代表――招集
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六月の第一週、イングランド代表の2030年ワールドカップ最終メンバー二十六人が発表された。
ゾーイからメッセージが来る前に、ニコラスはスマートフォンで自分の名前を確認した。
ロメロ、N. アストン・ヴィラ。
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ゾーイから電話が来た。
「おめでとうございます。ワールドカップです」
「わかってる」
「嬉しくないんですか」
ニコラスは少し考えた。
「嬉しい。ただ実感がない」
「まあ、そうですよね」ゾーイは笑った。「でも世間はすごいことになっていますよ。検索量が今朝だけで去年の最高値を超えました」
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イングランドは強力なスカッドだった。
キャプテンはデクラン・ライス。三十一歳、プレミアを知り尽くした中盤の軸だった。ジュード・ベリンガムは二十六歳になっていた。ユーロ2024でゴールを決め続けた男が、今度はワールドカップへ向かう。
サカは二十八歳。ニコラスが代表デビューしたとき、「ゴールが楽しい」という会話をした相手だった。あれから三年、二人ともここにいた。
フォーデンは二十九歳。パーマーは二十七歳。メイヌーは二十四歳。
そしてニコラスは二十一歳だった。
二十六人の中で最年少から三番目だった。
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代表合宿はセント・ジョージ・パークだった。
ニコラスが最初にここに来たのは三年前だった。ルガーノにいたとき、十八歳で招集された。あのときは全てが速くて、全てが大きかった。
今回は違う感覚で施設に入った。知っている場所だった。
廊下で声がかかった。
「ニック!」
アリスターだった。マンチェスター・ユナイテッドのトレーニングウェアを着て、変わらない顔で笑っていた。
「お前もいるか」とニコラスは言った。
「当然だろ」アリスターは言った。「今季十一本取ったんだぞ」
「九本だ」
「うるさい」アリスターは笑った。「とにかく、一緒にワールドカップだ」
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食堂で夕食を取っていると、ベリンガムが向かいに座ってきた。
「ロメロだろ」とベリンガムは言った。「最終節のPK、見てたぞ」
「そうか」
「あの場面で動じないのはすごい」ベリンガムはフォークを動かしながら言った。「俺でも少し緊張する」
「少し緊張した」とニコラスは言った。
ベリンガムは少し笑った。「正直だな」
「緊張しなかったら嘘になる」
「まあそうだ」ベリンガムは頷いた。「でも蹴る前に決めていた、という顔をしていた。それが伝わってきた」
ニコラスは少し間を置いた。
「右に蹴ると決めていた。それだけだった」
「シンプルだな」ベリンガムは言った。「俺はPKが一番嫌いだ。考えすぎる」
少し間があった。
「去年のCL、覚えてるか」とベリンガムは言った。
「覚えている」
「準々決勝、ヴィラと当たった」ベリンガムは言った。「あのときのお前、まだ一年目だったのに全然臆してなかった。レアルのDFが苦労してた」
「負けた」
「そうだ、レアルが勝った」ベリンガムは言った。「でもあのシリーズ、ヴィラは本当に際どかった。今年のヴィラだったらわからなかったかもしれない」
「来年また当たるかもしれない」とニコラスは言った。
ベリンガムは少し笑った。「CLで当たるのは勘弁してくれよ。代表では一緒だから」
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翌日の練習で、メイヌーが話しかけてきた。
「ロメロ、今季プレーを何回か見た」とメイヌーは言った。「あの反転シュート、どうやってるんだ」
「DFの重心を感じて、反転する」
「感じる、か」メイヌーは少し考えた。「体で覚えるやつか」
「そうだと思う」
「俺もそういうプレーがある」メイヌーは言った。「狭いスペースで体を入れ替えるやつ。説明できないけど、体が勝手にやる」
「同じだ」とニコラスは言った。
メイヌーは少し笑った。「似てるな、やり方が」
練習が始まった。メイヌーが中盤に入り、ニコラスが前線に入った。
パスが来た。DFが来た。ニコラスが受けた。メイヌーが走り込んできた。ニコラスがポストで落とした。メイヌーがスペースに持ち出した。
一つ目のパスで、何かが合った。
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練習後、サカが近づいてきた。
「久しぶりだな」とサカは言った。「三年前とは全然違うな、お前」
「そうか」
「あのときのお前は、ピッチの外でどう振る舞っていいかわからない感じがあった」サカは言った。「今は違う」
「言葉を覚えた」とニコラスは言った。
サカは少し笑った。「インタビューで言ってたやつか」
「そうだ」
「どういう意味なんだ、あれ」サカは聞いた。
ニコラスは少し考えた。
「ピッチで起きていることを、言葉にして確認できるようになった。それだけだ」
「なるほどな」サカは頷いた。「俺は逆に、言葉にしすぎて考えすぎることがある。お前みたいに体が先に動くタイプが少し羨ましい」
「でもお前の方が周りに伝えられる」
「そうか?」
「ピッチでの声が多い。みんながお前を見て動いている」
サカはそれを聞いて、少し間を置いた。
「それはチームが長いからかもしれない」サカは言った。「お前もそうなると思う」
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夜、パーマーがロビーにいた。
スマートフォンを見ながら、一人でソファに座っていた。
ニコラスが通りかかると、パーマーが顔を上げた。
「ロメロ」とパーマーは言った。「隣いいか」
ニコラスは頷いた。パーマーが隣に座った。
「メイヌーと仲良さそうだったな、練習で」とパーマーは言った。
「パスが合った」
「あいつと息が合う選手、代表では少ない」パーマーは言った。「プレースタイルが特殊だから。でもお前は合ってた」
「お前はどうなんだ」
「俺とメイヌーは合う」パーマーは笑った。「チェルシーに来てくれれば一番いいんだけど、まあユナイテッドだし」
ニコラスは少し笑った。
「笑うじゃないか」とパーマーは言った。「ちょっと驚いた」
「何が」
「お前、笑うんだな」
ニコラスは少し間を置いた。
「笑う」
パーマーはそれを聞いてまた笑った。「まあそうだよな。人間だもんな」
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ライスがチームメイト全員を集めたミーティングがあった。
「ワールドカップ、取りに行く」ライスは言った。「俺たちの代で取る。それだけだ」
短かった。それだけだった。
でも部屋の空気が変わった。
ニコラスはその空気を感じた。
ユーロ2024の決勝でスペインに負けた。その悔しさをこの部屋の全員が持っていた。
自分はその試合を見ていた側だった。でも今日から同じ側にいる。
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練習の最後に、フォーデンが隣に来た。
「ルガーノからずっと見てたぞ」とフォーデンは言った。「あのころから、ちょっとおかしいと思ってた」
「おかしい」
「誉め言葉だ」フォーデンは笑った。「プレーの感覚がおかしい、という意味だ。普通の選手は見てから動く。お前は動いてから見てる感じがする」
「そういう感覚がある」
「それを二十一歳でやってるのがおかしい」フォーデンは言った。「俺は二十一歳のとき、まだそこまでできなかった」
ニコラスはフォーデンを見た。
「お前は今どうなんだ」
「今は」フォーデンは少し考えた。「見て動くと動いてから見るが、半々くらいになってきた」
「それがチームを動かせるということか」
フォーデンは少し間を置いた。
「そういう言い方、誰かに教わったか」
「エメリーだ」
「エメリーか」フォーデンは頷いた。「あの監督のもとで二年プレーしたら、そうなるか」
「言語化が速くなる」
「なるほどな」
フォーデンはボールを蹴りながら、少し笑った。「ワールドカップ、お前のプレーが楽しみだ」
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