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沈黙のストライカー  作者: ムーミンの丸焼き
2030ワールドカップ

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91/109

終わりと次


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試合後の夜、チームホテルは静かだった。


夕食はあった。でも誰も多くは食べなかった。テーブルに座って、ぼんやりしている選手が多かった。


ニコラスは食事を終えてロビーに出た。


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ベリンガムがソファに座っていた。一人だった。


「座っていいか」とニコラスは言った。


「ああ」


ニコラスは隣に座った。


しばらく二人とも何も言わなかった。


「悔しいな」とベリンガムは言った。


「そうだ」


「俺はあの二点目、防げたと思っている」ベリンガムは言った。「ムバッペがはたいた瞬間、俺が出るべきだった。でも一歩遅かった」


「あの判断は難しかった」


「でも俺ならできたはずだった」ベリンガムは言った。それ以上は言わなかった。


ニコラスは少し間を置いた。


「俺も今日、見えていたものがあった」とニコラスは言った。「ムバッペの動きだ。でもまだできない」


「できていなかったか」


「一つはできた。ケインが教えてくれたことだ。でもムバッペがやっていたことはまだ先だ」


ベリンガムは頷いた。「お前には時間がある」


「ムバッペも同じことを言っていた」


ベリンガムは少し笑った。「世界最高の選手と同じ話をしているのか、俺は」


「今日話した」


「すごいな」ベリンガムは言った。「俺も話しかければよかった」


-----


サカが通りかかった。


「二人とも眠れないか」とサカは言った。


「眠れない」とベリンガムが言った。


サカは向かいの椅子に座った。


「今日の試合、悔しかったけど」とサカは言った。「このチームで戦えて良かったと思っている」


「俺もそうだ」とベリンガムは言った。


ニコラスは少し間を置いた。


「俺はこのチームに来て、覚えたことがある」


「何だ」とサカは聞いた。


「ワトキンス以外と連動する感覚だ。ケインと練習して、試合でできた」


サカはニコラスを見た。「最初の代表合宿のとき、お前はまだ全部一人でやっていた感じがあった」


「そうだったか」


「今は違う」サカは言った。「ピッチでよく周りを見ている。前より声も出るようになった」


ニコラスはその言葉を聞いた。


言語化して、伝えて、チームを動かす。エメリーが言っていたことが、少しだけ形になってきた。


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ライスが来た。


「みんなここにいたか」とライスは言った。椅子を引いて座った。


四人になった。


「このチームで戦えて良かった」とライスは言った。「次のワールドカップも、できれば一緒に戦いたい」


「四年後か」とベリンガムは言った。


「そうだ。二〇三四年」


ニコラスは少し考えた。二〇三四年、自分は二十五歳になっている。


「次は優勝する」とニコラスは言った。


三人がニコラスを見た。


「珍しいな、お前が先に言うの」とサカは言った。


「思ったから言った」


ライスは少し間を置いた。それから「そうだ、次は優勝する」と言った。


ベリンガムが「優勝する」と言った。


サカが「する」と言った。


四人でしばらく黙っていた。でも悪い沈黙ではなかった。


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深夜、アリスターがニコラスの部屋に来た。


「眠れなかったから来た」とアリスターは言った。


「入れ」


アリスターが入ってきた。床に座った。


「今日、延長で出た」とアリスターは言った。「ペドリを見て気づいたことを試した」


「試合の流れが変わった」


「少しだけな」アリスターは言った。「でも感触があった。来季ユナイテッドでそれをやる」


「やれ」


アリスターは天井を見た。


「ニック、お前は今日何を感じた」


ニコラスは少し考えた。


「ムバッペの動きを見た。あれがまだできない。でも何をすればいいかが見えた」


「それを来季やるのか」


「そうだ」


アリスターは頷いた。「チェスターフィールドから来て、お互いまだやることがあるな」


「そうだな」


「良かった」とアリスターは言った。「まだやることがある方が、楽しいから」


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翌朝、チームが解散した。


空港へ向かう前、ケインを見つけた。


「帰るか」とニコラスは言った。


「そうだ」とケインは言った。「バイエルンへ戻る」


「引退の話、考えているか」


ケインは少し間を置いた。「戻ったら考える。でもたぶん、今季で終わりだ」


ニコラスは頷いた。


「来季、どこかで試合があれば」


「ヴィラとバイエルンがCLで当たるかもしれないな」ケインは言った。「そのときは手加減しないぞ」


「こちらもしない」


ケインは少し笑った。「それでいい」


握手をした。


長い握手だった。


ケインが去っていった。


ニコラスはその背中を見た。


百三十七試合出場して引退した男の息子が、プレミアでもワールドカップでもゴールを決めた。その傍らで、別の偉大な選手がキャリアを終えようとしていた。


サッカーは続いていく。


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空港で、サカが来た。


「また代表で会おう」とサカは言った。


「会おう」


「次のワールドカップ、本気で優勝を狙う」


「そうだ」


サカは笑った。「三年前、初めて代表に来たとき、お前はまだ誰とも目を合わせなかった。今は違う」


ニコラスは少し間を置いた。


「言葉を覚えた」


サカは笑った。「それだな」


-----


飛行機の中で、ニコラスはスマートフォンを取り出した。


グレースにメッセージを送った。


「ベスト4で負けた。でも来季やることが見えた」


グレースからすぐ返信が来た。


「お疲れ様。日本旅行、もうすぐね」


ニコラスはスマートフォンを置いた。


窓の外にスペインの空が広がっていた。


父がプレーした国で、自分もプレーした。


それだけで十分だった。


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