セビリア――第一戦
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六月十二日、ラ・カルトゥハスタジアム。
収容人数六万。満員だった。
イングランド対アメリカ。グループステージ第一戦。
ニコラスはウォームアップ中にスタジアムを見回した。スタンドにイングランドのユニフォームが多かった。赤と白の旗が揺れていた。でもアメリカのサポーターも相当数いた。声が二層になって重なっていた。
代表デビューから三年、ウェンブリー以外でも何度かプレーした。でも今日は違った。ワールドカップだった。
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キックオフ前、ライスが円になった選手たちを見回した。
「いつも通りやる」とライスは言った。「それだけだ」
短かった。でも部屋が変わった。
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前半、イングランドは慎重に入った。
アメリカは若いチームだった。前線から積極的にプレスをかけてきた。テンポが速かった。ニコラスは前線でボールを受けるたびにプレスが来た。
十二分、ニコラスがポストプレーでボールを落とした。メイヌーが受けた。前を向いた。右へ展開した。サカがドリブルで仕掛けた。クロスが上がった。
ケインがヘッドで合わせた。
ポストに当たった。
ライスが詰めたが、GKが弾いた。
「惜しかった」とケインがニコラスの隣で言った。「次は入る」
「そうだ」とニコラスは言った。
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前半は膠着した。
アメリカの守備は組織的だった。4-4-2でブロックを作って、スペースを消してきた。
ニコラスはDFとMFの間で受けようとしたが、アメリカのボランチが潰しに来た。
ハーフタイム、ロッカールームでエメリーとは違う監督の声を聞いた。イングランド代表監督のサウスゲートではなくなっていた。今季からトーマス・トゥヘルが率いていた。
「前半は相手のペースに付き合いすぎた」とトゥヘルは言った。「後半、ボールを動かす速度を上げる。ニコラス、もっと外へ流れていい。ケインを中で使う」
「わかった」
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後半開始から、イングランドのテンポが上がった。
パスが速くなった。アメリカのブロックが少しずつ間延びした。
五十八分、サカが左サイドで受けた。縦に仕掛けた。DFが食いついた。
その瞬間、ニコラスはDFとGKの間に走り込んでいた。
サカが折り返した。
ニコラスがダイレクトで合わせた。
ネットが揺れた。
スタジアムが割れた。
ニコラスは右手を上げた。チームメイトが集まってきた。ベリンガムが肩を叩いた。アリスターが「やったぞ」と叫んだ。
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七十二分、アメリカが攻勢に出た。
ロングボールを多用してきた。イングランドのDFが競り合う時間が増えた。
七十七分、コーナーキックからアメリカの選手がヘッドで合わせた。マルティネスが弾いた。こぼれ球をシュートされた。
ポストに当たった。
スタジアムが息を呑んだ。
「集中しろ」とライスの声が飛んだ。
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八十四分、ケインが追加点を決めた。
ニコラスが右サイドへ流れてDFを引きつけた。その瞬間、中央にスペースが生まれた。メイヌーからパスが来たケインが一瞬で向きを変えてシュートを打った。
GKは動けなかった。
ケインがゆっくりとコーナーフラッグの方へ歩いた。走らなかった。でもその歩き方に、何かが詰まっていた。
ニコラスはその背中を見た。
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試合終了。二対零。
ロッカールームで、ライスが言った。「まず一つ。次に集中する」
シャワーを浴びて、ニコラスはロッカーの前に座った。
隣にケインが来た。
「今日のゴール、良かった」とケインは言った。
「お前のゴールも」
「俺のは走らなくていいゴールだった」ケインは言った。「お前が引きつけてくれたから中が空いた」
「そうだったか」
「気づいていなかったのか」
「動いた結果だった。意図はなかった」
ケインは少し間を置いた。「それを意図してできるようになると、もう一段上に行ける」
ニコラスはその言葉を聞いた。
エメリーが二年間言い続けたことと同じだった。でも今日、同じFWの口から、試合直後に聞いた言葉は違う重さがあった。
「教えてくれるか」とニコラスは言った。
ケインは少し驚いた顔をした。
「お前が聞くとは思わなかった」
「聞いた方が早い」
ケインは少し笑った。「明日の練習後に話そう」
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ホテルへ戻る車の中で、アリスターが言った。
「ワールドカップで点取ったぞ」
「そうだな」
「実感あるか」
ニコラスは窓の外を見た。セビリアの夜が流れていった。
「ある」と言った。
アリスターは少し驚いた顔をした。それから笑った。
「良かった」
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