゴールで、得点王のハーランドに1ゴール届かなかったんです。1ゴール差ですよ」
「それは惜しかったですね」
「で、キャリアが面白くて。イングランドの4部リーグから始まって、トルコ、スイスを経由してプレミアへ。サッカーを始めたのが16歳で、プロデビューもその年なんですよ」
「サッカー経験5年でワールドカップのスタメンって、そんなことあるんですね」
「あるんですよ。それがニコラス・ロメロという選手で」
「インタビューも独特ですよね。ほとんどしゃべらない」
「そうそう。でも話すときは短くて核心を突く。今回の試合後も一言だけでしたよね、確か」
「『良い試合だった』でしたね」
「それだけ(笑)。でもなんか説得力があるんですよね、あの無表情で言われると」
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## 日本代表サポーター、試合後
スタジアムを出た日本のサポーターたちがいた。
「負けたのは悔しいけど、あの選手に負けたなら仕方ない気もする」
「あれを止めろって言われてもな。フィジカルが規格外すぎる」
「61分のシーン見てた?DF二人で押さえにいったのに全然動かなかった」
「あれは無理だよ。あの体格で踏ん張られたら」
「しかもそのまま冷静にベリンガムへ落とすんだよな。パニックにならない」
「でも三点目、技術で取ったわけじゃないじゃないですか。力で持ってった感じで」
「それもサッカーだから。あの体格で動けるのがおかしい」
「ロメロ、試合後にAKIとユニフォーム交換してたよな」
「してた。二人、知り合いなのかな」
「プレミアで同じリーグだし。AKIはリバプールだから何度も対戦してるはず」
「なんか悔しいけど、次のワールドカップでまた当たりたいとも思う」
「そのときはAKIが止めてくれ」
「無理だろあれは(笑)」
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## サッカーYouTuber、解説動画
「はい、というわけで今回はイングランド戦で日本を沈めた、ニコラス・ロメロという選手について掘り下げていきたいと思います。チャンネル登録よろしくお願いします」
「まずこの選手のキャリアが異色すぎる。チェスターフィールドというイングランドの四部リーグから始まって、トルコ、スイスを経由してプレミアへ。普通こういうルートはない」
「で、プレミア一年目で十九ゴール。二年目で三十四ゴール。二年目はハーランドに一点届かなかった。これが何を意味するかというと、単純に化け物です」
「プレースタイルを見ると、フィジカルが規格外なのは当然として、動き出しのタイミングが異常に早い。ボールが来る前にもう走り出してる。これがヴィラでのエメリー監督の指導の成果らしくて」
「あと面白いのがインタビュー。ほとんど話さないんですよ。でも話すときは核心しか言わない。去年のインタビューで『言葉を覚えた』って言ったんですけど、これが日本でもちょっと話題になってて。何を言葉にしたのかって」
「日本語も少し話せるらしいです。旅行中に覚えたみたいで、道頓堀で日本語で返事してたという目撃情報があって」
「というわけでニコラス・ロメロ、今後も要注目の選手です。次のワールドカップも絶対スタメンでしょうし、下手したら得点王争いしてくると思います」
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## AKI、京都にて
ワールドカップが終わって、AKIは実家の京都に戻っていた。
スマートフォンを見ると、Xでロメロの名前が何度も流れてきた。
トレンドに入っていた。
AKIは少し笑った。
日本でバズってるのか、と思った。ロメロが日本に旅行に来ているのをAKIは知っていた。今ごろ、街中で気づかれているかもしれなかった。
あの選手は日本語で「いいですよ」と答えるはずだった。
そしたら相手はもっと驚く。
AKIはXを閉じた。
来季、またプレミアで当たる。今度こそピッチで決着をつける。
それだけだった。
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## テリーの店、チェスターフィールド
夜、テリーの店にいつものメンバーが集まっていた。
テレビでワールドカップのハイライトが流れていた。
ゲイリーがカウンターの端でビールを飲んでいた。マッコールが隣に座っていた。他にも顔なじみが何人かいた。みんな、テレビを見ていた。
ニコラスがゴールを決める場面が流れた。
マッコールが立ち上がった。「見たか!」
「見た!」とゲイリーが言った。
「ニコラスだぞ!ワールドカップだぞ!」
「わかってる!」
テリーはカウンターの奥から声を上げた。「うるさいぞお前ら」
「うるさくなるだろ!」とマッコールが言った。「俺たちのニコラスがワールドカップでゴール決めてるんだぞ!」
店の中の他の客も笑っていた。
テリーはグラスを磨く手を止めた。テレビを見た。
練習場にタッパーを持って差し入れに行ったあの十六歳が、ワールドカップでゴールを決めた。ベスト4まで行った。二十一歳だった。
胸の奥に何かが込み上げた。でもテリーは何も言わなかった。グラスを磨き続けた。
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ハイライトが続いた。DF二人を背負って動じずにボールを落とす場面が流れた。
「あれだよ!」とマッコールが叫んだ。「あの体!うちに来たときからおかしかったんだよ体が!」
「最初からサイズが違った」とゲイリーは言った。「でも技術がなかった。今はある」
「自分で覚えたんだろうな」とマッコールは言った。「ニコラスらしい」
「らしい」とゲイリーは言った。
しばらく誰も何も言わなかった。テレビではハイライトが続いていた。
「笑わないよな、ニコラスって」とマッコールが言った。「ゴール決めても無表情だし」
「でもあれがあったよな」とテリーがカウンターの奥から言った。「デビュー戦の後、ロッカールームで」
「あった」とゲイリーが笑った。「俺が『笑えよ』って言ったら」
「『これが笑ってる顔です』だろ」とマッコールが言った。
三人が同時に笑った。店の中の他の客が何事かと振り返った。
「あれは傑作だった」とマッコールが言った。「ニコラスが一番面白かった時期かもしれない」
「あいつは昔から変わらない」とゲイリーは言った。
「変わらない」とテリーは言った。
「来季また見に行くか」とマッコールが言った。
「行く」とゲイリーは言った。
「俺も」とテリーは言った。
「次は優勝だぞ、ニコラス」とマッコールがテレビに向かって言った。
誰も笑わなかった。でも全員が頷いていた。
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