アリスター――オフシーズン
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七月の初旬、アリスターはマンチェスターの自宅にいた。
今季の数字を頭の中で整理した。
リーグ戦出場三十一試合。ゴール九本。アシスト八本。
十本を目標にしていた。一本届かなかった。
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ロングシュートが武器になった。
去年の五月、ニコラスとヴィラのグラウンドで練習した。あのとき教わったわけではなかった。ニコラスの練習を見て、自分は違うやり方でやると決めた。頭の処理を速くする。走りながら判断する。止まらずに打つ。
一年かかった。
プレシーズンで形になって、シーズン中に試合で決まるようになった。二月のヴィラ戦で決めたとき、ニコラスが通路で「頭より体が先に動いていた」と言った。それが一番の確認だった。
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ユナイテッドでの四年目が終わった。
一年目は出場機会が少なかった。二年目は安定してきた。三年目で数字が出た。
でも今季、ユナイテッドは八位で終わった。
タイトルはなかった。
ニコラスはプレミア優勝した。カラバオも取った。
アリスターはその結果をスマートフォンで確認した。最終節の翌日だった。
悔しかった。でも悔しさの種類が去年と違った。去年は「あいつが先に」という悔しさだった。今年は「自分もここまで行きたい」という悔しさだった。
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ニコラスからメッセージが来たのは、最終節から三週間後だった。
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@nicholas.romero9:
チェスターフィールドに帰った。
テリーがお前のことを話していた。
今季九本、知っているか。
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アリスターは少し笑った。
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@alistair_wood7:
知ってるよ笑
テリーはいつまでも俺たちのこと話すよな
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@nicholas.romero9:
ずっと話すだろう。
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@alistair_wood7:
まあいいか
来季はユナイテッドでタイトル取りに行く
ニックはヴィラに残るの?
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@nicholas.romero9:
残る。
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@alistair_wood7:
じゃあまたリーグで当たるな
今度は負けないよ
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@nicholas.romero9:
そうはいかない。
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アリスターはそれを見て笑った。
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来季、ユナイテッドにいる。
タイトルを取りに行く。得点とアシストの数字を上げる。CLにも出る。
でも一つ決めていることがあった。
今季九本のうち、ロングシュートで決めたのは四本だった。残りはエリア内からだったり、こぼれ球だったり、セットプレーだったりした。でもロングシュートという選択肢が加わったことで、相手の守備が変わった。エリア外でボールを持ったとき、DFが距離を取るようになった。その分、エリア内へ入る回数も増えた。来季は違う武器を一つ増やす。
ニコラスは毎年新しいものを積み上げていた。反転シュート、言語化、チームの中での役割。自分も同じようにやる。違うやり方で。
チェスターフィールドから来た。でもそこから先の道は、二人それぞれだった。
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七月の終わり、プレシーズンが始まった。
アリスターはグラウンドに出た。
新しいシーズンが始まる。
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