エメリーとの対話
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シーズン終了から三日後、エメリーに呼ばれた。
監督室だった。エメリーはデスクに座っていた。映像もなかった。資料もなかった。
「座れ」とエメリーは言った。
ニコラスは座った。
「今季のことを話したい」とエメリーは言った。「評価ではない。確認だ」
「わかった」
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「二年前、お前に最初に言ったことを覚えているか」とエメリーは言った。
「言語化しろ、ということだ」
「そうだ」エメリーは頷いた。「今季、それができるようになったと思うか」
ニコラスは少し考えた。
「完全にはできていない。でも去年よりできている」
「具体的に言ってみろ」
「ワトキンスとの動きを、プレーの前に言葉で確認できるようになった。試合中に何が起きているかを、頭の中で整理しながら動けるようになった」
「それだけか」
「インタビューで言葉が出るようになった」
エメリーは少し間を置いた。
「インタビューは副産物だ」とエメリーは言った。「本質ではない」
「わかってる」
「では本質は何だ」
ニコラスは少し考えた。
「ピッチで起きていることを言語化できると、次に何が起きるかが少し見えてくる。体が動く前に、頭が追いつく瞬間が増えた」
エメリーは頷いた。「それだ」
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「来季、お前に求めることを言う」とエメリーは言った。
「聞く」
「言語化の次がある」エメリーは言った。「お前は今、自分のプレーを言語化できる。次は他人のプレーを言語化して、動かせるようになれ」
ニコラスは少し間を置いた。
「チームを動かす、ということか」
「そうだ。ワトキンスはそれができる。ロジャースもできる。お前はまだ自分の言語化が中心だ。来季はそれを外に向けろ」
「具体的にはどういうことだ」
エメリーは少し考えた。
「試合中、お前がスペースを見つけたとき、今は自分が動く。来季はそのスペースを言葉か動きで味方に伝えて、味方を動かせ。お前が動かなくても点が入る場面を作れ」
ニコラスはその言葉を聞いた。
「それはアシストを増やせということか」
「数字の話ではない」エメリーは言った。「お前がピッチにいることで、周りが良くなる。そういう選手になれということだ」
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「一つ聞いていいか」とニコラスは言った。
「言え」
「なぜ俺にそれを求めるんだ。俺はFWだ。ゴールを取るのが仕事だ」
エメリーはニコラスをしばらく見た。
「お前はすでにゴールを取れる。それはわかっている。でもお前が言語化を覚えたことで、ワトキンスとの2トップが機能した。二人で三十四点と二十一点を取った。お前が一人で得点するよりチームが強くなった」
「それは今季起きたことだ」
「来季はさらにその先だ」エメリーは言った。「お前が周りを動かせるようになれば、チームはもう一段上に行ける」
ニコラスは少し間を置いた。
「言語化の次が、言語化して伝えることか」
「そうだ」エメリーは言った。「二年かかった。次の一年でそれをやれ」
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「ワールドカップに行く」とニコラスは言った。
「知っている」
「そこでも同じことをやれということか」
エメリーは少し考えた。
「ヴィラとは違うチームだ。二年かけて作ったものは代表には最初からない。でもお前が言語化できるなら、どんなチームでも早く馴染める」
「初めてのワールドカップだ」
「そうだ」エメリーは言った。「でもお前は十六歳でプロデビューして、コンヤへ行って、ルガーノへ行って、ヴィラへ来た。代表にも呼ばれた。毎回初めての環境に飛び込んできた」
「今回も同じだ」
「同じだ」エメリーは頷いた。「お前はそういう選手だ」
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立ち上がろうとしたとき、エメリーが言った。
「一つだけ言っておく」
ニコラスは待った。
「二年間、お前は俺の要求に応え続けた」エメリーは言った。「言語化しろと言い続けた。やかましかったと思う」
「やかましかった」とニコラスは言った。
エメリーは少し笑った。珍しかった。
「でも一番応えたのはお前だった。チームの中で」
ニコラスは少し間を置いた。
「それはワトキンスも同じだ」
「そうだ」エメリーは言った。「でも今日はお前に言っている」
ニコラスは頷いた。
「ワールドカップで結果を出せ。来季また始まる」
「わかった」
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監督室を出た。
廊下は静かだった。
エメリーが二年間求め続けたものの意味が、今日初めて全部繋がった気がした。
言語化は目的ではなかった。言語化して、伝えて、チームを動かす。それが目的だった。
ニコラスはそれをまだ完全にはできていなかった。
でも次に何をすべきかは、今日初めてはっきり見えた。
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