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沈黙のストライカー  作者: ムーミンの丸焼き
コンヤスポル

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9/110

異国


---


コンヤは、思っていたより広い街だった。


空港を出た瞬間、熱気が体にぶつかってきた。チェスターフィールドの夏とは次元が違う暑さで、ニコラスは思わず立ち止まった。空が高くて、濃い青色をしていた。建物の色が、形が、イングランドとは全然違った。


クラブのスタッフが迎えに来ていた。四十代の男で、英語が少しだけ話せた。


「ウェルカム、ニコラス」と言って握手をした。「ホテル、まず行く」


「はい」


「疲れた?」


「いいえ」


それで会話が終わった。車の中はずっと静かだった。


---


最初の練習は翌日だった。


グラウンドに着くと、チームメイトたちがすでにウォームアップをしていた。ニコラスが現れると、何人かが振り返った。視線が体を上から下まで走った。チェスターフィールドのロッカールームで経験したものと似ていたが、感情が違った。あちらは驚きだった。こちらは、値踏みだった。


「Merhaba」と誰かが言った。


ニコラスはスマホのアプリで覚えたばかりの言葉を思い出した。


「Merhaba」と返した。


相手は続けて何か言った。トルコ語が流れるように出てきた。ニコラスにはわからなかった。


「すみません、英語で話してもらえますか」


相手は肩をすくめて行ってしまった。


---


練習が始まると、サッカーの言語は少しだけ共通だった。


コーチの指示はわからなかったが、動きを見て判断した。ポジショニング、プレスのタイミング、戦術の形。目で追えば、ある程度は理解できた。


しかしボールが絡むと、すぐに問題が出た。


右サイドの9番、トゥリュチがボールを受けた。ニコラスはゴール前でスペースを作って待った。パスコースは明らかだった。トゥリュチはそちらを見た。でもパスを出さなかった。逆サイドに無理な横パスを送って、カットされた。


ニコラスは何も言わなかった。


次の場面でも同じことが起きた。


その次も。


練習が終わって、ロッカールームでゾーイにメッセージを送った。


「右サイドが使えない」


すぐに返信が来た。


「初日から結論出さないでください。まずは観察」


「観察した。使えない」


「……わかりました。でもまだ我慢してください」


ニコラスはスマホをロッカーに入れた。


---


最初の一ヶ月、ニコラスはホテルに住んでいた。


クラブが用意した部屋で、広くて清潔だったが、静かだった。窓の外にコンヤの街が広がっていた。モスクの尖塔が夕暮れの空に突き出していた。アザーンの声が遠くから聞こえた。


夜、ゾーイとビデオ通話をした。


「慣れてきましたか」とゾーイは聞いた。


「慣れるとはどういう意味だ」


「孤独じゃなくなってきた、という意味です」


「孤独には慣れている」


ゾーイは少し間を置いた。


「それは慣れじゃなくて、諦めです」


ニコラスは窓の外を見た。アザーンの声がまた聞こえた。


「トルコ語は続けていますか」


「続けている」


「何か言えるようになりましたか」


「Teşekkür ederim」


「ありがとう、ですね。使えましたか」


「食堂のおばさんに言った」


「どうでしたか」


「笑ってくれた」


ゾーイは少し間を置いた。それから言った。


「それで十分です。続けてください」


---


試合が始まると、ゴールは自然に入った。


チームは強かった。チェスターフィールドとは比べものにならないフィジカルと技術があった。それでもパスミスは多く、連携が噛み合わない場面が目立った。ニコラスは次第に、前線だけに留まっていられなくなった。


中盤まで下がってボールを受ける。自分でキープして、前を向く。出せるパスを探す。いなければ自分で運ぶ。そういう場面が増えた。


フォワードの仕事ではなかった。でも誰かがやらなければならなかった。


六節を終えて、七ゴール。チームの順位は中位だった。


ゾーイからメッセージが来た。


「六節で七ゴール、順調ですね」


「チームが機能していない」


「わかっています。でもあなたは機能している」


「俺が機能してもチームが勝たないと意味がない。」


しばらく間があった。


「今日はゆっくり休んでください」とゾーイは言った。「あなたが一人で抱えられる量には限界があります」


ニコラスはスマホを置いた。


窓の外で、コンヤの夜が静かに広がっていた。


チェスターフィールドとは違う夜だった。でも空は同じだった。どこに行っても、空だけは同じだと思った。


---


十月のある夜、グレースから電話が来た。


「元気?」


「元気」


「ご飯食べてる?」


「食べてる。トルコの飯は旨い」


「そう」グレースは少し笑ったようだった。「テリーの奥さんが先週も来てくれたわよ。スコーンを持って」


「そうか」


「チェスターフィールドの試合もちゃんと見てるって言ってた。あなたのことも話したって」


ニコラスは少し間を置いた。


「スカーフ、してるか」


「してるわよ。毎日」


「そうか」


「あなたは?」


「俺はスカーフしない」


グレースがまた笑った。久しぶりに聞く笑い声だった。


「そうよね」と彼女は言った。「頑張って」


「うん」


電話が切れた。ニコラスはしばらくスマホを持ったままでいた。


遠かった。チェスターフィールドは遠かった。でもグレースの声は、いつもと同じ温度だった。


それだけで、十分だった。


---


十一月の終わり、アリスターからメッセージが来た。


「トルコどうだ。ゴール量産してるじゃないか」


「まあまあだ」


「まあまあで十五ゴールはまあまあじゃない」


「チームが機能してないからな」


「ニックがいなかったら何点取られてたんだろうな」しばらく間があって「ご飯はおいしい?」と続いた。


「旨い」


「それはよかった」また間があった。「孤独か」


ニコラスはしばらく考えた。


「慣れてきた」


「それは答えになってないよ」


ニコラスは窓の外を見た。コンヤの夜景が広がっていた。


「孤独だ」と打った。「でも問題ない」


「そうか」とアリスターは返した。「俺はいつでもいるからな」


ニコラスはそのメッセージを見た。


それだけだった。それだけで、何かが少し軽くなった。


---


十二月、ニコラスはアパートに引っ越した。


ホテルよりも小さかったが、台所があった。自炊を始めた。最初はひどい出来だったが、繰り返すうちに少しずつマシになった。グレースに電話して作り方を聞いた。レシピをメモした。


食堂のおばさんが時々、器に料理を入れて持ってきてくれた。毎回「Teşekkür ederim」と言った。毎回笑ってくれた。


それがこの街で唯一、自然に笑える瞬間だった。


ゾーイに「食堂のおばさんと仲良くなった」とメッセージを送った。


「それは大事なことです」とゾーイは返した。「続けてください」


「何をだ」


「人間でいることを」


ニコラスはしばらくその文章を見ていた。


意味はわかった。でも、うまく返せなかった。


そのまま、スマホを置いた。

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