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沈黙のストライカー  作者: ムーミンの丸焼き
2030ワールドカップ

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85/111

セビリア――第一戦


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六月十二日、ラ・カルトゥハスタジアム。


収容人数六万。満員だった。


イングランド対アメリカ。グループステージ第一戦。


ニコラスはウォームアップ中にスタジアムを見回した。スタンドにイングランドのユニフォームが多かった。赤と白の旗が揺れていた。でもアメリカのサポーターも相当数いた。声が二層になって重なっていた。


代表デビューから三年、ウェンブリー以外でも何度かプレーした。でも今日は違った。ワールドカップだった。


---


キックオフ前、ライスが円になった選手たちを見回した。


「いつも通りやる」とライスは言った。「それだけだ」


短かった。でも部屋が変わった。


---


前半、イングランドは慎重に入った。


アメリカは若いチームだった。前線から積極的にプレスをかけてきた。テンポが速かった。ニコラスは前線でボールを受けるたびにプレスが来た。


十二分、ニコラスがポストプレーでボールを落とした。メイヌーが受けた。前を向いた。右へ展開した。サカがドリブルで仕掛けた。クロスが上がった。


ケインがヘッドで合わせた。


ポストに当たった。


ライスが詰めたが、GKが弾いた。


「惜しかった」とケインがニコラスの隣で言った。「次は入る」


「そうだ」とニコラスは言った。


---


前半は膠着した。


アメリカの守備は組織的だった。4-4-2でブロックを作って、スペースを消してきた。


ニコラスはDFとMFの間で受けようとしたが、アメリカのボランチが潰しに来た。


ハーフタイム、ロッカールームでエメリーとは違う監督の声を聞いた。イングランド代表監督のサウスゲートではなくなっていた。今季からトーマス・トゥヘルが率いていた。


「前半は相手のペースに付き合いすぎた」とトゥヘルは言った。「後半、ボールを動かす速度を上げる。ニコラス、もっと外へ流れていい。ケインを中で使う」


「わかった」


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後半開始から、イングランドのテンポが上がった。


パスが速くなった。アメリカのブロックが少しずつ間延びした。


五十八分、サカが左サイドで受けた。縦に仕掛けた。DFが食いついた。


その瞬間、ニコラスはDFとGKの間に走り込んでいた。


サカが折り返した。


ニコラスがダイレクトで合わせた。


ネットが揺れた。


スタジアムが割れた。


ニコラスは右手を上げた。チームメイトが集まってきた。ベリンガムが肩を叩いた。アリスターが「やったぞ」と叫んだ。


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七十二分、アメリカが攻勢に出た。


ロングボールを多用してきた。イングランドのDFが競り合う時間が増えた。


七十七分、コーナーキックからアメリカの選手がヘッドで合わせた。マルティネスが弾いた。こぼれ球をシュートされた。


ポストに当たった。


スタジアムが息を呑んだ。


「集中しろ」とライスの声が飛んだ。


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八十四分、ケインが追加点を決めた。


ニコラスが右サイドへ流れてDFを引きつけた。その瞬間、中央にスペースが生まれた。メイヌーからパスが来たケインが一瞬で向きを変えてシュートを打った。


GKは動けなかった。


ケインがゆっくりとコーナーフラッグの方へ歩いた。走らなかった。でもその歩き方に、何かが詰まっていた。


ニコラスはその背中を見た。


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試合終了。二対零。


ロッカールームで、ライスが言った。「まず一つ。次に集中する」


シャワーを浴びて、ニコラスはロッカーの前に座った。


隣にケインが来た。


「今日のゴール、良かった」とケインは言った。


「お前のゴールも」


「俺のは走らなくていいゴールだった」ケインは言った。「お前が引きつけてくれたから中が空いた」


「そうだったか」


「気づいていなかったのか」


「動いた結果だった。意図はなかった」


ケインは少し間を置いた。「それを意図してできるようになると、もう一段上に行ける」


ニコラスはその言葉を聞いた。


エメリーが二年間言い続けたことと同じだった。でも今日、同じFWの口から、試合直後に聞いた言葉は違う重さがあった。


「教えてくれるか」とニコラスは言った。


ケインは少し驚いた顔をした。


「お前が聞くとは思わなかった」


「聞いた方が早い」


ケインは少し笑った。「明日の練習後に話そう」


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ホテルへ戻る車の中で、アリスターが言った。


「ワールドカップで点取ったぞ」


「そうだな」


「実感あるか」


ニコラスは窓の外を見た。セビリアの夜が流れていった。


「ある」と言った。


アリスターは少し驚いた顔をした。それから笑った。


「良かった」


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