表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
沈黙のストライカー  作者: ムーミンの丸焼き
アストン・ヴィラ2年目

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

84/109

ワールドカップ前夜――イングランド代表


---


六月十一日、セビリア。


イングランド代表のチームホテルは静かだった。


夕食が終わって、選手たちは部屋に戻るか、ロビーでまだ話しているかだった。明日の夜、ラ・カルトゥハでグループステージ初戦が始まる。


ニコラスは部屋のバルコニーに出た。


セビリアの夜は蒸し暑かった。遠くにホテルの灯りが見えた。スペインだった。父の国だった。


---


ロビーへ降りると、ベリンガムとライスがソファに座っていた。


「眠れないか」とベリンガムが言った。


「少し歩きたかった」


「座れよ」ライスが言った。


ニコラスは向かいに座った。


「明日のこと考えてるか」とベリンガムが聞いた。


「考えている」


「どんなことを」


「グループ全体の動き方だ」ニコラスは言った。「初戦は相手も固く入ってくる。スペースが少ない。その中でどこを使うか」


ライスは少し笑った。「戦術的だな」


「エメリーに二年間言われ続けた」


「言語化、か」ベリンガムは言った。「インタビューで言ってたやつ」


「そうだ」


ライスは少し間を置いた。「代表でも同じようにやってくれ。お前がピッチで整理してくれると、周りが動きやすくなる」


「まだそこまではできていない」


「できているかどうかより、やろうとすることが大事だ」ライスは言った。「俺はそう思っている」


---


しばらく三人で話した。


フォーデンが降りてきて加わった。パーマーも来た。気づけばテーブルに六人になっていた。


アリスターが最後に来た。


「何の集まりだ」とアリスターは言った。


「眠れない連中の集まりだ」とベリンガムが言った。


「俺も眠れない」アリスターは空いた椅子に座った。「チェスターフィールド出身二人組がワールドカップだぞ。眠れるわけがない」


ライスが笑った。「チェスターフィールドって何人プレミア選手出てるんだ」


「二人だ」とニコラスは言った。


「それがここにいる」アリスターは言った。「すごくないか」


「すごい」とニコラスは言った。珍しく、その言葉に迷いがなかった。


アリスターはニコラスを見た。「お前が『すごい』って言うの、初めて聞いた気がする」


「そうか」


「そうだよ」アリスターは笑った。「成長したな」


---


零時を過ぎたころ、少しずつ解散した。


フォーデンが「そろそろ寝る」と言った。パーマーが続いた。ライスが「明日頼む」と言いながら立ち上がった。


ベリンガムがニコラスに言った。「明日、決めてくれ」


「わかった」


「PKでもいい」ベリンガムは笑った。「動じないやつが蹴るべきだ」


---


最後にアリスターと二人になった。


「スペインか」とアリスターは言った。


「そうだな」


「お前の父親、スペイン人だったよな」


「そうだ」


アリスターは少し間を置いた。「何か感じるか」


ニコラスはバルコニーの方向を見た。


「父の試合の映像を見た。スペインのリーグだった」


「最近?」


「先週だ」


アリスターはそれを聞いて黙った。


「どうだった」


「悪くなかった」とニコラスは言った。「GKとして」


アリスターは頷いた。「そうか」


それだけだった。でもアリスターはそれ以上聞かなかった。昔からそういう男だった。


---


部屋に戻った。


バルコニーからセビリアの夜を見た。


父はこの国でプレーしていた。自分は今、この国のピッチでワールドカップを戦う。


同じ国で、違う場所に立つ。


ニコラスはその感覚を少し確かめた。


怒りはなかった。悲しみもなかった。ただ、何かが繋がっているような感覚があった。


始まりの前から続いている何かが、明日のピッチにもあるような気がした。


スマートフォンを取り出した。グレースにメッセージを送った。


「明日、スペインでプレーする」


すぐ返信が来た。


「見てる。頑張って」


ニコラスはスマートフォンを置いた。


ベッドに入った。


目を閉じた。


---

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ